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2025年4月4日

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水環境中の薬剤耐性と抗微生物剤の監視の
枠組構築を目指した研究を開始
—ワンヘルスの視点から公衆衛生と
環境保全の新たな展開へ—

(石川県文教記者クラブ、科学記者会、文部科学記者会、山梨県政記者会、筑波学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2025年4月4日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所

 このたび、金沢大学、山梨大学、国立環境研究所の研究チームが中心となり、国内7 つの大学・研究機関(東京大学、愛媛大学、東北大学、京都大学、北里大学、高知大学、国立医薬品食品衛生研究所)との共同研究グループが、「環境中における薬剤耐性と抗微生物剤の監視の枠組構築に向けた研究」に取り組むことになりました。この研究は、独立行政法人環境再生保全機構の令和7年度環境研究総合推進費・戦略的研究開発課題(SⅡ-12)に採択され、令和7年4月1日より始動しました。

 本プロジェクトは、環境を介した薬剤耐性の拡散メカニズムを明らかにし、持続可能な監視体制を確立することを目的としています。
 薬剤耐性(AMR)(※1)は、世界保健機関(WHO)が「世界の健康に対する10の脅威」の一つとして警鐘を鳴らす課題であり、特に環境を介した薬剤耐性の拡散は世界的な関心を集めています。近年、医療や畜産分野での薬剤耐性対策が進められる一方で、ヒト・動物の活動を通じて環境中に放出された薬剤耐性菌や抗微生物剤が、水や土壌を介して拡散する可能性が指摘されています。環境中での薬剤耐性の動態を定量的に把握することは、公衆衛生および生態系の保全にとって不可欠ですが、これまで包括的な監視体制は確立されていませんでした。本プロジェクトでは、ワンヘルス(One Health)(※2)の視点に立ち、公共用水域を中心に薬剤耐性の発生源から拡散経路、環境影響までを統合的に評価し、実効性のある監視指標と対策の基盤を構築します。

【採択課題の概要】

【採択課題の概要】
公募名:令和7年度環境研究総合推進費・戦略的研究開発(II)
採択プロジェクト名:SII-12「環境中における薬剤耐性と抗微生物剤の監視の枠組構築に向けた研究」
プロジェクトリーダー:本多 了(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系 教授)
研究期間:令和7年4月~令和10年3月

本プロジェクトは、以下の3つのテーマを軸に展開されます。

【テーマ1:公共用水域における薬剤耐性の監視手法の確立】
(テーマリーダー:金沢大学 本多 了)
 公共用水域における薬剤耐性の監視手法を確立するため、全国規模での広域パイロット調査を行い、環境中の薬剤耐性菌の地域性やヒト・動物由来の薬剤耐性菌との関連性を解明します。多種の指標候補の体系的な比較・評価に基づいて統一的な薬剤耐性監視指標の策定を進め、水環境中の薬剤耐性の監視の枠組構築に貢献します。

【テーマ2:薬剤耐性の発生源から水圏への排出動態の把握】
(テーマリーダー:山梨大学 原本 英司)
 薬剤耐性の主要な発生源と水環境への排出動態を明らかにし、環境中での拡散プロセスを評価します。下水、医療機関、畜産施設、農地などの異なる排出源を対象に、季節や気象条件による変動も含めて分析し、排出負荷量の推計手法を確立します。

【テーマ3:残留抗微生物剤の水生態系への影響評価】
(テーマリーダー:国立環境研究所 山本 裕史)
水環境中に残留する抗微生物剤の水生生物へのリスクの実態を把握します。発生源に着目して抗微生物剤の水圏への排出負荷量を推計するとともに、ラン藻ほか感受性の高い水生生物も含めた毒性を調べ、監視すべき物質の選定に貢献します。

本研究の成果は、「薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォーム」(運営:国立国際医療研究センター)などを通じて情報公開し、環境中の薬剤耐性の拡散実態の把握や汚染対策に向けた国内外の政策立案や国際的な監視体制の構築に活用される予定です。また、薬剤耐性は国境を越えた問題であり、その監視と制御には科学的知見に基づく総合的なアプローチが求められます。本プロジェクトを通じて、日本が薬剤耐性対策の先導的役割を果たし、環境と公衆衛生の保全に貢献することを目指します。

【関連サイト】

【関連サイト】
・令和7年度環境研究総合推進費における新規課題の採択について(環境再生保全機構プレスリリース、令和7年3月14日)
https://www.erca.go.jp/erca/pressrelease/pdf/20250314_1.pdf(外部サイトに接続します)

・薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォーム
https://amr-onehealth-platform.ncgm.go.jp/home(外部サイトに接続します)

【用語解説】

※1 薬剤耐性(AMR)
 薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)とは、細菌やウイルスなどの病原体が抗菌薬をはじめとする「抗微生物剤」に対して耐性を持ち、治療が効きにくくなる現象を指します。これにより、通常の治療では感染症が治らなくなり、重症化や死亡のリスクが高まる可能性があります。

※2 ワンヘルス(One Health)
 ヒト・動物・環境の健康が相互に密接に関係しているという考えに基づき、分野横断的なアプローチを通じて公衆衛生や生態系を保全する取り組みのこと。世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(WOAH)、国連環境計画(UNEP)などの国際機関が推進しており、薬剤耐性問題をはじめ、新興感染症などのグローバルな健康課題に対処するための重要な概念とされている。

【本件に関するお問い合わせ先】

■研究内容に関すること
金沢大学 理工研究域地球社会基盤学系・教授
 本多 了(ほんだ りょう)

山梨大学 国際流域環境研究センター・教授
 原本 英司(はらもと えいじ)

国立環境研究所 環境リスク・健康領域・領域長
 山本 裕史(やまもと ひろし)

■広報担当
金沢大学理工系事務部総務課総務係
 廣田 新子(ひろた しんこ)
 E-mail:s-somu(末尾に”@adm.kanazawa-u.ac.jp”をつけてください)

山梨大学総務企画部総務課広報・渉外室
 E-mail:koho@yamanashi.ac.jp(末尾に”@yamanashi.ac.jp”をつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
 E-mail:kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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