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2017年4月28日

社会の活動を”見える化”する〜エネルギーモニタリング事業と社会実装研究

特集 気候変動の緩和・適応から多様な環境問題の解決に向けて
【調査研究日誌】

芦名 秀一

 2015年にフランス・パリで開催された第21回気候変動条約締約国会議(COP21)では、パリ協定(Paris Agreement)と呼ばれる気候変動に関する国際的な枠組みが採択されました。パリ協定では、世界全体で長期的に温室効果ガス排出量削減へ貢献していくことなどが示されていて、これに基づいた各国の削減努力の強化によって、温室効果ガス排出の少ない低炭素社会への移行を加速させていくことが期待されています。

 日本や世界が低炭素社会に移行していくためにはさまざまな対策を進めることが必要となるのですが、特にエネルギーに関しての取り組みが重要となります。具体的には、再生可能エネルギーなどの温室効果ガスを排出しないエネルギー源の導入とともに、エネルギー需要を減らしていくこと(省エネルギーを進めること)が肝要ですが、これらを効果的に進めるためには「エネルギーをどこでどれだけ使っているか」を把握しなければなりません。

 エネルギーをどこで使っているかというと、エネルギーは社会のさまざまなところで私たちの生活を支えています。石炭は製鉄所や発電所で利用されていますし、天然ガスは発電用燃料とともに都市ガスとして供給されてもいます。石油は、ガソリンやディーゼルといった自動車燃料のほかに、灯油が暖房機器や給湯機器で消費されたり、化学工学の原料としても使われるなど、様々な形態で利用されています。電力は、電気炉や産業用モーターなどの大規模な設備から、照明や電子レンジ、テレビなど小型の電化製品まで使われているほか、近年は電気自動車も徐々に普及しつつあるなど、産業から生活、移動まで幅広く使われています。

 このようなエネルギーの使用量は月々届く電気料金やガス料金の請求書、あるいはガソリンやディーゼルを給油したときの領収書などでも把握できますが、それでは「皆さんは今どれだけエネルギーを使っていますか?」と聞かれても答えることは難しいのではないでしょうか。

 国立環境研究所(以下、国環研)を中心に環境省や富士通株式会社などの産官学連携により進めているエネルギーモニタリングシステム開発事業は、エネルギーの中でも電力を対象にしてリアルタイムで電力消費量を測定し、データの集約、分析とWebを通じて見える化する一連のシステムを開発するとともに、実際にシステムを設置してシステムの実社会における有効性を検証する(社会実装する)ものです。

 図1は、私たちが開発している電力消費量のモニタリングシステムの全体像です。システムは「計測パート」と「データ集約・見える化パート」の2つから構成されていて、計測パートでは住宅や建物にエアコンや家電製品、PCなどの機器単位で電流を計測する変流器と電圧計を設置し、1分ごとや1時間ごとに電力消費量計測装置でデータを集計し、インターネットを経由して自動でデータ集約・見える化パートにデータを送信する仕組みになっています。データ集約・見える化パートでは、クラウドサーバで構成されたエネルギー消費量共有装置に計測したデータを保存するとともに、リアルタイムで機器ごとや住宅・建物ごとの電力消費量をユーザ等がインターネットを経由して見えるようにする機能も担っています(見える化画面の一例は図2)。

図1(クリックで拡大画像表示)
図1 開発したエネルギーモニタリングシステムの概要


図2(クリックで拡大画像を表示)
図2 モニタリングデータの見える化システム
(インドネシアの例)
図3. システム設置の様子
(インドネシアの例)

 私たちは、この開発したシステムを現地の大学(ボゴール農科大学、IPB)及びボゴール市政府の協力を得て、インドネシア・ボゴール市の住宅や業務施設などに設置して社会実装を進めています。具体的には、市内の住宅7軒、大学内2箇所、オフィス3箇所、カフェ、ホテル、ショッピングモールにシステムを設置して、システムの効果検証とともに、それぞれの電力消費量の特性を把握、分析する研究活動を進めています。図3は、実際にシステムが設置されている様子です。住宅や建物にある分電盤のボックスの中に関連する機器を設置して、電流と電圧を計測するとともに、クラウドサーバへのデータ転送もできるようになっています。データ転送にあたっては、住宅・施設によってはインターネット回線が利用できないケースもありますので、3G回線(携帯電話回線)を使っていますが、3G回線はいつも安定して接続できるわけではありません。そこで、開発したシステムでは一定期間(10日間)計測したデータを保持する仕組みを組み込むことで、通信が不安定な地域でも安定して継続的にデータ計測ができるようにしています。

 ところで、システム開発事業を進めるに先だって現地の分電盤を調査したのですが、実にさまざまなものがあって、普段国環研の整理された分電盤を見ている私にとって大きな驚きがありました。もちろん、図4(a)のようにきちんと管理されているものも多いのですが、発熱が処理できないのか強制冷却をしているもの(図4(b))や、もはやパズルとしか思えないもの(図4(c))もあります。また、大学では、1950年代の建設当時から使われているという防爆仕様の分電盤(図4(d))も現役で使われていました。調査には海外経験の豊富な大手電機メーカーの技術者の方も同行していたのですが、その方にとっても防爆仕様は珍しいものだそうです。

図4. インドネシアで見かけたさまざまな分電盤
(a) 管理された分電盤、(b) 扇風機での強制冷却中の分電盤
(c) どこに何が繋がっているかわからない分電盤、(d) 大学内の防爆仕様の分電盤

 実際に電力消費量のモニタリングを開始したところ、図5のように施設ごとに異なる特徴があることが見えてきました。例えば大学やカフェでは平日の日中(業務時間中)の電力消費が中心ですが、ホテルでは日中に加えて宿泊客の滞在する夜間もある程度の電力消費があることが分かります。他方、住宅では日中は職場や学校に行っていることもあり電力消費量は低く、朝及び夕方が中心になっていることが分かります。このように、一口に「家庭部門」や「業務部門」といってもエネルギー消費の実態は世帯や施設の種類ごとに大きく異なり、それぞれに適した省エネルギー方策は異なることが分かってきています。今後は、これらの特徴をもとに、どのような省エネルギーが効果的かを分析・提案し、実施してみることでその効果を確認することを予定しています。

図5(クリックで拡大画像を表示)
図5 ある一週間の電力モニタリングデータ
(インドネシア・ボゴール市)

 今回開発したモニタリングシステムは、電力消費の把握と効果的な省エネルギー方策の立案、検証に役立つにとどまらず、今後見込まれるさまざまな社会問題へも適用可能と考えています。一例としては、エネルギーは私たちの生活を支えていますので、生活をしている限りは何らかのエネルギーが消費されます。これを利用して、住宅内で生活しているはずなのに長期間エネルギー消費がない、などの状況の変化を検知して遠方に居住する家族等に連絡するシステムに利用できれば、今後さらに進む社会の高齢化への対応としても利用できるかもしれません。

 本稿では、社会の活動を“見える化”するための技術・システム開発研究の一環としてのエネルギーモニタリング事業とインドネシア・ボゴール市における社会実装の状況について報告しました。今後は、研究開発によりシステムや技術の高度化等を進めるとともに、日本や他の国々、特にアジア諸国において、この開発したシステムを展開して、世界や日本の低炭素社会への移行を後押しできればと考えています。

(あしな しゅういち、社会環境システム研究センター 広域影響・対策モデル研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

2015年10月から半年間の企画兼務を経て、改めて直属スタッフを始めセンター・企画部・研究所内外の多くの皆様に支えられての自分の仕事、ということを認識。今後も感謝を忘れずに過ごしていきたいと思います。

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