ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2025年1月24日

国環研のロゴ
世界初の無脊椎動物(ミジンコ)を用いた内分泌かく乱作用検出のための国際標準化試験法
—日本が取りまとめたOECDテストガイドラインが採択・公表されました—

(筑波研究学園都市記者会配布)

2025年1月24日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所

 

 国立環境研究所環境リスク・健康領域では、環境省プログラム「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2022-」の一環として、メダカやミジンコを用いた化学物質の内分泌かく乱作用を検出する手法の国際標準化を進めています。このたび、日本が提案した、ミジンコの一種であるオオミジンコを用いた試験法が、2024年4月の経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の会議で採択され、同年6月に公表されました。
 この試験法は国立環境研究所が開発した、オオミジンコを用いて甲殻類や昆虫などに特有の幼若ホルモンを迅速に検出する「オオミジンコ幼若ホルモン作用短期スクリーニング試験(JHASA)」であり、OECDテストガイドラインNo. 253として新たに公表されたもので、無脊椎動物を用いて内分泌かく乱作用を検出する世界で初めてのOECDテストガイドラインです。

 

1. 試験法開発の目的とOECDテストガイドラインの採択・公表の経緯

工業化学物質や農薬などの化学品の環境生物への安全性評価では、メダカやコイなどの魚類、微細藻類に加え、無脊椎動物として枝角目(ミジンコ類)が広く用いられています。このミジンコ類は、図1に示すように通常はメスがメスを産生する単為生殖が行われていますが、日照や温度、密度などの環境条件が変化するとオスが産生され、メスとの交尾(有性生殖)によって休眠卵を産生することで極端な乾燥や低温にも適応してきました。2003年当時、国立環境研究所に所属していた鑪迫典久博士(現:愛媛大学)らは、甲殻類や昆虫などの成長や変態、繁殖を制御する役割を果たす「幼若ホルモン」やその類似構造を持つ一部の農薬によって、ミジンコの一種として広く安全性評価に用いられているオオミジンコ(学名Daphnia magna)がオスを産生することを見出しました(Tatarazako et al., Chemosphere, 53(8):827-33, https://doi.org/10.1016/S0045-6535(03)00761-6, 2003年)。この作用を利用して、既存の21日間ミジンコ繁殖試験(OECDテストガイドラインNo.211)に、幼若ホルモン作用を有する物質を検出する手法として、産生する仔虫の雌雄判別を追加することを日本から提案し、ガイダンス(Annex 7)として2008年に採択されています。

ミジンコの単為生殖と有性生殖の模式図
図1 ミジンコの単為生殖と有性生殖の模式図

しかしながら、このミジンコ繁殖試験のAnnex 7では、生後24時間以内の仔虫から開始し、21日間で1000匹から2000匹にも及ぶ仔虫が産出されるため、全ての雌雄判別は非常に労力がかかります。そこで、より短期間かつ簡易に試験を実施するため、オオミジンコの成熟個体を用いて、約1週間で産まれた仔虫の一部について雌雄を観察する短期試験法の開発に成功しました(Abe et al., J Appl Toxicol, 35, 75-82, https://doi.org/10.1002/jat.2989(外部サイトに接続します)、2014年)。これは、ミジンコの性別決定が卵巣から育房へ排出される直前の短時間に起こることを利用したものです。この試験法の有効性及び再現性等の検証を目的に、ミジンコに対する幼若ホルモン作用が疑われる化学物質を用いた検証試験を実施したほか、2016年にOECDに試験法テストガイドラインとして日本から提案し、国内4機関及び海外2機関とのリングテストを実施してきました。OECD専門家との議論を踏まえて、様々な物質での評価や化学物質以外の環境要因(温度、日照、密度)などの影響について検証を行った上で、2024年4月のOECD会議で採択され、OECDテストガイドラインNo. 253(以下「OECD TG253」という。)として同年6月に公表されました。

2. 採択・公開されたOECD TG253の概要

OECD TG253は図2のとおり、幼若ホルモン作用の疑われる化学物質が含まれない溶液(対照区)と、異なる3濃度区になるように調製した溶液をそれぞれ50mLから100mL入れた容器を10個ずつ用意し、各容器にミジンコの抱卵個体(10日齢から17日齢)を1匹ずつ導入して、2腹目の仔虫の性別(化学物質によるオスの産生)を調べるものです。オス・メスは顕微鏡下で第一触覚の長さ(オスは長い)で判定を行うことができます。

OECD TG253 (JHASA)の一連の手順の概要の図(環境省ホームページ「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応—EXTEND2022—」より引用)
図2 OECD TG253 (JHASA)の一連の手順の概要(環境省ホームページ「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応—EXTEND2022—」より引用)

3. 今後の展望

幼若ホルモン作用を有する物質として、本来は昆虫などが有する幼若ホルモンそのもののほか、農薬や精油成分の一部等が指摘されています。このOECD TG253 (JHASA)は、内分泌かく乱化学物質の標準試験法ガイドラインに関するOECDガイダンス文書No. 150において、Level 3(特異的な内分泌かく乱作用の検出試験)の試験として位置づけられています。環境省が進める「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2022-」においては、幼若ホルモン活性作用を有する化学物質の第一段階生物試験としての利用も検討されていて、確定のための第二段階生物試験のOECD TG211 Annex 7(複数の内分泌作用に関するデータを示す生物試験:OECD Level 4)や幼若ホルモン受容体への応答をみる第一段階試験管内試験(作用メカニズムに関する情報を示す試験管内試験:OECD Level 2)などとともに、農薬や精油成分以外にも様々な化学物質の幼若ホルモン作用を迅速かつ効率的に検出するのに役立つことが期待されます。ミジンコの場合は、幼若ホルモン作用によりオスを産出しますが、昆虫やエビやカニなどの他の甲殻類では成長や変態をかく乱することで致死や繁殖阻害を引き起こす可能性があります。本試験によって幼若ホルモン作用を持つ物質を検出して適切に管理することで、ミジンコ以外の甲殻類や昆虫などの保全にもつながると考えられます。
また、この試験法は、幼若ホルモンを抑えるはたらきを示す抗幼若ホルモン作用を有する物質や、昆虫や甲殻類に特異的なもう一方のホルモンである脱皮ホルモン検出には、有効ではありません。今後は、これらの物質の検出試験法の整備も期待されます。

4. 公表された試験法

【タイトル】
OECD Guidelines for the Testing of Chemicals No. 253: Short-term juvenile hormone activity screening assay using Daphnia magna (JHASA)

【URL】https://www.oecd-ilibrary.org/environment/test-no-253-short-term-juvenile-hormone-jh-activity-screening-assay-in-daphnia-magna_03cb5c08-en(外部サイトに接続します)

5. 環境省の報道発表

【URL】https://www.env.go.jp/press/press_04258.html(外部サイトに接続します)

6. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
環境リスク・健康領域生態毒性研究室
主任研究員 渡部春奈
環境リスク・健康領域生態毒性研究室
室長 山本裕史

7. 問合せ先

【試験法に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域
領域長 山本裕史

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

関連新着情報

関連記事

表示する記事はありません

関連研究報告書

表示する記事はありません