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2016年8月31日

低炭素研究プログラムの構成と所内外の連携

特集 パリ協定とその先を見据えて
【シリーズ研究プログラムの紹介:「低炭素研究プログラム」から】

江守 正多

 国立環境研究所は2015年度で5年間の第3期中期計画を終了し、2016年度から新たに5年間の第4期中長期計画を開始しました。第4期では、5つの課題解決型研究プログラムを設置しました。5つのプログラムは、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会、安全確保社会という、持続可能性の観点から実現すべき4つの社会像に対応したもの4つと、それらを統合するもの1つ(統合研究プログラム)からなります。このうち本稿では、地球環境研究センターが主導する低炭素研究プログラムについてご紹介します。

 2015年末にパリで開かれた国連気候変動枠組条約のCOP21で「パリ協定」が採択され、低炭素社会の実現を目指すという方向性が国際社会において明確に共有されました。パリ協定では、その長期目標として、世界平均気温の上昇を、産業化以前を基準に2℃よりも十分低く抑え、さらに1.5℃未満を目指して努力すること、そしてそのために世界の温室効果ガス排出量を今世紀後半に正味でゼロにすることが合意されています。

 つまり、国際社会は温室効果ガスを出さない世界を今世紀中に実現するという壮大な目標に向けて大きく動き出しています。この実現に貢献するために当研究所では低炭素研究プログラムを立ち上げました。

 低炭素研究プログラムは第3期の地球温暖化研究プログラムから多くを引き継いだ、地球温暖化(気候変動)に関する包括的な研究プログラムです。しかし、プログラムの名称が「炭素」に特化した印象を与えるおそれがあるので、少し補足をしておきます。「低炭素」の言葉自体は二酸化炭素の排出削減対策が進んだ状態を指しますが、もちろん二酸化炭素以外の温室効果ガスやエアロゾル等の関連物質も研究の対象に含みますし、緩和策(温室効果ガスの排出削減)だけでなく、気候変動への適応策も含みます。

 ただし、今回のプログラム編成では、地球温暖化研究のうちで国から地域のスケールの緩和策や適応策に関する課題は社会環境システム研究センターが主導する統合研究プログラムの中に含まれ、低炭素研究プログラムは主として地球規模の観点からの研究を(観測研究については国、地域規模も)受け持つことになりました。

 これらの点を反映した低炭素研究プログラムの「長めの名称」は「低炭素で気候レジリエントな社会の実現に向けた地球規模研究プログラム」です。「気候レジリエント」は、適応策が進んで気候変動への対応力が強まった社会の状態を意味します。

 第3期の地球温暖化研究プログラムと同様に、低炭素研究プログラムも観測的研究、リスク研究、政策評価研究の3つの研究プロジェクトで構成されます(図)。低炭素社会との関連で3つのプロジェクトを位置づけなおすと、以下のようになります。

図 低炭素研究プログラムの構成と所内外の連携

図 低炭素研究プログラムの構成と所内外の連携

 1つめの観測的研究(PJ1)、「マルチスケールGHG変動評価システム構築と緩和策評価に関する研究」は、炭素等の物質の排出と循環の把握と理解を通じた、低炭素社会実現への自然科学的側面からの貢献を目指します。

 2つめのリスク研究(PJ2)、「気候変動予測・影響・対策の統合評価を基にした地球規模の気候変動リスクに関する研究」は、低炭素社会が実現しなかった場合のリスクや、実現に向けて乗り越えるべきリスクは何かについての議論を深めることを目指します。

 3つめの政策評価研究(PJ3)、「世界を対象とした低炭素社会実現に向けたロードマップ開発手法とその実証的研究」は、低炭素社会の実現に向けたロードマップを描き、その社会実装に貢献することを目指します。

 プロジェクト間は、主にPJ1とPJ2が炭素循環等のモデリングを通じて、PJ2とPJ3が将来シナリオ研究を通じて、PJ3とPJ1が対策の効果検証に関わる研究を通じて、それぞれ連携します。特に、第3期と比べて新しいところは、PJ1が緩和策などの対策の効果を自然科学的に検証するサブテーマを新たに立ち上げたことにより、PJ1とPJ3が連携して、対策の効果検証を多面的に行える体制ができたことです。

 メンバーは、PJ1が主に地球環境研究センターと環境計測研究センターの一部、PJ2が地球環境研究センターと社会環境システム研究センター、PJ3が主に社会環境システム研究センターから成り、領域横断的な研究体制となっています。

 また、国から地域のスケールで低炭素社会の研究を行う統合研究プログラムと密接に協力するとともに、統合研究プログラムが進める複数の社会像の統合を目指す研究に地球規模の低炭素社会研究の観点から協力します。

 さらに、国内外の研究機関はもちろんのこと、中央・地方行政の政策決定者をはじめ、気候変動問題に関わる様々な立場の主体(ステークホルダー)ならびに一般市民とも、連携を深めていくつもりです。その際、新しく所内に設置された社会対話・協働推進オフィスと協力して、一方的な情報発信に留まらず、双方向的な対話を試みていきます。

 「課題解決型研究プログラム」と銘打ってはいますが、地球温暖化をはじめとする環境問題の課題は、科学技術的な研究が進めば「解決」する問題というわけではありません。そもそもどのような状態を「解決」と呼ぶか、どのような道筋でそこに向かっていくか、その途中で生じる様々な利害対立や価値対立にどのように向き合っていくか、といったことを、社会の中でよく議論していく必要があります。低炭素研究プログラムでは、科学技術的な研究を進める一方で、そのような議論にも積極的に貢献したいと考えています。

(えもり せいた、地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)

執筆者プロフィール

江守 正多

 講演をしたあと、お客さんに「あなたは最近、明るくなった」と言われました。パリ協定が合意されたこと、クリーンエネルギーへの投資が加速していること、世界のCO2排出量が最近2年間増えていないことに、希望を感じているためかもしれません。

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