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2020年10月1日

共同発表機関のロゴマーク
気候安全保障とはなにか
~まだ知らない気候変動のリスクに気づく~

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)

令和2年10月1日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
社会環境システム研究センター
 センター長 亀山 康子
防衛省 防衛研究所
 特別研究官 小野 圭司
 

   国立環境研究所社会環境システム研究センターの亀山康子と防衛研究所の小野圭司は、欧米の研究者の間で議論されている気候安全保障(Climate Security)の定義を整理し、日本の気候変動リスクの議論と照合させることで、日本で気づけていない気候変動リスクの有無を定性的に検証しました。その結果、海面上昇等による移民の増加を原因とする紛争の増加や、食料不足等による社会不安の増加等、国内では十分議論できていない社会的・地政学的リスクがあることが明らかになりました。新たな概念を導入することにより、今まで気候変動のリスクと認識されていなかった新たなタイプのリスクに気づき、備え方を話し合えるようになることが期待されます。
   本研究の成果は、令和2年9月26日付でサスティナビリティ分野の国際学術誌「Sustainability Science」に掲載されました。
 

1.研究の背景

   気候変動により台風や洪水といった被害が増加傾向にあることは知られるようになりましたが、これらの被害の結果さまざまな社会経済問題が悪化することは、国内ではほとんど聞かれません。しかし、気候変動の社会経済的なリスクは欧米では以前から指摘されており、「気候安全保障」(Climate Security)という概念の下で議論されてきました。例えば近年では、国家間の紛争について議論する場である国連安全保障理事会でも、気候変動が取り上げられるようになっています。
   国外では議論されている気候安全保障が、なぜ日本では取り上げられないのでしょうか。気候安全保障という言葉を使わなくても、日本ではすでに気候変動のリスクに適切に対応できているなら、敢えて新たな概念を持ち込む必要はありません。しかし、新たな用語や概念を導入することで今まで気づけていなかったリスクに気づくことができるのであれば、重要な示唆を得られることになります。

2.研究の目的

   日本では聞きなれない気候安全保障という概念が、欧米ではどのような意味で用いられているのかを分析し、その意味が日本ではいかなる用語を用いて表現されているかを確認することで、日本の気候変動リスクに関する備えの十分性を検証することを目的としています。

3.研究手法

   欧米では1990年代より、「環境安全保障」や「気候安全保障」という用語を用いた学術論文が公表されていますが、この用語の定義や意図していることは多様であることから、まずは、過去の主要な論文や政府の報告書等を網羅的にレビューし、定義を分類します。その後、分類された定義ごとに、日本で十分な議論ができているかを確認し、できていないものについて、日本におけるリスクの蓋然性を論じました。また「安全保障」を広く「生活・生存への脅威排除」と捉えて、軍事・紛争面での影響についても考察しました。

4.研究結果と考察

   安全保障という概念は、一般的には、想定している脅威、脅威から守るべき主体、守るための手段、の3要素で構成されます。この3要素で、気候安全保障に関する公表済論文や政府の報告書を分類したところ、表1に示す4種類に分けることができました。1つ目の定義は、長期的かつ不可逆的な地球規模変化を表現するものです。この定義は、気候変動問題を正しく理解できれば伝わるべきメッセージですが、地球温暖化や気候変動を他の国際政治課題と同レベルで重視してもらうことを意図して「気候安全保障」という言葉を用い始めた経緯がありました。つまり、日本では、気候変動の危機を正しく伝えることができれば、敢えて「気候安全保障」という用語を使う必要はないのですが、それが十分にできているかは検討の余地があります。
   2つ目の定義は、個人への短期的かつ突発的なリスクです。台風や洪水、熱波といった個人に直接損害を与える物理的な影響に加え、干ばつによる食料不足やダム水の枯渇による水力発電の電力供給不足といったベーシックニーズの供給が不安定になる可能性を指摘します。また、途上国でハリケーン等の被害が起きると先進国は人道支援要員を派遣しますが、派遣頻度が増えて負担が増えていることを米国政府の報告書は指摘しています。日本ではこれらのリスクを、気候変動影響の他、人間安全保障や食料安全保障といった用語で表現してきましたが、後者では気候変動影響との関連性が含まれないため、メッセージが伝わりづらいと言えます。
   3つ目の定義は、紛争や暴力の根源的要因です。海面上昇や異常気象が原因で、今まで住んでいた土地に住めなくなった人の移動が増えています。移動した先で、元から住んでいる住民との間で紛争が起きたり、治安が悪化することが指摘されています。世界では現在、この3つ目の定義での議論が精力的に行われていますが、日本では、ほとんどみられていません。
   4つ目の定義は、軍の施設がハリケーンや海面上昇で被害を受けると防衛力に影響が出るという意図で、主に米国の国防省関連の報告書で用いられています。つまり、防衛の分野においても今後は適応策を取り込む必要があるということになります。

気候安全保障の4種類の定義の表の画像

5.今後の展望

   海外で使われている「気候安全保障」概念を日本の気候変動に関する議論と重ね合わせることで、日本で十分検討できていない気候変動リスクが複数あることが示されました。実際に「気候安全保障」という用語を使うかどうかはさておき、上記に示したタイプのリスクが海外ではすでに指摘されていることを念頭に、日本でも、国内外での社会経済的なリスクを含めた気候変動の議論が進むことを期待します。日本は海に囲まれた国です。海面上昇による排他的経済水域(EEZ)の消失、今後増えていくと予想される環境難民の受け入れ可否、海水温度の上昇による魚類生態系の生息域の変化と近隣国との漁業問題、アジア地域での自然災害発生時の人道支援のあり方等について、検討を始める必要があります。

6.研究助成

   本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1801)により実施されました。

7.発表論文

【タイトル】
The Development of Climate Security Discourse in Japan

【著者】
Yasuko Kameyama, Keishi Ono

【雑誌】
Sustainability Science

【DOI】
10.1007/s11625-020-00863-1

【URL】
https://link.springer.com/article/10.1007/s11625-020-00863-1?wt_mc=Internal.Event.1.SEM.ArticleAuthorOnlineFirst【外部サイトに接続します】

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 社会環境システム研究センター
センター長 亀山康子

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
029-850-2308

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