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2026年1月8日

国環研と環境省のロゴ
「いぶきGW」(GOSAT-GW)搭載温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)による観測データ(精密観測モード)の初解析結果について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2026年1月8日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
環境省

 環境省、国立研究開発法人国立環境研究所および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構が共同で開発した温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶき GW」(GOSAT-GW)は2025年6月29日に打ち上げられましたが、今般GOSAT-GWに搭載された「温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)」による観測データ(精密観測モード)の初解析を行い、大都市圏における二酸化炭素・メタン・二酸化窒素の濃度分布を求めました。
 なお、本解析結果は、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(UNFCCC COP30、2025年11月、ブラジル・ベレン)において発表されました。

1. 概要

 国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)は、環境省および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに、気候変動に関する科学の発展、気候変動政策・取組評価への貢献を目的に、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)シリーズを活用し、大気中の二酸化炭素(CO2)およびメタン(CH4)等を観測しています。
 環境省、NIESおよびJAXAが共同で開発してきた温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)注釈1は、2025年6月29日1時33分(日本標準時)に打ち上げられました。その後、GOSAT-GWは初期機能確認運用注釈2を終了し、2025年10月9日より定常運用を行っています。
 同衛星に搭載されている「温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)」は、広域観測モード(全球を900 km 以上の幅、10 kmの空間分解能で面的に観測)と精密観測モード(都市域などを90 km以上の幅、1〜3 kmの空間分解能で面的に観測)の2つの観測モードを有していますが、このたび精密観測モードによる観測データの初解析を行い、大都市圏におけるCO2・CH4・二酸化窒素(NO2)の濃度分布を求めました(図1)。これらのガスの濃度分布を、衛星観測により同時に、かつ同一の広い視野で面として捉えたのは世界で初めてです。本解析結果は、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(UNFCCC COP30、2025年11月、ブラジル・ベレン)において発表されました。

図1 2025年9月5日に米国ロサンゼルス周辺で取得されたTANSO-3データ(精密観測モード)の解析結果。(左)CO2のカラム平均濃度注釈3(XCO2)、(中)CH4のカラム平均濃度(XCH4)、(右)NO2の傾斜カラム量注釈4(SCD)。

2. 背景と目的

 GOSAT-GWは、宇宙からCO2やCH4などの温室効果ガスを観測する一連の衛星であるGOSATシリーズの3番目の衛星で、2009年に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT、「いぶき」)と2018年に打ち上げられた2号機(GOSAT-2、「いぶき2号」)の後継機です。
 2021年8月に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表した第6次評価報告書(第1作業部会)は、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」、「人為的な地球温暖化を特定のレベルに制限するには、二酸化炭素の累積排出量を制限し、少なくとも二酸化炭素の正味排出量ゼロを達成することが必要である」と記しています。また、パリ協定はすべての締約国に対し、炭素排出量削減への取り組みとして国別約束を作成し、その約束を着実に達成することを求めています。こうした中、衛星による大気中の温室効果ガスの観測は、パリ協定の批准国が提出する排出量報告書の透明性の向上に寄与するものと期待されています。GOSAT-GWは、2つのミッション機器、すなわち、温室効果ガス観測センサ3型(Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3: TANSO-3)および高性能マイクロ波放射計3(Advanced Microwave Scanning Radiometer 3: AMSR3)を搭載しています。TANSO-3とその地上システムの開発は、環境省とNIESが共同で行っており、JAXAも環境省との契約に基づきTANSO-3の開発と運用に携わっています。また、NIESは、TANSO-3の観測データを基にしたCO2やCH4、NO2の濃度等の推定と、プロダクトの作成、検証、公開、保存を担当しています。

