ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2020年6月4日

共同発表機関のロゴマーク
日本の水草に気候変動の影響
-120年・248湖沼のデータから見えてきた絶滅リスク-

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

令和2年6月4日(木)
国立研究開発法人 国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
気候変動適応センター
 特別研究員 Kim JiYoon
 室長 西廣 淳
 

   国立環境研究所気候変動適応センターのキム・ジユン特別研究員と西廣淳室長は、全国湖沼における過去およそ120年間の水草の分布記録を活用し、それぞれの湖沼に分布している水草の種類構成の変化に影響する要因を解析しました。その結果、変化をもたらした要因として、湖沼の地形学的特徴や周辺の土地利用だけでなく、気温や降水量といった気象条件の影響が大きいことが明らかになりました。これは、気候変動の進行をくい止めることが、湖の生態系を守る上でも重要であることを示唆しています。
   本成果は、5月23日に環境科学分野の国際学術誌「Science of the Total Environment」に掲載されました。
 

1.背景と目的

水草種数の変化の例の図
図1 水草種数の変化の例
(Nishihiro et al. 2014※2のデータで作図)

   湖沼の水草は、それ自体が生物多様性※1の構成要素であるとともに、魚の産卵場の形成などを通じ、漁業などの人間活動にも大きな役割を果たします。しかし近年、日本の湖沼では水草の種類が急速に減少しており(図1)、日本に生育する水草の約1/4の種で絶滅のおそれが指摘されるほどになっています。この水草の衰退の要因として、これまでは水質悪化や除草剤の影響などが指摘されていました。しかし気候変動の影響についてはほとんど検討されていませんでした。気候変動影響の検討のためには、長期的・広域的なデータが必要だからです。
   本研究では、西廣らが先行研究で構築した日本の湖沼における水草分布の総合的なデータベース※2を活用し、1)湖に生える水草の種類の変化や消失にはどのような要因が影響しているのか? 2)水草の種ごとの形質(形や性質)の違いは消失しやすさ・存続しやすさと関係しているのか? といった課題を検討しました。

2.方法

解析に使用したデータ:日本全国の湖沼の水草記録を集約したデータベースのうち、1900年台以降・248湖沼(図2)・58種の水草の分布データ。1901年以降の気象データ(気温・降水量など)。湖沼周辺の土地利用(森林率、農地率など)、湖沼の地形学的特徴(堰き止め湖、火山湖など)の環境データ。
解析手法:期間を1900年代~40年代、50年代~70年代、80年代~2000年代の3時期に分け、それぞれの時期における各湖沼の水草の種類構成校と環境条件の関係を、Joint SDM(複数種の分布を同時に推定できる統計モデル)で分析。

解析対象とした湖沼の地点の図
図2.解析対象とした湖沼.

3.結果と考察

   解析の結果、ヒシやクロモのように多くの湖沼で安定して存続していた水草が確認された一方で、コウホネ類(オグラコウホネ・オゼコウホネ等)、ヒルムシロ類(オヒルムシロ・ナガバエビモ等)のように顕著に減少した水草も見出されました。特に沈水植物(茎も葉も水中にある水草)の減少が顕著でした(図3)。
   湖沼の環境では、周辺での宅地や農地の増加、気温の上昇、降水量の変動性の増大などの変化が認められました。このことにより、水草の種類構成の変化に影響する要因として、湖沼の地形学的特徴や周辺の土地利用という他の研究で重要性が示されていた要因に加え、気候変動(温度上昇・降水パターンの変化)の影響が示されました(図4:水草変化の14.0%が気候変動で説明)。また種ごとに分析した結果、2/3の種で気候変動による統計的に有意な影響が検出されました(たとえばヒンジモ、イトクズモ、オニバス、デンジソウ、ヒシモドキ)。このことは気候変動の進行が、湖沼の水草の種類構成の変化をもたらしうることを示唆しています。
   また植物の形質との関係を分析した結果、水中で送粉(花粉のやり取り)をする植物は降水量が多いところで存続しやすいなど、これまで気づかれていなかった傾向が示唆されました(図5)。そのメカニズムの解明は今後の課題です。

湖の水草の種数における沈水植物の割合(沈水植物/(浮葉+浮遊植物))を示した図
図3.湖の水草の種数における沈水植物の割合(沈水植物/(浮葉+浮遊植物)).各時期の多角形はデータの25-75%、縦棒は10-90%範囲、周辺の灰色の範囲はデータの密度分布を示している。
水草種ごとの変化要因を表した図
図4.水草種ごとの変化要因。上の凡例の通り、変化に対する各要因の影響の程度を色分けした。水草全体では、気象要因により変化の14.0%、湖沼の周辺環境の影響により10.5%、湖沼の地形学的特徴により25.4%が、説明された。
水草の存続しやすさに対する湖の環境と植物の形質の影響を表した図
図5.水草の存続しやすさに対する湖の環境と植物の形質の影響.

4.用語・引用文献

※1 生物多様性:地球上の生物の豊かさ。2020年は生物多様性条約における「愛知ターゲット」の評価と新たな国際目標が定められる年にあたる。
※2 Nishihiro J, Akasaka M, Ogawa M, Takamura N (2014) Aquatic vascular plants in Japanese lakes. Ecological Research (Data paper) 29: 369. DOI: 10.1007/s11284-014-1139-0

5.研究助成

   本研究はキム博士研究員と西廣室長が東邦大学理学部生命圏環境科学科に所属していた2017年から着手、2019年に国立環境研究所に移籍後も継続し、まとめたものです。なお、科学研究費補助金(17F17387)および(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-2001)により実施しました。

6.発表論文

【タイトル】Responses of lake macrophyte species and functional traits to climate and land use changes
【著者】Kim JiYoon & Jun Nishihiro
【雑誌】Science of the Total Environment【DOI】10.1016/j.scitotenv.2020.139628

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 気候変動適応センター
気候変動影響観測・監視研究室 室長
(東邦大学理学部非常勤講師) 西廣 淳

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室
   E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   TEL:029-850-2308

関連新着情報

関連記事

関連研究報告書