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2021年8月31日

「気候変動適応の推進に向けて」

特集 不確実な未来への備えを科学する「気候変動適応」研究プログラム

肱岡 靖明

 本特集では、国立環境研究所が取り組む気候変動適応に関する研究の全体像を「気候変動適応研究プログラムの概要」で、この研究プロジェクトの要となる気候シナリオの開発の一端を「統計的ダウンスケーリングによる日本の気候シナリオ」で紹介するとともに、適応策の事例として「生態系を活かした気候変動適応:EbA」を解説します。また、気候変動による水稲への影響に関する調査を「シミュレーション研究者、田んぼに行く!!」で、気候変動適応法に関連する活動として「気候変動適応情報プラットフォームA-PLAT)」を紹介します。

 地球温暖化の原因となる温室効果ガス濃度は、産業革命の時代と比べて大幅に上昇しています。世界の気温変化も上昇傾向にあり、特に1990年代半ば以降は高温となる年が多くなっています。世界的な傾向と同様に日本の気温も上昇傾向にあり、全国の年平均気温は1980年頃から急速に上昇し、特に1990年代以降になると極端に高温を記録する年が増えています。このような温暖化によって引き起こされる気候変動の影響が広く世界で顕在化しつつあります。日本でも、至るところで極端に暑い夏やこれまで経験したことのない集中豪雨や土砂災害に見舞われるようになりました。また、水資源や生態系、農林水産業といった様々な分野にも影響が現れてきています。

 地球温暖化の対策には、温室効果ガスの排出量を削減する、または植林などによって吸収量を増加させる「緩和」と、自然生態系や社会・経済システムを調整することにより気候変動の悪影響を軽減する、または気候変動の好影響を増長させる「適応」に大別できます。温室効果ガスの排出を抑制する緩和の推進は待ったなしの状況です。しかしながら、緩和を推進しても一定程度の温暖化が避けられない状況下において「適応」も重要となります。

 日本では、気候変動適応法が2018年12月1日に施行されました。これに繋がる最初の取り組みは、2013年7月に中央環境審議会地球環境部会の下に設置された気候変動影響評価等小委員会における影響評価です。この影響評価では、日本において懸念される気候変動影響について、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然災害・沿岸域、自然生態系、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7つの分野、30の大項目、56の小項目が特定されました。またそれらに対して、科学的知見に基づき、重大性(気候変動は日本にどのような影響を与えうるのか、また、その影響の程度、可能性等)、緊急性(影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期)および確信度(情報の確からしさ)の観点から評価が行われました。この科学的知見を活用し、2015年11月、「気候変動の影響への適応計画」が閣議決定されています。

 気候変動適応法は20条から成る4章で構成されています。第10条では気候変動影響の評価について記され、環境大臣は、最新の科学的知見を踏まえ、おおむね5年ごとに、気候変動影響評価を行い、その結果等を勘案して前述の通り適応計画を改定することとしています。

 このとき、実効性のある気候変動適応の推進のためには、現在および将来の気候変動・気候変動影響・気候変動適応に関する正確な情報が必要です。気候変動適応研究プログラムでは、国が行う気候変動影響評価やIPCCが作成する報告書等に対して科学的知見をインプットし、気候変動適応の推進に役立つことを目的として様々な研究をしているので、次のページ以降で紹介します。

(ひじおか やすあき、気候変動適応センター 副センター長)

執筆者プロフィール

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最近、ようやく夏の暑さや冬の寒さ、降り続く雨のグラウンドに適応できるようになりました。好きなものは、ビヨンドマックス。苦手なものは、12時を過ぎる会議と13時に始まる会議。モットーは、「来た球は振れ」。今年は自身2度目の学園リーグ優勝を目指します!

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