3. 温室効果ガスに関する処理とその結果

 2025年9月5日にロサンゼルス付近で精密観測モード(3km分解能)により観測された校正前スペクトル(分光データ)(L1B V001.001)に対してCO2、CH4のカラム平均濃度(XCO2、XCH4)の推定(リトリーバル)処理を行いました。この処理ではTANSO-3が有する3つのバンド(観測波長帯)のうち、CO2とCH4の吸収帯を含む波長域を観測するバンド3で観測された1.6 μm付近のスペクトルについて、CO2とCH4の波長帯を分割し、それぞれの波長帯を用いてMaximum a posteriori法注釈5と呼ばれる手法によるスペクトルフィッティングを行うことで、他のパラメーターと同時にXCO2、XCH4を推定しています。図1のXCO2(左)、 XCH4(中)では、スペクトル品質やスペクトルフィッティング精度によりスクリーニングを行っています。XCO2、XCH4ともに都市部付近で高い値が見られ、人為起源からの排出による濃度上昇を捉えている可能性があります。ただし、この結果は校正前スペクトルに対するエアロゾルなどを考慮しない簡易的なリトリーバルによるものであり、地表面状態やその他の影響を大きく受けている可能性があることに注意が必要です。

4. NO2に関する処理とその結果

 図1(右)に示すNO2の傾斜カラム量(SCD)は、2025年9月5日にTANSO-3により観測されたロサンゼルス付近での放射輝度スペクトルおよび太陽光照度スペクトルを用いて、差分吸収分光法(DOAS法)により推定されました。DOAS法は、推定対象であるNO2の他、オゾンや水蒸気など、TANSO-3のバンド1の観測範囲である可視域の光を吸収するガス種の吸収断面積注釈6データを使用して、ランベルト・ベールの法則注釈7に基づいて、光学的厚さ注釈7の差分スペクトルに対してフィッティングを行う手法であり、衛星観測によるNO2リトリーバルで使用される一般的な手法です。図1(右)で示すとおり、ロサンゼルス付近においてNO2のSCDが高い観測点を確認でき、沿岸の排出源によるものと思われるNO2の増加と、排出された気塊(プルーム)注釈8の流れを定性的に捉えることに成功しました。このようなNO2の情報により、化石燃料の燃焼によりNO2と同時に排出されるCO2の排出源の特定や、その排出量推定の精度向上等、科学だけでなく社会への貢献が期待されます。

5. 今後

 TANSO-3のプロダクトには、放射輝度スペクトルデータを含むレベル1Bプロダクトと、今回解析を行ったXCO2、XCH4、NO2のSCDを含むレベル2プロダクトとがあります。後述する「校正」と「検証」を経て十分な品質となった、レベル1Bプロダクトの一般公開開始は2026年春、レベル2プロダクトの一般公開開始は2027年春を予定しています。
 現在は、定常運用においてTANSO-3の「校正注釈9」に重点を置いた観測が行われており、JAXAが校正を実施中です。NIESはJAXAより提供された初期的な放射輝度スペクトルデータを用いて初期解析を進め、得られた知見をJAXAと共有することで校正の精緻化を目指しています。また、ある程度の校正が進んだあとは、レベル2プロダクトとして提供する情報の正確さと精度を他の観測を用いて評価する「検証」の準備も進めています。これらの校正、高次処理、検証は、NIES、JAXA、環境省が主体的に行いつつ、国内外の研究機関、大学と協力連携しながら、精力的に進めていきます。
 TANSO-3を用いた観測に基づくミッションとして、CO2の全大気月別平均濃度の監視、国別人為起源温室効果ガス排出量の検証、温室効果ガスの大規模排出源(都市圏、発電所、永久凍土など)のモニタリングを掲げています。これらのミッションの達成をとおして、GOSATおよびGOSAT-2とともに、地球大気中の温室効果ガス濃度の上昇がもたらす気候変動の緩和に貢献することを目指します。

6. 国立環境研究所における業務実施体制

  • TANSO-3データを用いた二酸化炭素およびメタン濃度の推定: 染谷 有 主任研究員
  • TANSO-3データを用いた二酸化窒素カラム量の推定: 藤縄 環 主任研究員、
     Hyunkwang Lim 特別研究員
  • 地上データ処理システム構築:
     八代 尚 主任研究員、佐伯田鶴 主任研究員、杉田考史 主幹研究員、
     山下陽介 主任研究員
  • 進行管理等: 谷本浩志 領域長、松永恒雄 センター長、森野 勇 室長

