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2016年1月11日

2090年代の世界平均気温変化予測の不確実性を、
2050年までに大幅に低減できることを解明(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配布)

平成28年1月11日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
 地球環境研究センター
  主任研究員 塩竈秀夫
  室長    江守正多
  特別研究員 石崎安洋
 社会環境システム研究センター
  主任研究員 高橋潔
Computational Research Division
 Lawrence Berkeley National Laboratory, USA

  Research Scientist  Dáithí Stone
東京理科大学 理工学部経営工学科
  教授 森俊介
東京大学 大学院総合文化研究科
  教授 前田章
Environmental Change Institute
 University of Oxford, UK

  Professor  Myles R. Allen
 

   現在の気候モデルによる将来気候変動予測には大きな不確実性があり、気候変動対策を考えるためには予測の不確実性の幅をより小さくすることが求められます。これまでも、気候モデルによる過去の気候再現実験データを観測データと比較し評価することで、将来予測の不確実性を低減しようという試みが行われてきました。
   国立研究開発法人国立環境研究所の塩竈秀夫主任研究員らは、複数の気候モデルの実験結果を分析し、今後観測データが蓄積することで、世界平均気温の予測不確実性をいつまでにどれだけ低減できるかを予測しました。その結果、地上気温の観測データ2050年まで蓄積することによって、2090年代の気温変化予測の不確実性を60%以上低減できることがわかりました。
   本研究によって初めて「将来予測の不確実性をいつまでにどれだけ低減可能か」に関する現実的な情報を提示することができました。今後は、本研究の結果をもとに、温室効果ガス排出削減策にどのようなオプションが得られるか(2050年までは予測の上限を参考に排出削減を進めるが、不確実性が減ったら政策を変更する等)を、研究していく予定です。
   本論文は、1月11日付で英国科学誌「Scientific Reports」に掲載される予定です。
 

1.背景

   図1に、「気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書(IPCC AR5)」に貢献した15の気候モデルの、4つの温室効果ガス排出シナリオ(温室効果ガスの排出量が多い順にRCP8.5, RCP6, RCP4.5, RCP2.6)における世界平均気温変化予測の不確実性幅を示します。同じ排出シナリオに対しても、世界平均気温変化の将来予測には気候モデル間で大きな幅(モデル不確実性)があることがわかります。例えば、COP21で合意された世界平均気温変化を2℃または1.5℃以下に抑えるための排出量削減策(緩和策)を考える際には、モデル不確実性の上限と下限では、必要な削減量が異なり、コストの見積もりにも大きな差が生じます。そのため、予測のモデル不確実性を低減することが急務となっています。

   これまでに、モデルによる過去気候再現実験データと実際の観測データの比較結果から、モデルの将来予測を補正し、不確実性を低減する研究が行われてきました(詳細は後述)。先行研究では、過去の観測データが蓄積することによって、不確実性低減が進むことが示されてきました(Stott and Jones 2012)。一方、将来の観測データが今後追加されることによって、いつまでに、どれだけ不確実性が低減できるかは十分に調べられてきませんでした。我々は、将来の観測データによる不確実性削減の効果を推定する方法を開発し、世界で初めて「将来予測の不確実性低減に関する現実的な予測」を提示しました。

図1
世界平均10年平均気温変化(℃)。1900-1919年平均からの差。RCP2.6(青)、RCP4.5(緑)、RCP6.0(赤)、RCP8.5(黒)排出シナリオにおける気候モデル実験から得られた、世界平均気温変化予測の不確実性幅を示しています。

2.手法

   我々はASK法(Allen, Stott, Kettleborough法)と疑似観測法と呼ばれる2つの手法を組み合わせることで、将来の観測データによる不確実性低減効果を見積もりました。

