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2014年12月31日

持続可能な都市をめざして

Interview 研究者に聞く

 人口が集中し、産業や交通が発達している都市では、社会活動や経済活動がさかんです。しかし、都市の発達にともない、環境悪化や資源の枯渇などの問題が生じ、地球環境への負荷も大きくなっています。こうした問題を克服し、都市を持続させていくためにはどうしたらよいのでしょうか。社会環境システム研究センターの藤井実さん、大場真さん、戸川卓哉さんは、持続可能な環境都市の構築をめざして研究を行っています。

藤井実
藤井 実/社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 主任研究員
大場真
大場 真/社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 主任研究員
戸川卓哉
戸川卓哉/社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 研究員

都市環境を守るために

Q:都市環境にはどんな問題があるのですか。

藤井:都市には多くの人が集まり、産業や交通など多くの機能が発達しています。しかし、都市の活動がさかんになればなるほど、多くのエネルギーを消費し、化石燃料など資源の枯渇が問題視されるようになってきました。また、廃棄物や汚染物質が発生し、環境も悪化しています。こうした問題の積み重ねが地球環境への負荷を大きくしています。

大場:都市の問題の影響を受けているのは人間だけではありません。都市周辺にすんでいる生物たちは、都市活動による環境破壊や汚染物質によって悪影響を受けています。便利な都市においても、生物たちへの配慮が必要です。

戸川:都市には機能が集中しているので、郊外からたくさんの人やモノが集まってきますし、郊外へも出ていきます。都市部では交通や流通網が発達していますが、一方、人口の少ない郊外では交通が整備されていなかったり、エネルギーの供給が不便だったりします。都市が発達すると、このような地域間の構造の格差も生み出します。

Q:都市をめぐる問題を解決し、都市を持続させるにはどうしたらよいのでしょうか。

藤井:都市では大量の資源やエネルギーを消費します。エネルギー源となる化石燃料の消費は資源の枯渇ばかりでなく、大気汚染や二酸化炭素の発生による地球温暖化を引き起こします。また、都市活動にともなう廃棄物による環境負荷を減らさなければなりません。そのためにはまず、資源・エネルギーの問題を解決することが重要だと思います。これが解決されれば、都市の活動への制約が減って、そのほかの問題へと対策を広げていくことができますからね。
 対策としては、リデュース(ごみの発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(ごみの再利用)の3Rや、未利用資源やエネルギーの活用、省エネルギー、再生可能エネルギーの利用を進めることです。このようにして、資源をうまく活用し循環させれば、都市の機能を持続させつつ、資源消費や廃棄物の削減ばかりでなく、低炭素化など環境負荷を減らしていくことができると考えています。私たちは、エネルギーの安定供給や低炭素化を実現した将来の都市の姿を描くことをめざし、そのためのしくみづくりを考えています。

低炭素型の都市をめざす

Q:研究のねらいは何ですか。

藤井:私が注目しているのは廃棄物の活用です。廃棄物や未利用エネルギーを活用し、資源を効率よく循環させるしくみをつくることで、都市の中でも資源やエネルギーを大量消費している産業を低炭素化したいと考えています。廃棄物の適正処理の側からも、産業の既存施設を使って、なるべく無駄な設備投資を減らし、変化に対して対応できるようなしくみづくりが大切です。化石燃料への依存から転換し、産業と共生した低炭素型都市をめざしています。

大場:私は都市と自然との共生を目標に、木質バイオマスに注目して研究しています。木質バイオマスとは木材やチップなどのことで、間伐材も含まれます。日本の国土の7割近くが森林で覆われていますが、その30%強は1950-60年代に植えられたスギやヒノキなどの人工林です。植えられて50年を超えますが、間伐などの適切な手入れがされなかったため、木材としての価値が低く、機能が低下している森林が問題となっています。一方、海外から安価な木材を大量に輸入しており、国内の森林生態系を放置しているだけでなく、海外の生態系にも負担をかけているのが現状です。このような事態を防ぐために国内の森林に目を向け、バイオマスとして都市で利用するしくみをつくりたいと考えています。

