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2012年6月29日

地球規模の気候変動問題をリスク管理の視点で考える

【シリーズ重点研究プログラムの紹介 : 『地球温暖化研究プログラム』 から】

江守 正多

 昨年度よりスタートした第3期中期計画の地球温暖化研究プログラムを構成する研究プロジェクトの一つとして、プロジェクト2「地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究」を立ち上げました。第2期中期計画における中核研究プロジェクト3「気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価」の研究蓄積に基づいて、スコープを再検討し、研究体制の再構築を行いました。本稿では、このプロジェクトの狙いと構成についてご紹介します。

 研究の背景となる現状認識としてわれわれが重要視したのは、国際社会における地球規模の温暖化対策目標の議論が難局に突き当たっていることです。2010年にメキシコのカンクンで行われた国連気候変動枠組条約のCOP16では、世界の平均気温上昇を産業化以前から2℃以内に抑制すべきという科学的知見の認識に国際的な合意が得られました。ところが、現状での各国の削減目標を積み上げても2℃以内の目標を達成することは難しいと見られています。また、2℃を超えると生じる影響についての科学的な知見には不確実性がありますし、2℃以内に抑制する「べき」かどうかは本当は科学だけでは決まらず、価値判断が伴います。さらに、2℃以内に抑制するために必要な排出削減量の見積もりにも科学的な不確実性がありますし、排出削減のための施策が他の問題に及ぼす影響(例えば、バイオマス燃料の大規模利用が食料安全保障や生態系保全に及ぼす影響)も十分に検討されていません。そこで、国際社会が当面の目標として2℃を掲げることに異議を唱えるわけではないにしても、将来にわたって人類がこの問題について合理的な選択をしていくために、科学的な検討をこれまで以上に深める必要があるとわれわれは考えました。

 本プロジェクトでは、この問題を「リスク管理」という視点からとらえたいと考えています。その意味は必ずしも自明ではありませんが、プロジェクトリーダーである筆者が現時点で考えているのは以下のような観点です。

科学的な不確実性をよく認識すること

 不確実性の中には定量的に幅を推定できるものもありますが、定量化が困難なものも多いです。

リスクをゼロにするのはおそらく不可能であること

 2℃以内に温暖化が抑制されたとしてもリスクがゼロになるわけではありませんし、温暖化対策が新たなリスクをもたらすかもしれません。リスクをゼロにすることではなく、リスクとうまく付き合うことを目標とします。

あらゆる可能性を考えること

 例えば、世界が2℃以内を目指して努力したとしても結果的に2℃を超えてしまった場合はどうするか、温暖化の影響が予想外に深刻であったらどうするか、など、いわゆる「想定」の幅をできるだけ広げて考えます。

あらゆるオプションを考慮に入れること

 緩和、適応、気候改変(ジオエンジニアリング)といった、考えうるさまざまな対策手段を考慮の対象にします。また、ある程度のリスクを社会が受け入れることも重要なリスク管理オプションと考えます。

最終的には「判断」が必要になること

 どの程度のリスクを受け入れるか、どの種類のリスクを避けてどの種類のリスクを受け入れるかなどは、最終的には価値判断を含んだ問題となります。科学は合理的な判断の条件を示すことはできますが、判断そのものは何らかの形で社会的に行われることになります。

 こういった観点を、地球規模の温暖化対策目標の議論に当てはめて考えていきたいと思います。そのために科学的に検討すべき事項は膨大です。本プロジェクトで主体的に検討できる部分は限られていますが、足りない部分は所内外との協力や既存知見の収集・分析によって補い、幅広い観点を踏まえた総合的な検討を本プロジェクト内で行うことを目指します。

 具体的には、以下の3つのサブテーマにより本プロジェクトを構成します(図1)。

図1
図1 プロジェクトの構成

サブテーマ1 : 「地球規模リスクに関わる将来予測の理解と翻訳」

 所内外の気候予測・影響予測モデル研究結果の解析や追加的なモデル実験を行い、気候変化メカニズムの理解と統計学的考察に基づき、モデルによる将来予測の不確実性を評価します。また、気候シナリオと社会経済シナリオを結び付ける手法に関する研究を行います。さらに、地球温暖化リスクの全体像を包括的かつ偏りなく整理します。

サブテーマ2 : 「地球規模リスクに関わる統合的空間分布モデリング」

 地球規模の詳細な地理分布を表現する陸域生態系モデル、土地利用変化モデル、水文モデル等を統合した陸域統合モデルを構築し、気候モデルと合わせて利用します。特に、都市域を含む土地利用の詳細な地理分布を推定する土地利用シナリオの構築手法を開発します。これらのモデルを用いて、地球温暖化影響予測と併せて地球規模の持続可能性を評価・分析し、森林生態系保全・バイオマスエネルギー利用を含む土地利用分野における緩和・適応策ポテンシャルの評価等を行います。

サブテーマ3 : 「地球規模リスクの管理方策の検討」

 地球規模の温暖化影響の価値、適応策や気候改変の費用対効果等の知見を整理します。また、地球温暖化対策をリスク管理の問題として捉えるフレームを検討すると同時に、気候・影響シナリオと社会経済・対策シナリオを統合して分析する枠組みを構築します。この統合シナリオ分析に、将来予測の不確実性、緩和・適応・気候改変のバランス、水・食料・生態・土地等の制約、社会のリスク認知等を順次考慮することにより、包括的なリスク管理戦略の分析を行います。

 なお、本プロジェクトの中で必要となる社会経済・対策シナリオ等の検討については、地球温暖化研究プログラムのプロジェクト3や、社会環境システム研究センターが中心になって実施される「持続可能社会転換方策研究プログラム」との連携により実施します。本プロジェクトのサブテーマ2の一部である陸域生態系モデルを通じて、観測的研究を行うプロジェクト1とも連携します。また、本プロジェクトは地球規模の観点に集中して地球温暖化問題の研究に取り組みますので、地域規模の研究については「持続可能社会転換方策研究プログラム」等に任せる形で役割分担します。さらに、本年6月より環境省の環境研究総合推進費課題S-10「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究」が立ち上がり、所外の大学・研究機関と協力してリスク管理戦略の検討と社会への提示を行っていく体制が整いました。従来地球温暖化リスクの評価を中心に研究を行ってきたわれわれのグループにとって、このように研究のフレームを広げることは大きなチャレンジです。所内外の研究グループのご指導ご協力を賜りつつ、この重要な課題に取り組んでいきたいと思います。

(えもり せいた、地球環境研究センター
気候変動リスク評価研究室長)

執筆者プロフィール:

江守 正多

15年ほど「気象学者」を名乗ってきましたが、それとは違う何かへ脱皮中です。専門家と社会の関わりについてよく考えたいと思っており、最近の趣味はインターネットで国の審議会などの録画を見ることです(テレビよりずっと面白い)。

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