   ASK法(Allen et al. 2000, Stott and Kettleborough 2002)では、まず気候モデルの19世紀から近年までの過去気候再現実験データと観測データの気温変化を比較します。そして、各気候モデルについて、過去の気温変化の過小または過大評価の程度を示す補正係数を求めます。この補正係数は、単一の数値ではなく、不確実性の幅を持ちます。気候モデルが過去の変化を過小・過大評価していた場合、将来の気候変化も過小・過大評価するものと考えられます。そのため、気候モデルの将来予測に補正係数を掛けることで、より信頼性が高く、かつ不確実性の幅を持つ予測(ASK予測と呼ぶ)を得ることができます。観測データが蓄積すると、より強い温暖化シグナルを含むデータが増えるため、補正係数の不確実性幅が狭まり、ASK予測の不確実性幅も小さくなります。これまでに2000年までの地上気温観測データを用いた場合よりも、2010年までの観測データを用いた場合の方が、不確実性幅が狭まることが示されてきました(Stott and Jones 2012)。

   ASK法を用いる場合、将来さらに観測データが蓄積されれば、不確実性幅をより狭めることができると期待されます。この将来の観測データの効果を推定するために、疑似観測法を用います。疑似観測法では、多くの気候モデルの実験のうち、1つのモデル(モデルA)の過去気候再現実験および将来予測実験の結果を「疑似観測データ」と考えます。この疑似観測データと「モデルA以外のモデルの平均」をASK法で比較し、ASK予測の不確実性幅を見積もります。この方法を用いれば、現在の地上気温観測網が維持されると仮定して、20XX年までの観測データが得られた場合に、その将来である20YY年代気温変化予測の不確実性低減効果を見積もることができます。また、疑似観測データの20YY年代気温変化( “正解”)が、ASK予測の不確実性幅に含まれるかを確認することで、ASK予測の予測可能期間(何年先まで不確実性幅が正解を含むか)を調べることができます。

   以上の方法を用いて、気温変化予測の不確実性を、いつまでにどれだけ低減できるかを評価しました。

3.結果

   図2(a)に、あるモデル(NorESM1-M)のRCP4.5実験を疑似観測データとした場合の例を示します。観測データが2009年、2029年、2049年、2069年と蓄積することによって、“正解”である疑似将来観測データに向かってASK予測の不確実性幅が狭まっていくことが分かります。一方、別のモデル(HadGEM2-ES)のRCP4.5実験を疑似観測データとした場合(図2b)、2009年または2029年までの観測データを用いたASK予測は、”正解“(黒実線)からの外れ幅が広がっていきます。これは観測データが十分でないことと、温室効果ガスの加熱効果と大気汚染物質の冷却効果の相対的比率が2030年代前後で大きく変わることにより、ASK予測が外れたものと考えられます。ただし、観測データが蓄積するほど正解(疑似観測データ)に近寄り、2049年以降のデータが得られれば、正解に向かって不確実性幅が収束していくことがわかります。

図2
(a) ASK法と疑似観測法を適用した不確実性低減の一例。黒実線は、NorESM1-MモデルのRCP4.5実験(世界平均気温変化、℃)を疑似観測データとした例。黒破線はほかのモデルの予測の平均。青線(9)、緑線(29)、黄色線(49)、赤線(69)は、それぞれ2009年、2029年、2049年、2069年までの疑似観測データを用いてもとめたASK予測の10%-90%不確実性幅を表す。観測データが蓄積することによって、正解(黒実線)に向かってASK予測の不確実性幅が狭まっていくことが分かります。 (b) HadGEM2-ESモデルのRCP4.5実験を疑似観測データとした場合の例。この例では、2009年または2029年までの観測データを用いたASK予測は21世紀後半の正解(黒実線)からの外れ幅が広がります。ただし観測データが蓄積するほど外れ幅が小さくなり、2049年以降のデータが得られれば、正しい答え(黒実線)に向かって不確実性幅が収束していきます。

   図3に、観測データの蓄積によって、2090年代の気温変化予測の不確実性を、いつまでに何%狭められるかを示します。全ての気候モデルの実験データを順番に疑似観測データだと考えてASK法を適用し、その結果を平均したものです。2039年までの観測データを用いた場合は、ASK予測が外れる場合があります。一方、2049年までの観測データが(2050年に)得られれば、正解に向かってASK予測は収束し、ASK法を用いない2090年代気温変化予測の不確実正幅(図1の2090年代の不確実性幅)に比して2090年代地上気温変化予測の不確実性幅を6割以上低減できることが分かります。

