スギ材に取り込まれた放射性セシウムは
どこからきたのか?
(福島県県政記者クラブ、郡山記者クラブ、林政記者クラブ、農林記者会、農政クラブ、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)
令和2年11月19日(木) 国立研究開発法人国立環境研究所 地域環境研究センター 兼務 福島支部 主任研究員 渡邊未来 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 森林研究部門 立地環境研究領域 主任研究員 今村直広 研究員 眞中卓也 |
国立環境研究所と森林総合研究所の研究グループは、福島県川内村のスギ林で、幹の生長にともなって材部分に取り込まれた放射性セシウムがどこから来たのかを調べました。その結果、事故後の2011年8月からの5年間に材に蓄積された放射性セシウム量は最大でその半分程度が、土壌から根を通じて吸収されたものと推定されました。残りは、事故直後に葉の表面などから吸収された放射性セシウムの一部が、スギの体内を移動してきたものと考えられます。この研究で使ったセシウム同位体比法は、放射性セシウムの動きを明らかにできる新たな方法として期待されます。本成果は、令和2年9月26日付で環境分野の国際誌であるScience of the Total Environment誌(オンライン版)に掲載されました。 |
1.背景と目的
東京電力福島第一原子力発電所事故により、福島県内の森林は放射性セシウムに広く汚染されました。そんななか、木材として利用されるスギの幹材(幹の皮を除いた部分)に含まれる放射性セシウムを調べると、その濃度は横ばいでしたが、樹木の生長にともなって幹材に含まれる放射性セシウムの総量(蓄積量*)が増加している森林がありました。この幹材の放射性セシウムがどこから取り込まれているのか?つまり、スギ幹材への吸収経路を明らかにすることは、放射性セシウムの今後の動きを予測し、森林を適切に利用するために必要な研究といえます。
2.研究内容
私たちの研究グループは、幹材の放射性セシウム蓄積量が増加傾向にある福島県川内村のスギ林において、セシウム同位体比法*という新たな方法を用いることで、根から幹材に吸収された放射性セシウム量を推定することに成功しました。このスギ林では、幹材の放射性セシウム蓄積量は2011年8月からの5年間で約1.3倍になりましたが、その増加分の最大で半分程度が、土壌から根を通じて吸収されたものと推定されました。残りは、事故直後に葉の表面などから吸収された放射性セシウムの一部が、スギの体内で葉などから幹材へと移動してきたものと考えられます(上図)。本研究により、スギ幹材への放射性セシウムの吸収経路として、葉からの吸収と根からの吸収のどちらも重要であることが明らかになりました。
3.今後の展望
セシウム同位体比法を使うことで、福島県川内村のスギ林では、幹材に取り込まれた放射性セシウムの半分程度が、根から吸収されていたことが明らかになりました。常緑針葉樹であるスギでは、葉に付着した放射性セシウムを葉から吸収しましたが、これは事故直後に限って起きたことです。一方で現在でも土壌中には植物が吸収できる放射性セシウムが残っています。そのため、今後も根からの吸収が続くと予想されます。樹木への放射性セシウムの吸収経路を明らかにすることは、樹木の放射性セシウムの動きを予測する上で重要です。今後、この手法を様々な森林に広げることで、樹種や生育する立地環境の違いによる吸収経路の違いを明らかにしたいと考えています。
4.用語解説
5.発表論文
【タイトル】Estimation of the rate of 137Cs root uptake into stemwood of Japanese cedar using an isotopic approach
【著者】今村直広(森林総合研究所), 渡邊未来(国立環境研究所), 眞中卓也(森林総合研究所)
【掲載誌】Science of the Total Environment
【DOI】10.1016/j.scitotenv.2020.142478
【URL】https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2020.142478【外部サイトに接続します】
6.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地域環境研究センター 兼務 福島支部
主任研究員 渡邊未来
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 立地環境研究領域
主任研究員 今村直広
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