
富士山頂における大気中二酸化炭素濃度の自動越冬観測の試み −低温、無人、無電源下の自動観測機器を開発−(お知らせ)
(筑波研究学園都市記者会 配付)
独立行政法人国立環境研究所
地球環境研究センター (029-850-内線番号)
副研究センター長・炭素循環研究室長 向井人史 (2536)
炭素循環研究室准特別研究員 須永温子 (2370)
上級主席研究員 野尻幸宏 (2499)
大気・海洋モニタリング推進室長 町田敏暢(2525)
研究センター長 笹野泰弘 (2444)
独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センターでは、2007年から環境省の委託を受け遠隔地での自動的な二酸化炭素観測のための機器開発を行い、今回、富士山のような厳しい環境下でのモニタリング方法について、一定の実用性のあるシステムができました。
このシステムは、冬季には商用電源がなく、温度が−20度以下となり、気圧が通常の3分の2である富士山頂であっても、10ヶ月以上の期間にわたり、1日に1回、二酸化炭素濃度を精度0.3ppm以下で測定し、データを衛星経由で送ることができるシステムです。
2年間の試験観測の結果を受け、実用的観測フェーズとしての2011年から2012年にかけての越冬自動観測に向けて、7月25日以降、観測機器の整備と本格的な観測を開始します。
1.経緯
国立環境研究所 地球環境研究センターでは、2007年から遠隔地での自動的な二酸化炭素観測のための機器開発を、環境省の委託を受け行ってきました。特に富士山のような冬季において厳しい環境下におけるモニタリング方法について、一定の実用性のあるシステムを開発しました。
これを実用化するために、冬季に閉鎖されている富士山特別地域気象観測所(旧・富士山測候所)を用いて、二酸化炭素測定システムの実用化試験などを2年間行い、2011年7月に、安定した濃度測定を実施できることを確認しました。富士山特別地域気象観測所のような冬季に人がメンテナンスに行くことができず、使用可能な商用電源も無い場所で観測を行うには、メンテナンスフリーで、低温に耐え、商用電源に頼らない観測を行うことができるシステムが特別に必要でした。それを開発し、2年間の試験の後、実用化が確認されたことにより、今年の本格的な観測を開始します。
なお、富士山特別地域気象観測所は無人化されていますが、現在、世界の「環境監視タワー」としての大気観測の研究拠点として「NPO法人富士山測候所を活用する会」が借り受けて活用しています。
2.システムの特長
このシステムは、冬季には外気温度−30度以下、室内温度-20度以下、気圧が通常の3分の2である富士山頂であっても、10ヶ月以上の期間にわたり、1 日に1回、二酸化炭素濃度を精度0.3ppm以下で測定し、データを衛星経由で送ることができるようになっています。電源として、低温で稼働するバッテリーを100個使用しており、測定時には機器の温度を0度以上に保って測定を行います。低温から守るべく保冷庫や保温材を使用して、装置内温度の低下を防いでいます。バッテリーは、10ヶ月間は電圧が保たれるように計算されています。これらのバッテリーは夏の間に充電し、越冬に向けて準備を行うことになります。毎日、衛星通信を用いて、富士山頂での二酸化炭素濃度データが自動的に送られるようになっています。
3. 比較対象
2年間の試験観測で、富士山(3776m)の二酸化炭素濃度がハワイのマウナロア山(Mauna Loa 観測所(3397m))とデータが整合的であることなどもわかりました。二酸化炭素は世界の各地で測定が行われていますが、ハワイのマウナロア山での観測が最も古く、1958年からの記録があります。富士山での二酸化炭素の観測は、その標高からハワイのマウナロア山と比較できる高さにあります。しかし、富士山での二酸化炭素の観測はアジアの中緯度の代表的なデータを提供するという観点から行われており、ハワイのマウナロア山とは異なる濃度変化が見られることが考えられます。
4.今後の展開
試験観測の結果を受け、実用的観測フェーズとしての2011年から2012年にかけての越冬自動観測に向けて、7月25日以降、観測機器の整備と本格的な観測を開始します。
今後、観測データについては、マウナロア山との二酸化炭素濃度の比較を行うほか、国立環境研究所地球環境研究センターで行っている波照間島(沖縄県)落石岬(北海道)などの観測所でのモニタリングデータとも比較することにより、二酸化炭素の東アジアでの発生の地理的情報を知ることができるようになると期待されます。
[研究協力]
本研究にあたり「NPO法人富士山測候所を活用する会」に設置や研究サポートなどの協力を得ています。また、機器の設計製作にあたり紀本電子工業(株)より技術提供を受けています。






問い合わせ先:
独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター
炭素循環研究室 向井人史、須永温子(029-850-2536)
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