ヒアリ早期発見のための
「ヒアリDNA検出キット改良版」の試験希望機関の募集
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)
平成31年3月1日(金) 国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生態リスク評価・対策研究室 室長 五箇 公一 研究員 坂本 佳子 環境ゲノム科学研究推進室 室長 中嶋 信美 |
その結果、簡易な手順で再現性が高くヒアリを検出できるキットが完成しました。当面は100箇所の試験希望機関を募り、無料で本キットを配布して、広くヒアリの侵入をモニタリングできる環境の構築を目指していきます。
背景
2017年6月に特定外来生物ヒアリが尼崎市内で輸入コンテナとともに侵入していることが明らかとなって以降、東京・横浜・名古屋・大阪・博多などの国際港湾を中心に、ヒアリの上陸が次々と報告されており、今後、定着・分布拡大した場合、甚大な経済被害が生じるおそれがあります。
ヒアリの分布拡大を防ぐためには、いち早くヒアリの存在を検出して防除する必要があります。特に、ヒアリが巣を作っている場合には、巣が大きくなる前に、的確な薬剤防除を施すことが重要です。しかし、ヒアリは体長が2.5ミリ〜6ミリ程度しかない小さなアリで、目視だけで日本のアリと区別することは難しく、現状ではアルコール固定した標本などを専門家に送付して、形態の顕微鏡観察に基づき同定する以外に、ヒアリの存在を確認する方法がありませんでした。この方法では、ヒアリの送付から同定までに数日を要するため、今後、より早期に、かつ簡易にヒアリを確認する手法が必要とされていました。
ヒアリDNA検出キットの開発と改良
国立環境研究所では、より迅速にヒアリを発見するために、LAMP法(Loop-mediated isothermal AMPlification)というDNA技術を活用したヒアリ検出法を2017年度より開発してきました。LAMP法とは、特定の種のDNA断片を特異的に増幅して検出する技術で、鳥インフルエンザの検出などにも活用されています。この方法では、ヒアリに特異的に反応する検出用プライマー(DNA複製時の起点となる短いDNA断片)とDNA合成試薬の入った反応溶液に、アリをすり潰して得られたDNA溶液を加えて加温します。もし、ヒアリのDNAが混入していればDNA断片が増幅され、副産物のピロリン酸マグネシウムによって反応溶液が白濁化することで、ヒアリの存在が確認できます。我々の開発した方法では、ヒアリの足1本でも反応することが確認されています。
2018年5月に本技術を用いたヒアリDNA検出キットのパイロットテスト版(以下、パイロット版)を完成させ、全国10箇所の試験研究機関に配布して再現性の確認を行いました。この再現性テストの結果を踏まえて、キットの内容・作業方法を改良して、簡易かつ再現性の高いキットを完成させることができました。主な改良点は以下の通りです。
以上のことから、このLAMP法に基づくヒアリDNA検出キットの改良版を使用すれば、野外において捕獲されたアリが、ヒアリであるか否かを、わずか2時間のうちに、正確に確認することが可能になると期待されます。
今後、国立環境研究所では、2019年4月1日から、国内の試験希望機関を募り、LAMP法に必要な器材や試薬をセットにした「ヒアリDNA検出キット改良版」を、無料で当面100箇所に配布する予定です。この検出キットを社会実装することで、全国規模のヒアリ監視体制を整備していくことを目指します。
なお、LAMP法に基づくDNA検出技術は他の外来生物にも適用可能であり、国立環境研究所では、すでに特定外来生物アカカミアリおよびアルゼンチンアリの検出キットも完成させています。

問い合わせ先
国立研究開発法人 国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター 生態リスク評価・対策研究室
室長 五箇 公一
電話:029-850-2480
E-mail:invasive(末尾に@nies.go.jpをつけてください)