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2022年8月2日

20220802-3-logo
セメント・コンクリート部門の
カーボンニュートラル達成方法を解明
~供給側と需要側の一体的対策が必要~

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2022年8月2日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
資源循環領域 国際資源持続性研究室
 研究員     渡 卓磨
 准特別研究員  畑 奬
 室長 (PG総括)  南齋 規介
 

   国立環境研究所 物質フロー革新研究プログラムの研究チームは、セメント・コンクリートの供給側と需要側における計16のCO2排出削減策を調査し、日本のセメント・コンクリート部門における2050年カーボンニュートラルの達成方法を検討しました。その結果、コンクリートの炭酸化によるCO2吸収量を加味し、エネルギー効率改善や燃料転換、セメント原料代替、低炭素型セメント、炭素回収利用技術(CCU)等の供給側における計9つの対策を仮に最大限に実施した場合でも、カーボンニュートラル達成に必要な排出削減量には約20%(約400万トン CO2)届かない可能性があることが示されました。しかし、素材を過剰に使用する設計の回避や、建設物の長期利用、共有化、都市機能の集約化、解体部品の再利用等を含む需要側における計7つの対策を組み合わせて早急に実施した場合、2050年カーボンニュートラルの達成が見込まれることが示唆されました。
   本研究の結果は、(1)需要側の対策をカーボンニュートラル戦略の中心の一つに位置付けること、(2)カーボンニュートラル目標と整合的な物質利用の計画・数値目標を設定すること、(3)コンクリートの炭酸化やCCUによるCO2吸収量の国家排出インベントリへの位置付けや勘定方法を早急に議論し合意することの重要性を示唆しています。
   本研究の成果は、2022年7月18日付で刊行される自然科学系の国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

研究の背景

 2050年カーボンニュートラル社会の実現には、全CO2排出源の脱炭素化が必須です。しかし主要な排出源の一つであるセメント・コンクリートの生産工程では、焼成時の化学反応(石灰石の脱炭酸)や高温熱の供給によって大量のCO2が排出されるため、発電や運輸部門等と比較して脱炭素化が困難であることが知られています。この課題に対して、国立環境研究所 物質フロー革新研究プログラムの研究チームは、セメント・コンクリートの供給側と需要側における計16のCO2排出削減策を調査し、日本のセメント・コンクリート部門における2050年カーボンニュートラルの達成方法を検討しました。

結果1:コンクリートの炭酸化は生産時CO2排出量の約4分の1を吸収

 まず本研究では、社会経済における素材の流れを解析する物質フローモデルと、素材生産・利用・解体に伴うCO2排出・吸収量を推計する物理化学モデルを組み合わせることで、現状の把握を行いました(図1)。その結果、2019年には原材料の調達から解体に至る一連のコンクリート循環において、日本全体の排出量のうち約3%に相当する34 MtのCO2が排出されたことがわかりました。一方、コンクリート構造物の炭酸化によるCO2吸収量はその約4分の1に相当する8 Mtに達すると推計されました。最大の吸収源は使用中のコンクリート構造物(ビルやインフラ)であり、炭酸化による全吸収量の約74%を占めます。現状では、コンクリートの炭酸化によるCO2吸収量は国の公式なCO2排出勘定(温室効果ガス排出国家インベントリ)には考慮されていませんが、相当量のCO2がコンクリート構造物によって吸収されている可能性が示唆されました。

2019年の日本におけるセメント・コンクリート循環とCO2排出・吸収量の図
図1 2019年の日本におけるセメント・コンクリート循環とCO2排出・吸収量
図上のフロー図は原材料供給から製造、建設、利用、廃棄に至る一連のセメント・コンクリート循環を示しており、図下の赤色の丸が各プロセスにおけるCO<sub>2</sub>排出量、青色の丸がCO<sub>2</sub>吸収量を示しています。図中の数値の単位は全てmillion metric tonsです。

結果2:コンクリート需要の約半分は医療や教育等のサービス需要に起因

 製品やサービスの需要、供給、固定資本形成との関係を記述した経済モデルを用いた解析の結果、コンクリート需要の最大の要因は住居ですが、約半分は医療や福祉、教育、輸送、小売り等のサービス需要に起因することがわかりました(図2)。これは、例えば医療には病院、教育には学校、輸送には道路、小売りには商業ビルが必要であるというように、サービスを提供するためにはコンクリート構造物が不可欠であるという事実を反映しています。これまでの研究では、セメント・コンクリートが何に利用されているのかは分かっていましたが(例:ビル)、何の需要を満たすために利用されているのかは分かっていませんでした。本研究によって、セメント・コンクリートがどのように我々の生活に関わりを持っているのかが明らかになりました。

