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2022年10月31日

災害からの復興と持続可能な地域づくり

特集 災害からの復興と持続可能な地域づくり

五味 馨

 東日本大震災の発災から11年が経ちました。東京電力福島第一原子力発電所事故による原子力災害が発生した福島県の被災地でも復興が進み、放射能汚染により避難指示が出された地域でも着々と避難指示が解除されています。しかし、特に避難指示解除後の地域では震災前に比べると人口の回復が半分以下の地域も多く、「帰還困難区域」に設定された地域ではごく一部で避難指示が解除されたばかりで、復興の道のりはまだまだ続きます。国立環境研究所ではこうした地域を中心に災害からの復興を持続可能な地域づくりに繋げていくための取り組みを支援するため、2016年に福島県三春町に福島支部を開設(2021年に「福島地域協働研究拠点」と改称)し、様々な視点から研究開発を行ってきました。その中には技術開発やコンピューターを利用したシミュレーションなどもありますが、本特集では特に人と組織の活動に着目した研究を紹介します。

 原子力災害の被災地では長期間の避難後の地域再生が復興の重要な課題です。除染などの実施により住めるようになることがまず必要ですが、それだけでは地域社会の機能は回復しません。復興庁と各市町村が継続的に行っている避難中の方々への意向調査では、帰還を考えるために大事な要素として医療機関、商店、交通、働く場、学校などが頻繁に上位に挙げられています。特に20代や30代の方にとっては自分に向いた仕事・産業があることが重要になってくるでしょう。この地域では特に原子力災害からの復興を目指して「福島イノベーション・コースト構想」などでロボットや医療機器などの新産業も立地が進んでいます。こうした新しい事業の立地や復興を機に移住してきたという方もいます。住民や移住者が住みたい・住み続けたいと思うような地域づくりには生活の利便性と経済活動の両方を向上させる事業が必要です。

 一方、世界では国際社会の共通目標として「持続可能な開発目標(SDGs)」が国際連合で採択され、この数年は日本国内の多くの地域でも取り組みが広がっています。SDGsの17目標・169ターゲットには雇用、住居、交通、防災、教育など地域に密着した課題も多く、よりよい地域づくりに役立てることが出来ます。環境面では2020年の日本政府による脱炭素宣言をきっかけとして、脱炭素・カーボンニュートラルを目指して再生可能エネルギーの導入拡大や建物の省エネルギー化、次世代自動車の普及などが地方自治体でも進められつつあります。

 被災地ではこうした多くの課題を同時に解決していくこと、すなわち、復興と持続可能な地域づくりを繋げていくことが必要です。そのためには個別の課題にバラバラに取り組むよりも、一石二鳥の効果がある事業や、他の分野の事業との相乗効果を発揮させることが効果的でしょう。このような新しい発想で事業を構想・実現する新しい手法が必要です。

 本特集では災害からの復興と持続可能な地域づくりの事業を効果的に進める手法に関する研究の一端を 「環境創生型の地域づくり先進事例に見られる共創的プロセスの記述:災害復興地域での展開に向けて」で、地域の政策にSDGsを活用するための課題についての研究を 「地方自治体におけるSDGsの推進体制整備に向けて」で紹介するとともに、こうした研究に欠かせない理念である「地域循環共生圏」「ローカルSDGs」「トリプルボトムライン」そして「共創」について 「持続可能な地域づくりに向けたキーワード ~災害からの復興に向けて~」で解説します。

(ごみ けい、福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 室長)

執筆者プロフィール:

筆者の五味 馨の写真

北海道生まれの三重育ち。京都で研究していたら国立環境研究所が福島に拠点をつくると聞いて2016年にやってきました。世界17カ国を飛び回って温暖化対策研究をしてきましたが本当はテレワーク大好きのインドア派。

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