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2008年12月26日

身近な交通の見直しによる環境改善に関する研究(特別研究)
平成17〜19年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-79-2008

1 研究の背景と目的

表紙
SR-79-2008 [26.3MB]

 運輸部門のCO2排出量はわが国全体の約2割を占め、うち9割が自動車から排出されていることから、その削減は急務となっている。

 本研究では、自動車への依存度が高い地方都市を対象に、「ラストワンマイル」と呼ばれる各家庭との接続部分に着目し、その身近な交通からの環境負荷の低減を目的とした。特に、自動車の使い方に着目し、使用形態別や輸送品目別の環境負荷を推計するとともに、車載器等を用いて実使用条件下における自動車の使用及び走行実態を調査した。加えて、自動車技術、エコドライブなどの運転方法による環境負荷の違いを調べ、実使用における環境負荷量と削減の可能性を把握するとともに、宅配、コンビニ、ショッピングセンター等での購買行動や通勤方法の違いによる環境負荷の違いを調べた。得られた結果をもとに、まちづくり方針の見直しによる環境負荷低減対策などを検討し、効果的な対策シナリオを提示した。

2 本研究成果の概要

サブテーマ1.自動車の使い方に着目した環境負荷の定量評価に関する研究

1) 車載器を用いた自動車の使用実態と環境負荷の評価
 自動車の燃費、すなわちCO2排出量は、運転方法や使い方により大きく左右されることから、車の使い方に関する情報は効果的なCO2削減対策を講じる上で有益であるが、このような情報は極めて少ない。本研究では、名古屋市、豊田市、つくば市を対象とした車載器による走行実態調査を行い、エンジンを始動してから停止するまでの詳細な使用実態を調査した。地域によって、休日の利用頻度や通勤での利用頻度に多少違いが見られたが、いずれの地域においても、短距離の走行が多く、30km未満のトリップ頻度とそのCO2排出量は、全体のそれぞれ、90%、60%を超えていることを明らかにした。

 道路交通センサス対象道路(幹線道路)以外の道路、いわゆる細街路走行は、道路交通センサスを使った既存推計では走行距離の31%であったが、つくば市における本調査の結果では、走行距離の約37%、走行時間の約50%、CO2排出量の約44%を占めることを明らかにした。また、細街路走行の速度は、これまで狭幅員幹線道路の速度分布を根拠に設定されていた値とほぼ同じ約20km/hであったが、排出係数は、幹線道路の1.34倍と大きく、街路走行部分の寄与が高い短距離の移動は、環境負荷が高い傾向にあることも明らかにした(図1)。

図1 被験者5人の道路種別CO2排出係数

 各家庭から目的地までを含む自動車の使用実態に加えて、特に、これまで未解明であった細街路における走行実態と環境負荷とを車載器を用いた実態調査により明らかにした上記の成果は、学術的に有意義であり、さらにCO2削減対策を検討する行政にとっても有益であると考えられる。

2) 運転支援による環境負荷低減効果に関する研究
 エコドライブは即効性のあるCO2削減対策として、各方面でその普及促進対策が行われゆっくり加速などのエコドライブ方法が提案されているが、いずれも、感覚的な表現が多く、効果的な運転方法についての理論的な研究は不十分であった。、

 そこで、本研究では、26人の被験者による公道走行試験を実施して、燃費に及ぼす運転要因を解析するとともに、自動車工学に基づく理論的な解析を行い、最高速度を抑えた走行と前方の交通状況をよく見て早めのアクセルオフを行い、無駄な走行エネルギー消費を抑えることが燃費低減に効果的であること、また、燃費改善の内訳として、最高速度を抑える効果が燃費低減の約7割を占めることを明らかにした(図2)。このようなエコドライブを行うことで、平均12%の燃費改善が可能である。

図2 エコドライブにおける燃料削減効果の寄与

 さらに、シャシーダイナモ試験により、本研究で得られたエコドライブ方法は、最近、低燃費車として増加しているCVT(Continuous Variable Transmission)を採用した車両や低燃費車代表であるハイブリッド車でも、一般の車両と同程度の燃費改善効果が得られることを明らかにした。

3) 自動車技術に関する評価
 カタログに記載されている燃費と実際の燃費とには、乖離があることが知られているが、CO2削減対策を検討するためには、実際の使用条件における燃費を把握することが重要である。そこで、本研究では、低炭素社会に向けた自動車技術の方向性を示すため、車載器により得られた使用実態調査データをもとに、燃費に及ぼす主要な要因である走行に必要なエネルギーとエネルギー効率とに着目して解析を行い、自動車の省燃費技術の効果を定量的に明らかにした。

 日本で広く普及している4ATを搭載した小型乗用車のエネルギー効率は11%であったが、近年、低燃費車として普及が進んでいるCVT車やハイブリッド車は、それぞれ14%、20%と実際の使用条件においてもエネルギー効率が高く、CO2削減に有効であることがわかった。一方、走行に必要なエネルギーは、車両の軽量化や空気抵抗の影響が大きいため、車重に従い軽乗用車、小型乗用車(1~1.3L)、ハイブリッド車の順に大きくなった。ハイブリッド車は走行抵抗が小さいことも燃費向上の要因となっていたが、軽乗用車は、エネルギー効率が低いため、小型乗用車と同程度の燃費であった(図3)。CO2排出削減のためには、エネルギー効率が高く、軽量で空気抵抗等の小さい車両の開発普及を促す支援策が望まれる。

