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2011年6月30日

国内外の地球環境政策立案に資する研究展開を

【地球環境研究センターの紹介】

笹野 泰弘

 第2期中期計画において地球環境研究センターでは、地球環境の戦略的なモニタリング(大気・海洋モニタリング、陸域モニタリング)、地球環境データベースの構築、地球環境研究の総合化・支援の業務を継続的に行うと同時に、研究所の4つの重点研究プログラムの1つである「地球温暖化研究プログラム」を主として担い、さらに基盤的な調査・研究として多くの課題について研究を進めてきました。「運営費交付金」に加えて、各種の外部資金の獲得に努め、研究を総合的、多面的に実施してきました。

 また、環境省、宇宙航空研究開発機構との共同事業として実施している温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT:愛称「いぶき」)プロジェクトに関して、科学的側面からの支援を行うとともに、「国環研GOSATプロジェクトオフィス」を設置し、取得されるデータの高次プロダクト(二酸化炭素やメタンのカラム平均濃度、それらの空間分布の時間変化データをもとに推定される地域別の吸収排出量分布)作成のためのデータ処理運用システムの開発・構築・運用、プロダクトの検証、データ・プロダクトの提供などを行ってきました。

 このほか、「グローバルカーボンプロジェクトつくば国際オフィス」、「地球温暖化観測推進事務局(環境省/気象庁)」、環境省による温室効果ガス排出・吸収量目録(インベントリ)策定業務を担当する「温室効果ガスインベントリオフィス」の運営など、国内外の研究活動の基盤となる事業についても力を注いできました。

 第3中期目標・中期計画においては、地球環境研究センターが担う地球環境研究分野は、「地球環境の現況の把握とその変動要因の解明、それに基づく地球環境変動の将来予測及び地球環境変動に伴う影響リスクの評価、並びに地球環境保全のための対策に関する調査・研究を実施する」こととされています。また、「基礎研究から課題対応型研究まで一体的に推進するとともに、分野間の連携も図りつつ実施し、目標の達成を図る」とされていることから、他分野・他センターの研究者の協力を得て、その任務を果たすこととしています。

 第3期では、前期に続き重点研究プログラムとされた「地球温暖化研究プログラム」に、力を注ぎ研究を進めることとしています。このプログラムは次の3つのプロジェクトから構成されます(図1参照)。1.温室効果ガス等の濃度変動特性の解明とその将来予測に関する研究(観測的研究)、2.地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究(リスク研究)、3.低炭素社会に向けたビジョン・シナリオ構築と対策評価に関する統合研究(低炭素社会研究)。このうち、リスク評価や適応策・緩和策、低炭素社会づくりなどに関しては、社会環境システム研究センターとの強い連携のもとに研究を推進します。特に本年3月に発生した大地震・大津波による被害からの復興と、原子力発電の安全性やエネルギーに関する議論が高まる中で、いかにして低炭素社会を構築していくのか、将来に向けた方策の見直しが必要となっています。

プログラム構成図(クリックすると拡大表示されます)
図1 地球温暖化研究プログラムの構成

 このほか、「GOSAT」プロジェクトに関し引き続き研究と事業の両面から貢献するとともに、「成層圏オゾン層研究プロジェクト」をセンター独自のプロジェクトとして実施する予定です。

 大気・海洋モニタリング、陸域モニタリング、地球環境データベース等のセンター事業は、従来の事業を継続しつつ、さらに発展的に実施していきます(図2参照)。特に、地球環境モニタリングに関しては、予算状況や温暖化影響に対するモニタリングの重要性に鑑み、一部の事業を縮小し、その一方でこれまで予備的に行ってきた温暖化影響に関するモニタリング2件を本格的に開始します。ひとつは、ディジタルカメラ画像解析による高山帯植生の生物季節(フェノロジー)に関するモニタリング、他方は分布北限域にあたる造礁サンゴ分布とそれに共生する褐虫藻の変化の長期モニタリングです。このほか、前述の各種のオフィス事業など、国内外の研究活動の基盤となる事業についても、地球環境研究の中核機関たることを意識して引き続き実施していきます。

概要図(クリックすると拡大表示されます)
図2 地球環境モニタリングの概要

 地球環境研究、とりわけ気候変動(地球温暖化)研究の特質は、対象が地球規模であることですが、その一方で、個々のプロセス研究においては局所的なスケールでの観測研究が必須でもあります。また、時間的には10数年から100年というスケールで気候変動とそのリスクの評価を行い、短期的および中長期的な温暖化対策を検討する必要がある一方、もっと短い季節・年スケールの気象・環境変動のもとでの自然現象の変化を捉え、地球環境をかたち作る地球システムにおける物質循環や物理化学的な理解を深めることも重要な課題です。

 地球環境研究センターで実施する研究だけで、これらのすべてをカバーすることは到底できるものではなく、国内外の大学や研究機関との協力を得つつ、国際的な研究コミュニティの中でその役割を十全に発揮していきたいと考えています。また、これらを通して、国内外の地球環境政策(気候変動対策)に対して必要とされる科学的知見を提供していくと同時に、国民の皆様に対する最新の知見・正しい知識の普及に努めてまいりたいと考えています。

 これまで同様に、地球環境研究センターの研究・事業活動に格段のご支援をお願いする次第です。

(ささの やすひろ、地球環境研究センター長)

執筆者プロフィール:

執筆者の笹野泰弘の顔写真

東日本大震災を受けて、地球環境研究分野の研究者は何をもってその復旧・復興に貢献できるのだろうかと自問し、その答えを見つけるのに苦しんでいます。すぐにでも復旧を必要とする中で、将来の低炭素社会・循環社会構築の理念だけを語っていてよいはずはありません。希望に満ちた将来に向けて、具体的な青写真作りが早急に必要とされています。

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