図3
観測データの蓄積によって、いつまでに予測不確実性を何%狭められるか。横軸は、何年まで観測データが蓄積したか。縦軸は、ASK法を用いない2090年代気温変化予測の不確実性幅(図1の2090年代の不確実性幅)に対して、ASK予測が何%不確実性幅を狭められたかを示します。菱形は、現実の観測データ(Morice et al. 2012)を用いてASK法を適用した場合の、不確実性低減効果の大きさ。点線は、気候システム内のランダムな自然のゆらぎがあることによる不確実性低減の上限であり、ASK法ではこの上限を超えて不確実性を低減することはできません。2039年までは、ASK法による予測は外れる場合がありますが、2049年以降(2049年までの観測データが揃うのは2050年)は“正解”にむかって収束します。

4.今後の展望

   この研究では、地上気温観測網が維持されることによる効果だけを考慮しています。ほかの観測データ情報の取り込み、気候モデルの改良、不確実性をもたらす物理プロセスの理解などにより気候変動に関する将来予測技術が発展すれば、より早く不確実性を低減できるかもしれません。一方、本研究では炭素循環フィードバックの不確実性は考慮できておらず、今後の課題になっています。

   これまでの緩和策研究では、図1に示したような気候モデルの予測不確実性に基づいて、2100年までの緩和策を計算してきました。これは現時点での予測不確実性に関する知見に基づいて、2100年までの緩和策を提示していることになります。実際には、予測不確実性が低減された時点で、その情報に基づいて緩和策を修正すべきです。ごく少数の研究では、「2040年に気温変化予測の不確実性が0になる」といった仮定のもと、不確実性が減る前と後でどのような緩和経路を取るべきかが調べられてきました。しかし、それらの研究で用いられている仮定は、あくまでも理想的なものです。我々は、初めて「将来予測の不確実性をいつまでにどれだけ低減可能か」に関する現実的な情報を提示することができました。今後は、図3に示したような速度で不確実性が低減できると前もって分かっている場合に、緩和策にどのようなオプションが得られるか(2050年までは予測の上限を参考に排出削減を進めるが、不確実性が低下したら政策を変更する等)を、研究していく予定です。

謝辞

本研究は環境省の環境研究総合推進費S-10プロジェクト(地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究)の支援を受けて実施されました。

発表論文

Shiogama H, D. Stone, S. Emori, K. Takahashi, S. Mori, A. Maeda, Y. Ishizaki & M. R. Allen (2016)
Predicting future uncertainty constraints on global warming projections. Scientific Reports
doi:10.1038/srep18903 http://www.nature.com/articles/srep18903
(Open accessですので、無料で入手できます)

参考文献

Allen, M. R., Stott, P. A., Mitchell, J. F. B., Schnur, R. & Delworth, T. L. Quantifying the uncertainty in forecasts of anthropogenic climate change. Nature 407, 617-620, doi:10.1038/35036559 (2000).
Morice, C. P., Kennedy, J. J., Rayner, N. A. & Jones, P. D. Quantifying uncertainties in global and regional temperature change using an ensemble of observational estimates: The HadCRUT4 data set. J. Geophys. Res.-Atmos. 117, doi:10.1029/2011jd017187 (2012).
Stott, P. A. & Jones, G. S, Observed 21st century temperatures further constrain likely rates of future warming. Atmosph. Sci. Lett., 13: 151–156. doi: 10.1002/asl.383 (2012)
Stott, P. A. & Kettleborough, J. A. Origins and estimates of uncertainty in predictions of twenty-first century temperature rise. Nature 416, 723-726, doi:10.1038/416723a (2002).

問い合わせ先

国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センター
気候モデリング・解析研究室 主任研究員 塩竈秀夫
電話:029-850-2252
E-mail: shiogama.hideo(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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