太陽光発電施設による土地改変
-8,725施設の範囲を地図化、設置場所の特徴を明らかに-
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)
2021年3月29日(月) 国立研究開発法人 国立環境研究所 気候変動適応センター 特別研究員 Kim JiYoon 研究員 小出大 室長 西廣 淳 生物・生態系環境研究センター 主任研究員 石濱史子 室長 角谷拓 |
国立環境研究所の研究チームは、太陽光発電施設による土地改変の実態を明らかにするため、日本と韓国の0.5MW以上の発電容量をもつすべての太陽光発電施設を地図化し、規模や分布の特徴を調べました。その結果、日本では、地図化された8,725施設による改変面積は229.211 km2であり、二次林や植林地、草原、農地など、里山の自然に該当する場所で建設が多いことがわかりました。また鳥獣保護区や国立公園など、自然環境の重要性が認識されている場所でも、合計1,027施設、約35 km2が確認され、それらの68%は容量10MW未満の中規模施設でした。 パネルが設置されやすい場所を、気象条件、地形、社会的条件に基づいて予測するモデルを構築し、将来の再生可能エネルギーの導入拡大に伴う生態系の損失面積を予測した結果、自然保護区での建設規制や都市への誘導策により、樹林・草原・農地の損失が抑制できることが示されました。 本成果は、3月16日に環境科学分野の国際学術誌「Science of the Total Environment」(オンライン版)に掲載されました。 |
1.背景と目的
「2050年脱炭素社会の実現」に向け、再生可能エネルギーへの転換が進められています。温室効果ガスの排出抑制は気候変動の抑制のために重要です。一方、再生可能エネルギーの発電施設は、その場所の生物・生態系、水循環などの自然環境への影響を通して、自然資本の損失を招くおそれがあります。このため、「再生可能エネルギー発電施設の立地適正化」は、今後の日本と世界にとって重要な課題です。特に太陽光発電施設は広い設置面積を要するため、自然環境への大きな影響が懸念されます。しかしこれまで太陽光発電施設と自然環境の関係について、広域的な解析は行われていませんでした。
国立環境研究所の研究チームは、日本と韓国を対象に中規模以上(0.5MW以上)の太陽光電施設を地図化し、①現在設置されている施設による生態系の損失面積の把握、②施設が設置されやすい場所の自然的・社会的特徴の把握、③将来施設の建設が進んだ場合の生態系損失と対策により改変を免れる面積の予測を行いました。
2.方法
〇太陽光発電施設の地図化:
ウェブ上のデータベース※1に掲載されている日本と韓国の0.5MW以上の発電能力を持つ太陽光発電施設のすべてを対象に、衛星画像や航空機写真を活用し、ソーラーパネルと付随施設の範囲をデジタルデータ化しました。日本は8,725施設、韓国は3,373施設が確認されました。
※1 日本はエレクトリカル・ジャパン提供情報をもとに作成
http://agora.ex.nii.ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/【外部サイトに接続します】
韓国はPublic Data Portal 掲載情報
https://www.data.go.kr/index.do【外部サイトに接続します】
〇現存施設による土地改変の把握:
各太陽光発電施設が設置される以前にどのような生態系が存在していたかを把握するため、日本と韓国の土地利用・土地被覆データを整理しました。日本については高解像度人工衛星画像に基づく地図※2と日本全国標準土地利用メッシュデータ※3を活用し、国土全体を「都市」「水田」「畑地」「自然林」「二次林・人工林」「自然・半自然草地」「人工草地」「自然裸地」「人工裸地」「水面」の土地被覆タイプに分類しました。
※2 橋本秀太郎ほか (2014) 日本リモートセンシング学会誌 34: 102-112.
