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2014年6月30日

サンゴ礁の異変

研究をめぐって

 サンゴ礁が壊滅的な状況にさらされており、現在、世界のサンゴの3分の1が絶滅の危機にあるといわれています。環境の影響を受けやすいサンゴ礁の異変は、海にすむすべての生物が非常事態にあることを示すサインなのです。サンゴ礁を保全するために、世界や国内でさまざまなことが行われています。

世界では

 世界では、サンゴ礁の異変が1980年代頃から注目されるようになりました。一つの大きなきっかけは1982年から1983年に起こったエルニーニョ現象で、水温上昇によってサンゴの白化現象が起こったのです。ここから、地球温暖化による水温上昇とサンゴとの関係についての議論が始まりました。その後、1997年から1998年にかけても世界中で水温が上昇し、大規模なサンゴの白化現象が起こり、議論は一気に加速しました。海洋酸性化に関しては、1999年に、気候モデルの出力結果を用いて、海洋酸性化がサンゴ礁へ及ぼす影響が深刻であるという予測が報告されました。これは生物への海洋酸性化の影響を警告した初めての研究で、その後の研究の大きな流れを作ることになります。パプアニューギニアで火山活動によって海底から二酸化炭素が吹き出している場所が見つかり、そこではサンゴが生息していないという報告が2011年になされ、このまま二酸化炭素を排出し続けた場合の未来の海の状況を示すものとして注目を浴びました。

 一方、カリブ海では、海藻を食べる魚を人間が乱獲することにより、海藻が急激に増え、サンゴの生息場所がなくなってしまうということが起こり、人間活動が与える影響の大きさが明らかになりました。その後、過去の報告書や論文からサンゴ分布のデータベースが作られ、カリブ海では、かつては海底の半分を覆っていたサンゴが、白化現象や乱獲の影響により、現在までにわずか5%まで縮小していることが実証されました。

 サンゴ礁の保全は国際的に緊急の課題とされており、1995年 にはサンゴ礁保全のための包括的国際プログラム「国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)」が設立されました。ICRIの主要な活動の1つは、地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(GCRMN)を構築することです。しかし、世界中のサンゴ礁は危機的状況にあり、すでにかつての2/3が失われていると報告されています。サンゴをめぐる状況は深刻化する一方です。

日本では

 日本のサンゴ礁研究の始まりは、戦前にまでさかのぼります。当時、南洋庁が置かれていたパラオには熱帯生物研究所があり、サンゴに共生する褐虫藻の研究など、世界に先駆けた研究がなされていました。また、パラオや日本各地からサンゴが採取され、サンゴ分布が調べられていました。戦争により領土を失って日本のサンゴ礁研究は一時縮小しましたが、その後の奄美・沖縄の復帰後に再開され、生物学的研究とともに、サンゴ礁を掘削して過去から現在にかけての海面の変動とサンゴ礁の形成に関する研究が盛んに行われるようになりました。

赤土の流出と堆積の写真
赤土の流出と堆積
沖縄県衛生環境研究所提供

 当時の日本のサンゴ礁の環境問題は、開発事業による土砂の流出と、サンゴを食べるオニヒトデの大発生でした。沖縄県では、1972年の日本復帰前後に、コメからサトウキビへの農作物の転換や土地開発事業が起こり、降雨により侵食された土砂が海へ流出し、サンゴ礁に悪影響を及ぼすことが深刻な問題になりました(右写真)。これを受けて沖縄県では1995年に赤土等流出防止条例が制定されました。これは大規模な土地改変などの工事には届け出が必要で、工事の際には、赤土の流出防止に対する対策を講じなければならないというものです。この条例のおかげで、工事による赤土の流出は減りましたが、農地からの流出は依然として続いています。そして、1998年夏の高水温による白化現象から、日本でもサンゴ礁と地球温暖化の関係についての議論が盛んに行われるようになりました。海洋酸性化に関しては、水槽での実験が始まるとともに、硫黄鳥島でもパプアニューギニアと同様に二酸化炭素が海底から吹き出している場所が見つかり、やはりそこではサンゴが生息していないことが明らかになりました。

 こうした背景を受けて、モニタリングや保全・再生に関する研究が日本でも進んでいます。沖縄県では、条例の施行された1995年から赤土などの流出量やサンゴが海底を覆っている度合いの経年変化を明らかにするために「赤土等汚染海域定点観測調査」が毎年実施されています。この調査では、沖縄本島全域において赤土等流出の影響を受けている河口付近に定点区画を17~20地点設置して、その中に生息するサンゴの種ごとの被度を記録しています。

 環境省では、2003年から「重要生態系監視地域モニタリング推進事業(モニタリングサイト1000事業)」を開始しました。これは、「新(第二次)生物多様性国家戦略」にもとづいたもので、里山、湖沼、サンゴ礁など全国の様々なタイプの生態系に約1000ヵ所の調査サイトを設置し、100年以上を目標として長期継続してモニタリングするものです。これにより生物種の減少など、生態系の異変をいち早く捉え、迅速かつ適切な生態系および生物多様性の保全施策につなげることを目的としています。

 また、環境省は2000年5月に国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターを設立しました。これは、東アジア海地域のサンゴ礁の管理や研究・モニタリング活動を担う拠点施設として、沖縄県石垣市に開設したものです。サンゴ礁に関する情報の収集や発信、モニタリング、保全に関する普及啓発などを行っています。ここでは、先に述べたICRIの活動の一環としてGCRMNというネットワークをつくり、中国、韓国を含む東アジアや東南アジア諸国と協力しながら、サンゴ礁保全を進めています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、過去から将来へのサンゴ礁の変化を明らかにし、変化要因を明らかにしてサンゴ礁の保全につなげる研究を行っています。サマリーで紹介した研究の他に、 小型ボートにビデオカメラを搭載したサンゴのモニタリングシステムの開発や、水温上昇や海洋酸性化に対するサンゴの応答を、現場でのモニタリングとともに、サンゴに共生する褐虫藻の分析や、水槽でサンゴを飼育する実験によって明らかにする研究も進めています。

 また、沖縄県のモニタリングデータを解析し、地域規模のストレス(赤土流入)が白化からのサンゴの回復を妨げていることを明らかにしました。この結果を踏まえ、陸域からの赤土の流出を削減するための分野横断プロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは、生物多様性と地域経済の両方を考慮し、効果的かつ実現可能な赤土などの流出対策を提言することを目的としています。この目的を達成するために、生態学、自然地理学、環境工学、環境経済学などの多岐にわたる分野の専門家がチームを組んで研究に取り組んでいます。

 サンゴ礁は環境の変動の影響を最も受けやすい生態系の一つとされています。サンゴ礁の異変の察知やその原因究明、対策の実施など一連の活動は、行政をはじめ研究者や民間団体などさまざま人々が連携して取り組む必要があります。今後もその連携を強め、サンゴ礁の保全に努めていきたいと思います。

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