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2018年4月27日

統合研究の意義

特集  アジアと世界の持続性に向けて

増井 利彦

 国立環境研究所の第4期中長期計画が始まって3年目を迎えました。第4期中長期計画から課題解決型研究プログラムの1つとして新たに開始された統合研究プログラム(以下、統合PG)も様々な成果が得られつつあります。本号の特集では、「世界及びアジアを対象とした持続可能シナリオの開発に関する研究」や「国際応用システム分析研究所での海外研修を通して(研究調査日誌)」など、統合PGのPJ1(世界及びアジアを対象とした持続可能シナリオの開発に関する研究)の概要とそれに関わる研究活動を紹介していますが、その前に改めて「統合」研究の意義を述べたいと思います。

 「統合研究で何を統合するのか?」という問いは、統合PG内において現在も議論となることがあります。図1では、「複数の環境問題の統合」「環境、経済、社会の統合」「空間領域(地方から世界)の統合」「時間軸(短期から長期)の統合」「分析手法(定量的・定性的)の統合」を挙げています。では、なぜ統合研究が必要なのでしょうか?その答えの1つとして、環境問題そのものが1つの学問分野のみで解決できるような問題ではないということが挙げられます。ただし、これまで個別に取り組まれてきたことを、単に集めてまとめるだけでは十分ではありません。また、効果的な対策を実施、継続するためには、環境問題の解決とともに、社会や経済に対する影響も考慮する必要があることも挙げられます。中央環境審議会の長期低炭素ビジョン小委員会が2017年3月に公表した「長期低炭素ビジョン」では、「気候変動問題と経済・社会的諸課題の同時解決」がはじめに示されています。また、本号の環境問題基礎知識にも取り上げられているSDGs(持続可能開発目標)が示す17の目標では、環境とともに社会、経済に関わる目標が取り上げられています。このように、1つの課題に対して、様々な分析が多角的な視点で取り組むとともに、相互に連携して解を示すことが統合研究の姿と考えています。

図1 統合研究の概略図
図1 統合研究プログラムで取り組む様々な断面での「統合」

 筆者が行う大学での講義では、環境問題を学ぶポイントとして、「いろいろな基礎理論を学ぶ」「いろいろな政策の現場に学ぶ」「現場を説明できる理論は何かを考える」「環境問題を多面的にとらえ直してみる」「将来の不確実性を考え、問題解決に向けた将来像(シナリオ)を描いてみる」という点を大学生に説明しています。これらのポイントそれぞれに、前述の統合研究の5つの要素が関わってきます。環境問題は様々な問題で構成されており、それぞれが密接に関わっています。「Aを解決すればBも同時に解決できる」というcobenefit(共便益)の関係にある問題もあれば、「Cを解決するとDが悪化する」というtrade-off(相殺)の関係にある問題もあります。本号の「気候変動抑制の鍵は賢明な政策にあり!?(研究ノート)」では、こうしたことがバイオマスを例に説明されています。また、今は深刻ではなくても将来は深刻になる可能性があったり、日本ではすでに対応できていても途上国ではまだ十分ではないといった問題もあります。このように、環境問題の解決には、様々な視点をもって様々な個別課題を対象に、統合的に取り組むことが必要となります。

 一方、統合研究が発展するためには、統合研究を構成する個々の研究や学問分野が発展することが必要であることは言うまでもありません。国立環境研究所では、これまでに多くの研究者が様々な課題に取り組んできました。統合PGでは、そうした多様な成果を活かしながら、持続可能な社会をどのように実現するかという課題に取り組みたいと考えています。さらには、研究だけではなく、統合PGでの考え方や取り組みを、国民の皆様に知っていただくとともに、アジアの途上国にもトレーニング等(本号の「AIM(Asia-Pacific Integrated Model)の開発を通じた人材育成(研究施設、業務等の紹介)」で記載しています)を通じて広めることで、持続可能な社会の構築に向けた自発的な活動を支援することも我々の責務であると考えています。国内外の我々の仲間と一緒に協力して、一歩ずつ前進していきたいと思います。

(ますい としひこ、社会環境システム研究センター 統合環境経済研究室 室長)

執筆者プロフィール

筆者の増井利彦

2017年夏に、東京工業大学で指導している研究室の学生が富士山登山を企画し、筆者も家族と一緒に参加しました。一歩ずつ着実に歩んで行く必要があるのは研究と一緒。苦労した分だけ頂上での喜びも格別でした。

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