ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2018年4月27日

持続可能な開発目標への道筋

特集 アジアと世界の持続性に向けて
【環境問題基礎知識】

長谷川 知子

持続可能な開発目標(SDGs)とは

 持続可能な開発目標(SDGs)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連にて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17の目標・169のターゲット(図1)から構成され、すべての国を対象としています。MDGsからの変更点は大きく3つ挙げられます。一つ目は、対象国です。MDGsは途上国向けの開発目標であったのに対し、SDGsは途上国のみならず、先進国も含む国際社会全体の開発目標として掲げられています。二つ目は、目標の数と内容です。MDGsでは、①貧困・飢餓、②初等教育、③女性、④乳幼児、⑤妊産婦、⑥疾病、⑦環境、⑧連帯の8の目標の下に21のターゲットがありました。一方、SDGsでは17の目標とそれらを更に細分化した169のターゲットとなりました。17の目標のうち、最初の1から6の目標は教育、母子保健、衛生といったMDGsでの未達成の目標やそれをより具体化し網羅的にした目標で構成されています。目標7以降は、環境汚染や気候変動に関する対策や自然災害への対応、国内や国際間の格差拡大、民間企業やNGOの役割の拡大など、15年間で大きく変化した国際的な状況を背景に、深刻さを増した問題や新たに浮上した課題が追加されました。三つ目は、実施する主体です。MDGsは国連の専門家が主導して取り組まれていたのに対し、SDGsでは国連に加盟する全ての国が主導して取り組むことが求められています。

SDGsの目標
図1 持続可能な開発目標(出典:国際連合広報センター)

日本の取り組み

 日本では、関係省庁が連携した取り組みを目指し、2016年に内閣にSDGs推進本部が設立されました。内閣総理大臣を本部長、全ての閣僚を構成員とし、日本でのSDGs達成に向けた取組の実施、モニタリング及び見直しを行う司令塔としての役割を担います。このSDGs推進本部は日本が2030アジェンダの実施に取り組むための国家戦略として、SDGs実施指針を作成しました。そこでは、SDGsの17の目標を日本の文脈に即した、140の国内及び国外の具体的な施策が指標とともに掲げられており、日本は国内実施と国際協力の両面で取り組むことが示されています。

 この指針に則り、日本では様々な主体(行政、企業、NGO、有識者、各種団体等)がそれぞれの立場でSDGs達成に向けて取り組んでいます。外務省のホームページにて紹介されている、2016年にジャパンSDGsアワードを受賞した取り組みを紹介します。地方自治体の取り組みとして、例えば、北海道下川町は、持続可能な地域社会の実現を条例に位置づけ、森林総合産業の構築、地域エネルギー自給と低炭素化、超高齢化対応社会の創造に取り組んでいます。大学の取り組みとしては、例えば、金沢工業大学はSDGsに特化したカリキュラムを導入し、SDGs達成に貢献する次世代リーダーの育成と成果の創出に取り組んでいます。民間セクターでは、例えば、住友化学株式会社が、環境面からSDGsに貢献する製品・技術を認定し、売上高として目標を掲げています。製品には、鶏飼料に添加することで排泄物中の窒素量を減らし温室効果排出量を抑制する物質や、マラリア媒介蚊を防除するために開発された蚊帳、航空機向けの炭素繊維強化プラスチックに配合することで機体の軽量化と燃費向上をもたらす物質などがあります。

持続可能な開発目標への道筋の定量化の取組み

 研究機関での取り組みの一つとして、我々国環研のチームでの取り組みを紹介します。私たち研究者のSDGs達成に向けた役割の一つに、SDGsの目標やターゲットの達成に向けた道筋と必要な政策や取り組みの効果を具体的な数値情報で示す、ということがあります。例えば、2030年で飢餓を撲滅する(SDG目標2)ためには、いつまでにどれくらいの食料がどの地域で必要で、飢餓に苦しむ人々に食料を支給するにはどのような政策や取り組みが必要か、ということです。

 さらに、SDGsには互いに関係する複数の目標が含まれていますが、ある目標への取り組みが他の目標にとってよい効果をもたらす場合もあれば、悪い効果をもたらす場合もあります。先ほどの飢餓撲滅の目標の場合、より多くの食料を生産するということだけを考えれば、化学肥料や農薬をより多く使うことになり、これは温室効果ガスの排出や土壌汚染をもたらします。また、農地を拡大すればその地域の生態系に影響があるかもしれません。また、農業は水を多く使う産業なので水不足に瀕する地域が増えるかもしれません。したがって、うまく設計しなければ飢餓撲滅に向けた対策は、水問題(目標6)、気候変動問題(目標13)や陸域生態系(目標15)にとって悪影響となるかもしれません。

 そこで、私たちはどのような取り組みや政策を打てば複数の目標にとって共便益があり、それらの同時達成を実現できるか、ということを明らかにしようと取り組んでいます。統合評価モデルと呼ばれる、経済市場、エネルギーシステム、土地・水などの資源や化学肥料・温室効果ガスなどの環境汚染物質などに起こりうる現象を記述した一連の数式からなるモデルを使って、計算機でシミュレーションを行っています。先ほどの飢餓撲滅(目標2)の場合、飢餓撲滅に必要な食料エネルギー量を計算してモデルに入力すると、モデルからは世界の各地域で必要な作物や畜産物の生産量、農地・牧草地面積、森林伐採量、窒素肥料量、水資源量などが出力されます。私たちはこの結果を使い、2030年までに飢餓を撲滅する世界ではどのようなことが起きるかを分析し、上に挙げたような疑問に答えます。

 これまでにおよそ分かってきていることは、飢餓を撲滅するために食料の不足分を追加的に生産するだけでは、上で述べたような環境汚染や環境破壊が起こってしまい、他のSDGs目標には悪影響をもたらす可能性があるということです。一方、途上国での飢餓や栄養不足問題の解決には、飢餓に苦しむ人々に対する食糧や経済的支援に合わせて、途上国への高効率的で持続可能な農業技術の移転、先進国を中心に起きているカロリーの過剰摂取や食事の内容の見直し、食品ロスの削減を実施することで、飢餓撲滅による環境への副作用を減らすだけでなく、環境や人々の健康にとってよい影響をもたらすことがわかってきています。さらに、農業生産効率が相対的に低い(同じ食料量を生産するのに多くの資源を必要とする)途上国への持続可能な農業生産技術の移転は、これらの地域での環境汚染を抑えて持続可能な農業を実現させるとともに、途上国での貧困層の自立を促すなど、他の持続可能目標によい効果をもたらすことも期待されています。

 このように、研究者らは今もっている道具を組み合わせてSDGs達成の過程で発生しうる現象を明らかにしようと取り組んでいますが、まだ全てのSDGsの目標を網羅できているわけではありません。どのようにして高精度に多くのSDGs目標を取り込んで分析し、より良い政策提言ができるか、研究者らは日々知恵を絞っています。

(はせがわ ともこ、社会環境システム研究センター 環境社会イノベーション研究室 研究員)

執筆者プロフィール

筆者の長谷川知子

2016年9月から2年間オーストリアにある国際応用システム分析研究所にて勤務しています。週末にはウィーン市内の公園を散歩したりジョギングをしたりして過ごしています。昨年は人生初のハーフマラソンに挑戦しました。

関連新着情報

関連記事