図3 自動車技術の方向性

 身近な交通に適した自動車として、市販の小型電気自動車(BEV)の実使用条件での環境負荷を評価した。BEVは、ガソリン車に比べ、平均速度の低い領域でも効率(走行エネルギー/充電量)が45%以上と高いため、短距離で平均速度の低い移動に適していることを確認した。しかしながら、エアコン等補器の使用により効率が半減するなど性能悪化が大きいことに加え、BEVの性能は、バッテリの性能に強く依存し、高性能バッテリは高価であることから、当面、電動車両は、エアコン等補器を使わず容量の小さいバッテリで駆動できる超軽量の車両(例えば、電動アシスト自転車、電動車椅子、パーソナルモビリティなど)に適しているものと考えられた。

4) 自動車の使用形態別や輸送品目別のCO2排出インベントリの構築
 車載器による調査と並行して、全国の自動車の利用状況を把握するため、道路交通センサスの個票データから、時間帯別の乗用車利用目的別トリップ数を独自に集計した。平日は7~8時台の通勤(7%)と17~18時台の帰宅(28%)、休日は10~16時台の家事・買い物(19%)あるいはレジャー(13%)の利用が多く、主要な移動の目的となっていることを明らかにした。また、10km未満のトリップの頻度は全体の約66%と多い一方、CO2排出量の寄与は全体の約28%であることを明らかにした(図4、5)。さらに、トリップ距離帯が短いと、平均速度が低く排出係数が大きい傾向があり、排出係数は、10~29km帯で全距離帯平均と等しく、3~9km帯で平均の17%増し、1~2km帯では平均の44%増しとなることを明らかにした。

図4 トリップ距離帯別トリップ数   図5 トリップ距離帯別排出量と排出係数

 人口動態を考慮した自動車交通需要の将来予測を行い、国土交通省予測(2003年版)は過大評価になっている恐れがあることを示した。

 コホート推計法を用いた将来予測において、免許保有率の高い年齢層が高齢者となるため、人口減少後もしばらく免許保有者数が延びる。一方で、高齢者の走行量を短く、全般に減少している走行量の傾向を反映させた、年齢階層別運転者一人あたり走行量を独自に推計し、総交通量は2010年頃がピークになることを明らかにした。また、免許保有率を介さずに年齢階層別運転率を推計すると、2020年時点で交通量が2割程度国土交通省予測を下回る推計となることを明らかにした(図6)。なお、2008年版の国土交通省予測によると2020年の交通量は前回予測より約1割低くなっている。

図6 走行量変化を考慮した交通量の将来推計

サブテーマ2.モデル地域を対象とした運輸部門の環境改善シナリオの作成

1) モデル地域における交通の見直し施策の評価
 モデル地域としてつくば市を選定し、自動車の使い方による環境負荷を明らかにするとともに、2050年頃のCO2大幅削減に向けた地域の特性を考慮した環境改善シナリオを提示した。具体的な成果を以下に示す。

 購買行動に着目した調査から、平均的には、スーパーマーケットは3日に1回、共同購入・宅配は月に1回の利用であること、大都市は中小都市に比べて購買行動の回数が多く、共同購入・宅配の購入金額が高いことを示した。また、スーパーマーケットへの交通手段は、人口60万人以上の大都市では徒歩・自転車が7割であるのに対して、人口5万人未満の町村部では自動車が8割と大幅に異なることを見出した。人口20万人のつくば市等で自動車利用を減らす対策は、主にこの両極端の中間に位置する規模の都市に適用可能と考えられる。

 つくば市を例に、物流センターから各戸までの範囲で、宅配利用とショッピングセンター利用等の買い物によるCO2排出量を走行実態調査のデータを取り入れたシミュレーションで比較した。商業施設と住戸との距離によって差はあるが、全般的に自家用車利用による排出量の寄与が極めて大きく、宅配利用によるCO2削減余地が大きいことを明らかにした(図7)。

図7 購買ルートによるCO2排出量の違い

 また、通勤に伴うCO2排出量をシミュレーションで求め、現況では路線バス活用による削減余地があまり大きくないこと、公共交通利用促進のための条件を明らかにした。さらに、今後の開発方針によって異なる、通勤に伴うCO2排出量の削減ポテンシャルを明らかにした(図8)。

図8 まちづくりの方針による一人あたり通勤CO2排出量

2) モデル地域の環境改善シナリオの作成

 各種交通対策の整理を行い、短期的にはエコドライブや公共交通利用促進が重要な対策となるものの、中期的には小型軽量かつ低燃費車への買い替えや公共交通等の利用しやすい場所への住み替え等が効果的であること、さらには、制度やまちづくりの方針を見直すことも身近な交通の見直しから2050年CO2半減等の大幅削減につながる対策であることを示した。

 公共交通等の利用しやすいまちづくりの将来像を具体的に議論する材料を提示するため、中心市街地、住宅地、農村等の土地利用状況と各々に適した交通システムを示したイメージ図を作成した(図9)。

図9 地域の土地利用と交通手段の統合的計画による環境改善のイメージ例
集約型の土地利用と利用密度に応じた交通手段の相互連携を図り、公共交通と徒歩を優先した例:中心市街地は、車両の進入を制限し、歩行者優先のトランジットモールとした。来街した自動車は環状道路脇の駐車場に置く。配送車は、時間と経路を限って進入できる。住宅団地は、LRT等の公共交通軸沿いに立地する。団地内は日常生活を支える施設が立地し、徒歩が基本となる。公共交通軸沿いは自転車の利用も容易にできる。住宅地を集約することで、都市内緑地・農地の確保と、アクセスを容易にしている。行き先の必要に応じてカーシェアリングを利用する。農村コミュニティも、小規模ではあるが集約的利用を行い、小学校等の行政サービスを維持できる規模を保つ。小型の電気自動車やパークアンドライドや乗合タクシーを利用して、LRT終点の交流拠点に接続する。拠点は、大規模ショッピングセンターや地産地消の市場や公共施設を兼ねる。

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