※3 https://www.nies.go.jp/biology/data/lu.html
〇モデル構築:
これまでに施設が設置されてきた場所の、自然的・社会的特徴を整理したモデルを構築しました。自然的特徴としては、気象条件(冬季降水量など)、地形(標高、傾斜など)、災害リスク(地滑り地か否か、河川からの距離)、土地被覆タイプを、社会的特徴としては、人口密度、地価、道路の密度を用いました。これらの土地の特徴から太陽光発電施設の設置されやすさを説明する統計モデルを、MAXENTとよばれるモデル化手法を用いて構築しました。モデルは0.5MW~10 MWの中規模施設と、10 MW以上の大規模施設に分けて構築しました。
〇将来予測(シナリオ分析)
現在までと同様な立地の選択で、中規模および大規模施設の面積が2倍に増える場合と4倍に増える場合を想定し、①自然保護区※4には設置しないとするシナリオ、②現在の土地被覆タイプが「都市」である場所への建設に誘導するシナリオ(都市の選択されやすさを2倍)、③都市域での建設に強く誘導するシナリオ(同4倍)の下で、生態系の損失量を比較しました。
※4 本研究ではIUCNのカテゴリーに合わせて以下の地域を自然保護区とした。
3.結果と考察
論文では日本と韓国の両方を対象にしていますが、ここでは日本の施設の分析結果を紹介します。
①現在までの太陽光発電施設設置による生態系の損失
日本全体で0.5MW以上の太陽光発電施設が占める面積は合計229.211 km2(日本の国土の0.079%)で、その66.36%を 0.5MW~10 MWの中規模施設が占めていました。これは比較的小型の規模の施設が、累積的に自然環境を損なっていることを意味しています。失われた生態系の面積としては、二次林・人工林、人工草原、畑、水田が多い傾向がみられました(図1)。
自然保護区に該当する場所でも、太陽光発電施設の建設が確認されました(合計1027施設、約35 km2)。鳥獣保護区内では605施設(合計約20 km2)、都道府県立自然公園内では245施設(合計約8 km2)、国立公園内では101施設(合計約5 km2)が確認されました。これらのうち68.4%は中規模施設でした。
②施設が設置されやすい場所の自然的・社会的特徴
日本において大規模発電施設が建設されやすい場所に影響する要因としては、土地被覆だけでなく、地形の傾斜、地形的な日当たりのよさ、標高が低いこと、人口密度が高いことなどの影響が強く認められました。構築したモデルを用いて、日本と韓国における建設されやすい場所の予測地図を作成しました(図2)。
③施設の建設が進んだ将来における生態系損失の予測
これまでと同様の立地条件で設置場所が選択された場合、樹林や農地がさらに失われることが予測されました。全体の施設面積が2倍になった場合、自然保護区内での建設は2.66倍に増加することも予測されました(図3)。
しかし施設面積を2倍にする場合でも、自然保護区での設置を制限し、都市での建設に誘導することで、樹林(天然林、二次林・人工林)や農地(畑・水田)の生態系の損失は1.3~3.5%程度抑制できることがわかりました(図4)。
本研究では中規模以上の太陽光発電施設が、二次林・人工林や農地で多く建設されてきたことがわかりました。また自然保護区に設定されている場所での建設も少なくなかったことが確認されました。人工林や農地など人間の手が加わった環境にも、生物多様性保全上重要な場所は多く存在します。また樹林や水田には、防災機能のように気候変動への適応における役割も期待されます。さらに、カーボンニュートラルの実現を進めていく上では、炭素蓄積や健全な水循環の確保などの生態系サービスや生物多様性の保全も同時に目指してくことが重要であり、本研究の結果もそこに役立つものです。
4.発表論文
【タイトル】Current site planning of medium to large solar power systems accelerates the loss of the remaining semi-natural and agricultural habitats
【著者】Ji Yoon Kim, Dai Koide, Fumiko Ishihama, Taku Kadoya, Jun Nishihiro
【雑誌】Science of the Total Environment【DOI】10.1016/j.scitotenv.2021.146475
5.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 気候変動適応センター
気候変動影響観測・監視研究室 室長
西廣 淳
【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室
E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
TEL:029-850-2308