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2011年4月6日


北極圏上空で史上最大のオゾン破壊が進行中
—ヨーロッパやロシアの一部が影響下に—

(筑波研究学園都市記者会配付 )

平成23年4月6日(水)
独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター
地球環境データベース推進室長 中島英彰(029-850-2800)
地球大気化学研究室主任研究員 杉田考史(029-850-2460)

 北極圏における15カ国・30か所のオゾンゾンデ*1 観測点における観測により、この冬から春にかけて史上最大となるオゾン破壊が進行中であることが明らかになりました。モントリオール議定書に始まるフロン類の排出規制の効果により大気中の活性塩素量はすでに減少に転じていますが、今冬の北極圏上空で異常低温が継続しているため、これまでにないオゾン破壊が進行しています。国立環境研究所では1996年から、ドイツ・アルフレッドウェーゲナー研究所が主導する北極上空のオゾン層モニタリング観測に参加してきています。

 なお、本研究結果は、4月3日からオーストリア・ウィーンで開催中の「ヨーロッパ地球物理学連合大会」で報告され、世界15カ国で同時に報道発表される予定です。

*1 オゾンゾンデ:オゾンを測定する装置を載せた気球によって、地表付近から地上約35kmまでのオゾン量を直接観測する機器。

1. 背景

 1984~85年にかけて、日英の科学者により南極上空の成層圏にオゾンホールが発見されて以降、モントリオール議定書に始まる国際的な取り組みにより、フロン等の生産・放出が規制されてきた。そのため、オゾンを破壊する元となる大気中の活性塩素の総量は、2000年前後をピークに減少に転じたことが報告されている。ただし、南極オゾンホールに関しては、まだ統計的に明らかなレベルで回復に転じたという報告はない。
一方北極圏の成層圏に関しては、海陸分布の違いから南極に比べて冬季でも10度くらい気温が高いおかげで、南極ほど顕著なオゾン破壊がこれまで起きてこなかった。それでも、1996年、1997年、2000年、2005年など北極上空の成層圏が低温で推移した年には、南極オゾンホールと比べると小規模ながら、北極上空でもオゾンホール的な状況が現れていた。それが今冬、史上最大のオゾン破壊が北極上空で進行中であることが明らかとなった。

2.2011年北極圏成層圏におけるオゾン破壊の概要

 1992年から、ドイツ・アルフレッドウェーゲナー研究所を中心に、北極圏高緯度・中緯度に位置する各国の協力のもと、オゾンゾンデを用いたオゾン層モニタリングが実施されてきた。最近では、約30地点において、オゾンゾンデ観測が実施されている。日本においても、国立環境研究所を中心に、1996年より北海道、及びロシア・シベリアの2地点(ヤクーツク・サレハルド)において、このオゾンゾンデ・ネットワーク観測に参加している。この冬の北極圏におけるオゾンゾンデ観測から、これまでに見られたことのなかった大規模なオゾン破壊が確認された。

 このオゾン観測ネットワークによると、北極上空からスカンジナビア半島にかけての極渦*2 内に、これまで観測された中では最大規模のオゾン破壊が観測されていることがわかった。また、この低オゾン領域が今後ロシアの方に向かって東に移動していき、中国・ロシア国境付近にまで達するであろうことが、気象モデルから予測されている。このような大規模なオゾン破壊が確認されたのは、1992年にオゾンゾンデ観測キャンペーンを開始して以降初めてである。また、1965年以降の北極圏成層圏における気象状況と、これまで大気中で観測されているCFC(クロロフルオロカーボン)量の推移を併せて考えるに、今冬のオゾン破壊量は、これまでの歴史上最大であるということが推測される。

 図1に、米国の人工衛星Aura(オーラ)に搭載された、オゾン観測センサーOMI(オーミ)によって観測された、2011年4月1日の北極上空でのオゾン鉛直カラム全量のマップを示す。ヨーロッパ~ロシア北部に、水色で示されたオゾン全量300 DU以下の領域が、ノルウェー北部~スピッツベルゲン島付近には250 DU以下の濃い青色の領域が確認できる。WMOによると、今冬初めから3月下旬までの北極上空におけるオゾン全量の破壊量は40%に達し、これまでに観測された最大値である30%をすでに上回っている。

*2 極渦: 北極・南極上空の成層圏に冬季にできる、低気圧性の渦。冬季の強い西風の極夜ジェット気流に囲まれるため、低緯度からの暖気気流の流入が妨げられ、冬季には太陽光も当たらなくなるため加熱もなくなり、極渦の内部ではオゾンの破壊を引き起こすもととなる低温状態が維持される。

3.今後の展望

 成層圏の中期予報によると、北極上空の低温や極渦は今後1週間程度は継続するが、4月半ばには春の訪れとともに極渦が崩壊することが予測される。その際、極渦の中にとどまっていた低オゾンの空気塊が、日本などの中緯度地方にも影響を及ぼす可能性がある。実際これまでにも数回、極渦に由来する空気塊が、北海道やつくばの上空で観測されたことがある(1997年4月、2005年3月等)。その際には、普段より強い紫外線量が観測される可能性がある。

 温室効果ガスの近年の増加に伴い、成層圏では寒冷化することが想定されている。それに伴い、大規模なオゾン破壊を引き起こすもととなる状況が、今後北極圏上空で増える事態も懸念される。南極オゾンホールの回復状況とともに、今後は北極上空の様子にも、より注視していく必要がある。

今回の研究に関わった国際組織(15カ国:ドイツ以外はアルファベット順)

ドイツ: Alfred Wegener Institute (プロジェクト主催研究所)
ベルギー: Royal Meteorological Institute of Belgium
カナダ: Environment Canada
チェコ: Czech Hydrometeorology Institute
デンマーク: Danish Meteorological Institute
フィンランド: Finnish Meteorological Institute
フランス: French National Center for Scientific Research (CNRS)
ギリシャ: University of Thessaloniki, University of Athens, Academy of Athens
イギリス: European Ozone Research Coordinating Unit, University of Cambridge
日本: 国立環境研究所
ノルウェー: Norwegian Institute for Air Research (NILU)
ロシア: Central Aerological Observatory
スペイン: Instituto Nacional de Tecnica Aeroespacial (INTA)
スイス: MeteoSwiss
アメリカ: NASA/Godard Space Flight Center, University of Maryland

図1アメリカの人工衛星Aura搭載オゾン観測センサーOMIによる、2011年4月1日北極上空のオゾン全量の分布
図1 アメリカの人工衛星Aura搭載オゾン観測センサーOMIによる、2011年4月1日北極上空のオゾン全量の分布。ヨーロッパ〜ロシア北部に、水色で示されたオゾン全量300 DU以下の領域が、ノルウェー北部〜スピッツベルゲン島付近には250 DU以下の領域が確認できる。

問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所
  地球環境研究センター 地球環境データベース推進室長 中島英彰
  Tel: 029-850-2800

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