戸川:私は交通利便性が高い結節点(ハブ)に住宅やオフィスを集めた都市である「コンパクトシティ」という概念に興味を持って研究を進めています。コンパクトシティでの交通の利便性にエネルギーという視点をプラスして、エネルギーを効率よく活用し、人々の暮らしや産業に適した空間構造とはどういうものかを明らかにしていきたいです。

様々な視点から都市を考える

Q:研究を始めたきっかけは何ですか。

藤井:わたしは化学工学が専門で、学生の頃は海洋の植物プランクトンが二酸化炭素を吸収するしくみについて研究していました。一見すると単純な化学反応でも、実際に、そこには実に多くの化学反応が含まれていてとても複雑です。しかし、その中の律速段階と呼ばれる化学反応を制御することができれば、全体を制御することができます。いまは、研究の対象がリサイクルや都市環境へと変わりましたが、考え方は一緒で、都市の持続性という複雑な問題を考えたときに、全体を左右する重要な律速段階に相当する箇所は、都市の資源とエネルギーの使い方になると考えています。そして、都市のエネルギーの使い方を改善することが、地球全体の環境維持にも有効なのです。このような認識を持ったことが、現在の研究を始めたきっかけです。

大場:私は森林の研究をしており、都市部や農地以外の山間地域や森を守る方法を模索してきました。改善するいろいろな方法を提案しても、都市と協調できずに実現できないことも多かったのです。そこで、視点を変えて都市の側から研究してみるのもいい方法かもしれないと今の研究を始めました。

戸川:私は空間情報学が専門で、エネルギーの観点から都市の研究を始めたのは当研究所に赴任した2年半前からになります。以前は、地理情報システムというツールを使って、人々の居住地として最適な場所をシミュレーションしていました。こちらに移ってからも研究の根本は変えていませんが、新たにエネルギーという観点を加え、資源を効率よく活用するための都市構造について調べています。

Q:研究はどうやって行うのですか。

写真
海面や土地が大量の廃棄物で埋め立てられている現状

藤井:統計データや観測データを使って、様々な都市で使用されている資源やエネルギーを分析し、効率よく利用するしくみを考案しています。例えば、ある工場で熱が余っている場合、別の工場に送って利用すれば、燃料の消費や二酸化炭素の排出量を抑えることができます。しかし、このしくみを実行するためには、工場間の距離が近く、適切なタイミングで熱を送れなければ意味がありません。そのため、工場の立地や輸送時間をふまえてマッチングができるのかどうかを検討します。また、廃棄物をエネルギーとして再利用するためには、さまざまな場所から回収しなければなりません。廃棄物は工業地帯から大量に出されることもあれば、住宅地から少しずつ出されることもあります。排出される場所や量にばらつきがある廃棄物を効率よく集めるためには、新たな社会システムをつくる必要があります。そのために、新しい制度を行政に提案したり、技術と政策の組み合わせを考案したりしています。

大場:私は、森林のシミュレーションモデルを使って、森林が二酸化炭素や窒素酸化物などをどれくらい吸収するか、水をどれくらい貯められるかを計算しています。研究では、50~100年単位の長いスパンでの森林の変化を調べる必要があるので、モデルが役に立つのです。このモデル自体は昔から使われてきましたが、バイオマスの目的で使ったのはかなり先駆的だと思います。シミュレーションモデルをもとに都市で木質バイオマスを使ってもらうにはどうすべきかに主眼を置いて研究しています。

戸川:都市の空間構造を考えているので、空間シミュレーションを用いて研究しています。また都市計画においては、どんなところに何をつくればいいのかといった適地を選択する必要があります。そんなときには、都市経済学の理論を用いて考えます。

地域での取り組み

Q:持続可能な社会システムを考えるためにモデルとなる都市はありますか。

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業共生発祥の地カルンボー(デンマーク)の風景

藤井:たとえば、デンマークのカルンボーは、産業共生発祥の地として知られています。産業共生は40年前に始まったのですが、今では工場と都市が共存しており、火力発電所を中心に広がっています。パイプラインを通して、エネルギーや水のやりとりをして、二酸化炭素を大きく削減しています。このような取り組み事例を参考に、システムを考えています。