日本におけるセメント・コンクリート利用と需要の関係の図
図2 日本におけるセメント・コンクリート利用と需要の関係
図の左側がコンクリートの利用先、右側がその需要先を示しています。図の左側から右側へのフローを見ることで、何に利用されているコンクリートが(例:ビル)、何の需要を満たすためのものなのか(例:医療需要)を把握することが出来ます。

結果3:カーボンニュートラル達成には供給側での対策だけでは不十分

 では、原材料調達から解体に至る一連のコンクリート循環を脱炭素化するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。本研究では、セメント・コンクリート部門における対策(供給側)と、構造物の設計や建設、利用、解体時における対策(需要側)を合わせた計16の対策の可能性を調査しました。その結果、たとえ炭酸化によるCO2吸収効果を加味したとしても、供給側の対策だけではカーボンニュートラルの達成は困難である可能性が示されました。図3はエネルギー効率改善や燃料転換、セメント原料代替、低炭素型セメント、炭素回収利用技術(CCU)等の供給側での対策(計9つ)を最大限に実施した場合でも、カーボンニュートラル達成に必要な排出削減量には約20%(約400万トン CO2)届かない可能性があることを示しています。しかし、素材を過剰に利用する設計の回避や、建設物の長期利用、共有化、都市機能の集約化、解体部品の再利用等の需要側での対策(計7つ)を早急に実施することで、2050年カーボンニュートラルの達成が見込まれることが示唆されました。

日本におけるセメント・コンクリート部門のカーボンニュートラル達成経路の図
図3 日本におけるセメント・コンクリート部門のカーボンニュートラル達成経路
青色と緑色の範囲が供給側での対策、ピンク色の範囲が需要側での対策による効果を示しています。本図では計16の対策オプションを計13に縮約して表示しています。Energy efficiency improvement(エネルギー効率改善)は熱エネルギー効率改善と電気エネルギー効率改善を、End-of-life options(寿命後のオプション)は解体部品の再利用、骨材への再生利用、解体廃材の長期備蓄を含んでいます。

結果4:需要側での対策は炭素回収貯蔵技術への依存を下げる

 セメント・コンクリート部門のカーボンニュートラル戦略は炭素回収貯蔵技術(CCS)に強く依存する傾向にあります。しかし、その大規模な実装は経済的にも社会的にも大きな課題を抱えており、その実現可能性は現在のところ不確実です。本研究では前述の需要側での対策によって、CCSへの依存を大幅に下げられることが示されました(図4)。もし、需要側での対策が一切実施されない場合、例え供給側での対策が最大限実施されたとしても、2050年カーボンニュートラル達成にはセメント生産設備容量の70%にCCSを搭載する必要があります。しかし、仮に需要側での対策を最大ポテンシャルの約80%のレベルで実施できれば、CCSへの依存を無くすことができます。本結果はセメント・コンクリート部門におけるCCS技術の必要性を否定するものではなく、多様な対策オプションを持つことで、単一技術への過度な依存を低減することが可能であることを示すものです。

需要側での対策と炭素回収貯蔵技術の必要レベルの関係性の図
図4 需要側での対策と炭素回収貯蔵技術の必要レベルの関係性
赤色の範囲がカーボンニュートラル未達成の場合、青色の範囲がカーボンニュートラル達成の場合に相当します。需要側での対策が進むにつれて炭素回収貯蔵技術の必要レベルが低減している様子がわかります。

まとめ

 一連の結果より、セメント・コンクリート部門の2050年カーボンニュートラル化に必要な行動は以下のようにまとめられます。

(1)需要側の対策をカーボンニュートラル戦略の中心の一つに位置付けること
(2)カーボンニュートラル目標と整合的な物質利用の計画・数値目標を設定すること
(3)コンクリートの炭酸化やCCUによるCO2吸収量の国家排出インベントリへの位置付けや勘定方法を早急に議論し合意すること

本研究で開発・利用された全てのコードとデータはGitHub(https://github.com/takumawatari/concrete_cycle_jp)で公開していますので、計算の詳細やモデルの再利用はそちらをご覧ください。

研究助成

 本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(3-2201)、および科研費基盤研究(C)(21K12344)の支援を受けて実施されました。

発表論文

【タイトル】
Efficient use of cement and concrete to reduce reliance on supply-side technologies for net-zero emissions
【著者】
Takuma Watari, Zhi Cao, Sho Hata, Keisuke Nansai
【雑誌】
Nature Communications
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-022-31806-2(オープンアクセス)

問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環領域
国際資源持続性研究室 研究員 渡卓磨
watari.takuma(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
029-850-2308