7. 謝辞

 TANSO-3データの初解析にあたり、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構および三菱電機株式会社の皆様にご協力いただきました。NO2観測に関するアルゴリズム開発、検証観測・解析、応用研究については、NIESと国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)との三者共同研究契約の下に進めています。またDOAS法の計算ではコミュニティフリーソフトであるQDOAS(https://uv-vis.aeronomie.be/software/QDOAS/(外部サイトに接続します))を使用しました。

8. 注釈

1. 「いぶきGW」(GOSAT-GW:Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle)
宇宙から地球の水と温室効果ガスを観測する衛星で、2つのミッション機器(温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3:Total Anthropogenic and Natural emissions mapping SpectrOmeter-3)および高性能マイクロ波放射計3(AMSR3:Advanced Microwave Scanning Radiometer 3))を搭載する。TANSO-3による温室効果ガス観測は環境省とNIESが、AMSR3による水循環観測はJAXAが主導している。

2. 初期機能確認運用
センサを含む衛星が所定の機能性能を軌道上で有していることを確認する運用。

3. カラム平均濃度
乾燥空気のカラム量(気体の総量を単位面積当たりの地上から大気上端までの柱(カラム)の中にある気体分子の数で表した値)に含まれる温室効果ガスのカラム量の割合。

4. 傾斜カラム量
地表面に垂直なカラムではなく、太陽から発せられた光が地球大気を通過し衛星に到達するまでの経路(光路)で表される、傾いたカラム内に存在する気体分子の数。

5. Maximum a posteriori 法
スペクトルセンサーによる温室効果ガスなどの大気リモートセンシングに広く用いられている推定手法で、理論計算値と観測値の差と推定変数の先験値からのずれを観測値と先験値の誤差分布を考慮してコスト関数とし、これを反復計算により最小化させることにより最も確からしい推定変数を得るもの。
Rodgers, C. D.: Inverse methods for atmospheric sounding: theory and practice, World scientific, 2000.

6. 吸収断面積
ある物質(ガス)が、ある波長の光を吸収する効率を表す物理量。

7. ランベルト・ベールの法則と光学的厚さ
ランベルト・ベールの法則は光がある物質(ガス)を透過する際の光の吸収量と、その物質の濃度の関係を表す物理法則のこと。地球外における太陽光の強度と、太陽光が大気中で吸収・散乱され宇宙に返る光の強度を比較することで、大気による吸収の程度(光学的厚さ)を定量し、さらにそこから物質(ガス)の濃度を定量することができる。

8. 気塊(プルーム)
排出源から排出された大気汚染物質や温室効果ガスを含む空気の塊のこと。

9. 校正
主に輝度、分光、幾何の観点から、放射輝度スペクトルの正確さと精度を評価する作業。打上げ前には、積分球やレーザーなどの実験装置を用いて輝度、分光の観点からTANSO-3の校正を行った。打上げ後には、衛星に搭載した太陽光拡散板による反射光を用いた校正、月面で反射された太陽光を用いた校正、地上に設置した校正ターゲットを用いた校正などの複数の手法によりTANSO-3の校正を実施している。

9. 参考ウェブサイト

国立環境研究所GOSAT-GWプロジェクトhttps://gosat-gw.nies.go.jp 
報道発表「温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW、「いぶきGW」)の打上げとクリティカル運用期間の終了について」https://www.nies.go.jp/whatsnew/2025/20250701/20250701.html
報道発表「「いぶきGW」(GOSAT-GW)搭載温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)の初観測について」https://www.nies.go.jp/whatsnew/2025/20250808/20250808.html

10. 問合せ先

【内容に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 衛星観測センター
soc-info(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)