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2014年10月24日

洋上油井・ガス井からのメタン排出の確認:
温暖化対策に有効な観測手法に向けて(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)

平成26年10月24日(金)
独立行政法人国立環境研究所
 地球環境研究センター
  地球大気化学研究室長 谷本 浩志
 地域環境研究センター
  広域大気環境研究室 研究員 奈良 英樹
 

   国立環境研究所の谷本浩志室長らは、船舶からの観測によりマレーシアやインドネシアの沖合で高い温室効果を持つガスであるメタンの漏出が起こっていることを確認しました。今後、観測手法がさらに展開し、衛星観測や航空機観測等との組み合わせにより定量性が上がれば、油井・ガス井からのメタン排出対策が適切に行われているかどうかを判断する良い指標になると考えられます。
   本論文は、9月30日付でネイチャー・パブリッシング・グループ発行のオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。
   (http://www.nature.com/srep/2014/140930/srep06503/full/srep06503.html)
 

1.背景

 メタンは、二酸化炭素(CO2)に次いで2番目に大きい温室効果を持つガスとして知られています。また、グローバルな対流圏オゾンの濃度を維持するのにも寄与しており、直接的・間接的に気候変動や大気質に関与しています。メタンの大気中寿命は約9年と温室効果ガスの中では短く、メタンの排出を削減できれば近未来の温暖化を抑制・緩和する効果が大きく、近年ではSLCP(用語説明)(Short-Lived Climate Pollutants, 短寿命気候汚染物質)として近未来の温暖化対策の面から注目されています。これらSLCPの排出削減は、CO2対策までの「時間稼ぎ」ができる点で政策的にも重要な意味を持ちます。また、仮にCO2削減を今すぐ始められたとしても、その効果はすぐには得られない現実もあるため、(将来世代のための温暖化抑止にはCO2削減に加えて)現役世代のための温暖化抑止にはSLCP削減が必須と考えられています。

 一方、大気中のメタン濃度は産業革命以前の濃度レベルの700 ppbから増え続けていますが、メタンの長期変化傾向の要因は十分に解明できておらず、発生源の把握も十分にできていない状況にあります。メタンのグローバルな排出量は、人為起源と自然起源をあわせて年間約550 Tg(テラグラム)と推定されており、油井・ガス井からの漏えいは世界中の排出の1割程度、人為起源排出の2割程度を占めます。近年では、アマゾンや南アジアなどで、これまで認識されていないメタンの発生源の存在が見つかっており、メタンの発生源についての理解がまだ不十分であること、観測の空白域であるアジア地域におけるメタン観測が必要であることが指摘されてきました。

2.定期貨物船を用いた大気中メタンの長期観測

 メタンなどのSLCPは大気中寿命が短いために濃度分布が不均一になりやすい特徴があり、また発生源の分布も非一様であるため、適切な対策の策定に資する科学的な知見を得るには、高い空間分解能で、かつ地域的・世界的に均一な観測を行うことが必要です。しかしながら、SLCPの濃度分布や変動要因の把握、関連する前駆物質の発生源の分布に関する知見は断片的でした。特に、海洋上の排出源は把握することが困難で、現在広く行われている地上観測所におけるモニタリングからは検出できませんでした。  

 そこで国立環境研究所では、鹿児島船舶(株)ならびにトヨフジ海運(株)の協力を得て、外洋における清浄大気を観測できる日本-オセアニア航路と、アジア沿海域における地域的汚染大気を観測できる日本-東南アジア航路においてSLCPの長期観測を行っています。二つの特徴的な船舶観測の対比により、東アジア地域からの排出量を把握することを目的としています。

 当該船舶の観測室に、レーザー光を利用した新しい高速分析法であるキャビティリングダウン分光法(Cavity Ring-down Spectroscopy, CRDS)を設置し、二酸化炭素、メタンなどの連続観測を複数回にわたって行いました。そのデータを用いて排出量を推計し、既存のインベントリや衛星観測と比較・解析しました。