Q:どんな都市を対象に研究しているのですか。

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広大な太陽光発電施設

大場:私は、これまで、愛知県の名古屋市、豊田市、三重県の松阪市など様々な都市を研究対象としてきました。現在は、福島県の新地町を中心に研究をしています。新地町は、沿岸部の最北端にあり、宮城県との県境に位置し、町民の一部は仙台にも通勤しています。2011年に発生した東日本大震災では、津波の被害を受けました。国立環境研究所では、環境と経済が調和した持続可能な環境都市の再生をめざして新地町と連携研究を行っており、その一環として研究しています。震災以降、東北地方の太平洋沿岸の都市を復興し、持続的に発展させることは、重要な課題です。新地町を元の状態に戻すだけでなく、持続可能な都市として日本全体を引っ張るような場所に変えていきたいです。

Q:新地町の研究はどの程度進んでいますか。

大場:従前の都市機能を元通りにする作業は順調に進んでいます。現在は、この地域のエネルギー源となる未利用資源や再生可能資源にはどんなものがあるのか、どのように利用するのかなど持続可能な都市に変えていくための構想を練っています。今後は町役場や関連企業と話し合いを重ねて方針を決めていきたいと思っています。私は東北の宮城県出身ですので、故郷や被災地の復興に役立つような研究をしたいと思っていました。今回は新地町の研究に携わることができて、大きなやりがいと責任を感じています。被災地では地震や津波の被害に加え、人口が減少して都市の力が衰退するという悪循環も起こっています。このような事態を防いで、東北を少しでも明るくできるようにしたいと研究を進めています。

戸川:新地町役場のみなさんなどの協力のおかげで、研究は順調に進んでいます。計画の実行に向けて、住民のみなさんに環境保全を理解してもらうためのワークショップや講演会を行ったり、学校で出前授業をやったりしています。また、事業実施のための協力企業を探したいと考えています。こうした街づくりには、研究者自身も経済やビジネスの知識を持つことが必要だと実感しています。

Q:海外の都市も研究対象にされているのですね。

藤井:中国の北部にある瀋陽市の研究機関とは研究協定を結んでいて、廃棄物を活用してエネルギーにするしくみを検討しています。中国ではごみの分別が一般的ではないので、環境教育の実施と合わせて廃棄物の分別収集実験を行いました。大学構内に分別ごみ箱を設置し、ごみの分別の様子を調査したのですが、調査した冬季は気温がマイナス30℃にもなる寒い時でした。過酷な調査でしたが、先生や学生さんたちが熱心に実験に協力して下さったので、うれしかったです。また今年度からは、インドネシアのボゴール農科大学とバンドン工科大学との共同研究が始まりました。このプロジェクトでは、インドネシアの都市にセンサーを設置し、住宅や工場等のエネルギー消費量などを測定します。そのデータをもとに、都市で排熱を有効利用するシステムなどを提案していきます。

社会のニーズに役立つ街づくりを

Q:今後はどのように研究を進めていきたいですか。

藤井:社会に、研究で提案しているような都市のしくみを実際につくっていきたいです。エネルギーのしくみを考えると言っても、いま、すごいスピードで技術が進歩しているので、悠長に研究しているとあっという間に研究が役に立たなくなってしまいます。社会の変化に対して強い、また柔軟な提案をすれば長期に対応でき、世の中に役立つ研究になるのではないかと考えています。

写真
近代的なビルの周辺の樹木

大場:休日の都会の公園には、人々が緑を求めて殺到しています。一方、このつくばには緑がたくさんあってそんなことはありません。その様子を見て、都市と郊外では、人々が自然に触れ合う機会に不公平があると感じました。さらに、山間地では、自然が豊かすぎてクマなどの動物が人に被害を及ぼすニュースを毎日のように見かけます。生物多様性や自然保護とは見方が異なりますが、都市計画の観点からは、このように場所による自然環境や生態系の不公平なところを少しでも是正するための研究ができればいいなと思っています。

戸川:課題に応じたエネルギーや交通などの新たな使い方を検討していきたいです。気候変動や災害など地球温暖化の影響で国内の気候が変わってきており、都市計画やエネルギー計画において今までの手法が通用しなくなってきています。日本では人口減少といった新たな課題を抱える都市も顕在化しつつあるので、日本の都市をよりよいものにするために、時代のニーズに適応した新たな対処方法を構築したいと思っています。

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