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2021年6月30日

公害問題から地域の持続可能性に向けて

【地域環境保全領域の紹介】

高見 昭憲

 地域環境保全領域は、歴史を紐解くとその前身において大気、水質、土壌汚染などいわゆる公害問題に関する研究を進めてきた経緯があります。「大気・水・土壌」は、過去も現在も未来も人間や生物・生態系が生存し、人々が社会活動を営むために必要不可欠な基盤です。私たちは、人間の活動、動植物や火山など自然起源の物質について、その発生・輸送・反応・消失という物質循環を理解し、「大気・水・土壌」をより良い状態に保全し、それらの持続的な利活用が可能となることを目指して調査・研究・技術開発を行います。

 「地域」という言葉にはいろいろな対象が含まれます。「全球」との対比におけるアジア、日本、都市など空間的・社会的まとまりを指す場合や、市町村など個別・実践的な取り組みの場としての地域を指す場合などがあります。私たちは、霞ケ浦や筑波山など個別の対象や東京、福岡、バンコクなど都市スケールの課題、また、もう少し広く琵琶湖から瀬戸内海までの流域から内湾につながる近畿地方のような県をまたがる地方スケールの課題、さらには、越境大気汚染や半乾燥地域など日本全体やアジア域を対象とする領域スケールの課題など、様々なスケールの「地域」を研究対象としています。これら「地域」における様々な環境問題について、まずは大気、水質、土壌に関する課題の解決を目指します。

 地域環境保全領域は大気系2研究室(大気モデリング、広域大気)、水環境系3研究室(湖沼河川、琵琶湖分室—水環境、海域環境)、土壌系1研究室(土壌環境)、環境技術系2研究室(環境管理技術、主席)、及び、連携研究グループ(大気化学)から構成されており、大気、河川湖沼、沿岸海域、土壌、陸域、環境技術など幅広い分野をカバーしています(図1参照)。第5期中長期計画期間(2021年から2025年度まで)において私たちは地域における課題解決を目指す研究を行いますが、そのためには基礎・基盤的な研究が重要であると考えています。例えばオゾンや微小粒子状物質(PM2.5)のような大気汚染の課題であれば、大気中の物質循環を理解するために、排出インベントリの整備、大気モデルの改良、大気化学反応のプロセス研究の基礎的な知見の蓄積が重要です。また、私たちの理解が妥当かどうかを検証するためには、大気の長期モニタリングデータが必要です。これは大気系の研究に限ったことではなく、水・土壌・環境技術の研究にも当てはまります。地域環境保全領域では、地域の課題という応用問題の解決を目指しつつ同時に基礎・基盤的研究も大事であると考えて研究を進めます。

地域環境保全領域の研究概要図
図1 地域環境保全領域の研究概要

 近年、温暖化による気候変動、廃棄物の不法投棄、化学物質による曝露、土地の開発や放棄と生物多様性の維持との両立、環境と経済の両立、豪雨や地震のような災害など地域の環境に影響をもたらす要因が多様になってきています。地域環境保全領域においても、これまでのように、大気、水質、土壌汚染といった単一の課題の解決を目指すのではなく、地域社会の持続可能性を考慮に入れ、地域社会における様々な課題に対してより広い観点からの研究が重要になります。多種多様な地域環境の諸問題に対応するため、私たちは、国立環境研究所内はもとより、国内外の研究者・研究機関、さらには、それぞれの地域の関係者(ステークホルダー)と協力し、複合的視野をもって、より良い環境の創造につながる具体的な解決策を提案できるよう研究を進めます。第5期中長期計画期間において私たちは、社会システム領域をはじめ所内の様々な分野の研究者が参加する「持続可能な社会実現のための地域共創型課題解決方策の構築と支援研究プログラム」をスタートさせ、持続可能な地域社会の実現に向けて必要な研究を進めます。

(たかみ あきのり、地域環境保全領域 領域長)

執筆者プロフィール

筆者の高見昭憲の写真

大学の時に教授が「基礎こそ応用」と言われました。「応用問題の解決には表面的な改良ではなく本質的な理解が重要である」と理解しています。地域環境問題の解決を目指しつつも、基礎研究も大事にして研究を進めたいと思います。

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