3.結果

 図1に、東南アジア地域におけるメタンの緯度分布を示します。東南アジア地域において顕著なメタンの濃度増大(ピーク)が多く観測されました。時間は短いもののメタン濃度の増加量は非常に大きく、発生源が近いことを示唆していました。また、これらのピークが観測された場所は、マレー半島の東沿岸部とボルネオ北西沿岸部の2つのエリアに集中していました。

図1 2009年から2012年にかけて東南アジア航路で観測された大気中メタンの緯度分布の例。メタンの濃度増大は、マレー半島の東沿岸部(M)とボルネオ北西沿岸部(B)の2つのエリアに多く見られた。

 観測されたメタンの排出源を明らかにするため、米国海洋大気庁による米国空軍防御気象衛星プロジェクト・Operational Linescan System(DMSP/OLS)センサーで観測された夜間光(night-light)のデータを調べたところ、油井・ガス井由来のガス燃焼(ガスフレア)のホットスポットが存在することが分かりました。また、ホットスポットの多くは、定期貨物船で観測されたメタンピークの近傍に位置していました(図2)。

図2 船舶観測で大気メタンの濃度増大が観測された場所( 青色 ×)と、既存の排出インベントリ(EDGAR)により推定されている油井・ガス井の場所( 緑色 ○)および衛星センサー(DMSP/OLS)でガスフレアが観測された場所(赤色 ○

 メタンはガスフレアやベント(排気)、リーク(漏れ)、蒸発・飛散といった漏えい排出物として、CO2とともに油井・ガス井から排出されることから、観測されたメタンの濃度増大はこの海域における洋上油井・ガス井からの排出であったことが示唆されました。また、DMSP/OLSで観測された油井・ガス井の分布をEDGAR(Emission Database for Global Atmospheric Research)v.4.2インベントリと比較したところ、マレー半島の東沿岸部での分布に違いが見られたことから、分布の推計に大きな不確実性があることが分かりました。

 次に、これらの観測結果を用いてメタンの排出量を推定したところ、東南アジアにおける洋上油井・ガス井における排出は0.1 (誤差範囲:0.02-0.32) Tg/yr であり、東南アジア全体の人為起源発生源の0.2%を占めることが分かりました。誤差範囲はメタンとCO2の比には大きな幅があったことを反映しており、油井・ガス井からの排出にはさまざまな生産プロセスが関与して変化していることが分かりました。

 東南アジアだけでなく、北海、ペルシャ湾、ギニア湾、メキシコ湾なども含めて洋上油井・ガス井からの排出量をグローバルに推計すると1-2 Tg/yrとなり、森林火災や永久凍土などの発生源と同程度であることが確認されました。油井・ガス井に由来するメタンの排出量は、2010年から2020年にかけて35%近くも増加すると推測されており、今後、洋上の油井・ガス井からのメタンの排出量をより正確に把握し、モデルやアセスメントに用いられるメタンの排出インベントリを改良するために、さらなる観測的知見が必要であると考えられます。

4.解説と今後の展望

 本研究における新しい高時間分解能観測により、マレーシアやインドネシアの沖合で油井・ガス井からのメタン排出が明瞭に観測され、ある程度のメタン漏出が起こっていることを実際に確認しました。油井・ガス井からの漏出は世界のメタン排出の1割程度を占めることが分かっており、当該地域におけるメタン排出源の存在と推計された排出量は想定の範囲内です。従って、未知の排出源を発見したわけではありません。また、我々の推計にはまだ誤差が大きいことに留意する必要があります。

 メタン排出源には人為的・計画的な排出抑制が難しく、総排出量の約半分を占める自然発生源(湿地やシロアリなど)も多い一方、対照的に油井・ガス井からの排出は人為的対策が可能であり、その排出抑制は大きな温暖化対策効果を有すると考えられます。今後、我々の観測手法のさらなる展開、および、衛星観測や航空機観測等とのマッチングで推計の定量性が上がれば、当該地域のメタン漏出が一般的な技術による程度のものなのか、あるいは、対策技術の高い先進国の油井・ガス井より漏出が多いかどうかを知ることができ、適切な排出抑制対策が行われているかどうかを判断する良い指標になると考えられます。また、日本が提唱した新たな温暖化対策の枠組みであるJCM(用語説明)(Joint Crediting Mechanism, 二国間クレジット)の有効な活用対象になりうると思われます。

 なお、本研究は地球温暖化研究プログラム PJ1「温室効果ガス等の濃度変動特性の解明とその将来予測に関する研究」および東アジア広域環境研究プログラム PJ1「観測とモデルの統合によるマルチスケール大気汚染の解明と評価」の一環として実施されました。また、環境省の地球環境保全等試験研究費(地球一括計上)「アジア・オセアニア域における長寿命・短寿命気候影響物質の包括的長期観測」の支援を受けました。

用語説明

SLCP

 温室効果を持つ大気汚染物質はSLCP(Short-Lived Climate Pollutants, 短寿命気候汚染物質)と呼ばれ、具体的にはブラックカーボン(すす、黒色炭素エアロゾルとも呼ばれる)、対流圏オゾン、メタン、一部の代替フロン類など、大気中寿命が短い物質が中心です。これらSLCPを全て足し合わせた温室効果はCO2にほぼ匹敵します。

 最近、近未来(2030-2050年)の温暖化を抑制するとともに、北極やヒマラヤなど気候変化に対して特に脆弱な地域において氷床・氷河が融けてしまうなどの壊滅的被害を避けるためにはSLCPの削減が有効であり、将来(2100年)の温暖化を2℃以内(2℃以下であれば、被るリスクが小さいと予想されている)に抑制するためにも、長期的なCO2削減努力に加えてSLCPの削減対策を行うことが効果的である、との新しい知見が発表されました。

 2012年に発表されたShindell らの研究では、複数の削減シナリオによる2070年までの温度上昇の予測が報告され、今すぐCO2規制を始めた場合、2070年には一定の効果が見られますが、2040年までは何も規制しない場合と大差がないことが分かりました。一方、メタンとブラックカーボンの規制には即効性があり、2040年までの温度上昇を抑制するには大きな効果がありました。この両者を組み合わせた場合に2070年における温度上昇を最も低く抑えられ、予測値の不確実性もまた小さくなることが分かりました。

 これを受けて、国連環境計画 (UNEP)や世界気象機関 (WMO)といった国際組織では、科学者や政策担当者が協力して2011年に報告書を発行するなど、行政機関や国際政治の動きが急速に活発化しています。2012年5月にはG8サミットでも取り上げられ、UNEPでは「SLCP削減のための気候と大気浄化のコアリション(連携)」(Climate and Clean Air Coalition, CCAC)(http://www.unep.org/ccac/)を設立し、日本も参加を表明しました。[参照元へ戻る]

JCM

 発展途上国の排出源については、途上国にその責を負わせるべきものではなく、その実態を把握することにより、有効な対策計画を策定することが重要です。対策効果の評価にはまず実態の把握が必要であり、これら途上国の対策強化は日本が積極的に支援することになっていますが、効果の高い対策を優先させるのが合理的です。日本が提唱した新たな温暖化対策の枠組みであるJCM(Joint Crediting Mechanism, 二国間クレジット、インドネシアとは既に協定済み)において、現時点では資源採掘に伴う温暖化ガス排出の対策は対象外ですが、今後の削減量の大きい対策になる可能性があります。JCMにおいては、削減量の透明性が求められており、実態把握から進める必要があると考えられています。[参照元へ戻る]

問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター
地球大気化学研究室長 谷本浩志 
電話:029-850-2930
E-mail: tanimoto(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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