地方自治体におけるSDGsの
推進体制整備に向けて
特集 災害からの復興と持続可能な地域づくり
【研究ノート】
辻 岳史
1.はじめに
読者の皆様のなかには、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の理念や内容をご存じの方も多いのではないかと思います。SDGsは2030年までに持続可能な地球環境および社会を目指す世界共通の目標であり、17のゴール・169のターゲットから構成されるものです。SDGsの17のゴールは経済・社会・環境の3つの領域に拡がっていますので、地域社会でSDGsの達成にむけた取り組みを進めるためには、市民はもちろん、企業やNPOなどの様々なステークホルダー(利害関係者、以下「SH」と表記)が連携して、SDGsの推進体制を整備することが不可欠です。
SDGsの推進体制を整備するうえで、重要な役割を果たすのが地方自治体(都道府県・市区町村)です。地方自治体は自らSDGsの達成に向けて政策を実施することに加えて、様々な手法を用いてSDGsの推進に取り組む地域のSHに働きかけて、調整する役割を果たします。私たちは、地方自治体を中核とする地域社会の様々なSHが、どのようにSDGsの推進体制を整備できるかという点を明らかにすることを目指して調査研究を進めています。
2.住民参加型ワークショップを用いた地方自治体におけるSDGs推進の支援
地方自治体はSDGsの推進にむけて、政策の受益者・参画者となる住民の関心や課題認識を把握して、政策を立案する必要があります。政策への関心や課題認識に関する情報を住民から直接集める手法としては「住民参加型ワークショップ」が挙げられます。私たちは、福島県郡山市で住民参加型ワークショップ—SDGsから郡山の未来を考えるワークショップ—(以下、「WS」と表記)を企画・運営(郡山市政策開発課・特定非営利活動法人うつくしまNPOネットワークとの共催)して、郡山市のSDGs推進体制整備の支援をするとともに、SDGsの推進に向けて郡山市民が抱える関心や課題認識を分析しました。
WSは、2018年に計3回(第1回9/20、第2回10/19、第3回11/27)開催しました。WSには8の郡山市役所担当部局(市民・文化スポーツ・生活環境・農林・産業観光・建設交通・保健福祉・教育委員会の各部局)、2の公益法人・独立行政法人、3の福島県内・郡山市内企業、1のNPO、1の公募の計15組織・13~21名が参加しました。参加者は毎回、3つのグループに分かれてワークを実施しました。第1回では郡山市の地域課題を、第2回ではSDGsの観点から参加者自身が日常的にどのようなまちづくりの活動をしているかを挙げていただきました。第3回ではSDGsの観点から、郡山市の地域課題を解決するための活動のアイデアを挙げていただきました。
私たちは第3回WSにおける各グループのワーク記録(写真2)から、90の地域課題解決のアイデアを抽出しました。SDGsの169ターゲットの内容を参照して、90のアイデアに関連するSDGsの目標を17の目標ごとに特定して、関連するSDGsの目標が類似するアイデアを集約しました。結果、参加者から提案されたアイデアから、8つの分野(「1. 健康・福祉」「2. 労働環境」「3. 環境教育」「4. 身近な環境」「5. 気候・エネルギー」「6. 交通整備」「7. 圏域の活性化」「8. 連携」)を抽出しました。参加者が挙げた郡山市の地域課題解決に向けたアイデアの総数の上位3分野は、「1. 健康・福祉」「5. 気候・エネルギー」「7. 圏域の活性化」でした。
さらに私たちは全3回のWS終了後に、参加者から提出いただいたレポートを分析しました。レポートでは第3回WSの分析から抽出された8つの分野のうち、参加者が最も重視する分野を尋ねるとともに、郡山市におけるSDGsに関わる政策・活動に対する意見を自由記述で尋ねました。結果、最も多くの参加者が重視していたのは「8. 連携」でした(11名中5名)。自由記述では、SDGsが郡山市のまちづくりに関わる様々なSHを繋ぐツールになることへの期待、SDGsの達成に向けて様々なSHが協力して、各々の専門知識や資源を活用する必要性等が指摘されました(表1)。
3.SDGsの推進体制整備に向けた地方自治体職員の取り組みと認識
私たちは2020年1月~3月に、福島県内市町村の行政部局(課室)を対象として、地方自治体職員のSDGsに向けた取り組みと認識に関するアンケート調査(注1)を実施しました。この調査では、地方自治体におけるSDGs推進体制整備の現状と自治体職員について、様々な角度から質問をしました。SDGsの推進体制には地方自治体内部の部署間の連携(以下「庁内連携」と表記)と、地方自治体行政とその他のSHとの連携(地域内連携)の二つの側面がありますが、本稿では庁内連携に関する結果の一部を紹介します。
庁内連携について本調査では「貴自治体でSDGsが推進された場合、あなたは貴自治体内において部署間の連携が強化されると思いますか」と質問したところ、「連携が強化される」と回答した方が56.3%、「連携は強化されない」が16.5%、「どちらともいえない」が27.2%でした(944人中)。SDGs導入による庁内連携強化への認識には、回答者の所属部署によって差がみられました(図1)。SDGsの導入が庁内連携強化に及ぼす影響について、環境担当部署では肯定的に評価する回答者の割合が高い一方で、都市整備・公営企業などの現業部門の担当部署では比較的低くなっています。本調査ではSDGsの達成に向けた取り組みの実施状況も質問しましたが、「実施している」と回答した方の割合が環境担当部署では61.9%(21人中)であった一方で、都市整備担当部署では43.9%(107人中)と、こちらも部署間の差が確認されました。地方自治体におけるSDGsの推進体制整備は、部署間の取り組みの実施状況や認識の差異を前提に進めていく必要があることを示唆する結果です。
地方自治体はSDGsの推進体制整備に向けて、SDGsの登場以前から抱えている行政運営上の課題に直面する可能性があります。本調査では「貴自治体がSDGsを推進する際の課題や障壁はどのようなものが考えられますか」と質問したところ、回答者の多くが地方自治体内部のマンパワー不足や経験・専門性の不足などの課題・障壁を挙げました(図2)。本調査が対象とした福島県の市町村は人口3万人未満の小規模自治体が多いことが結果に反映されていると考えられますが、2019年度の時点で日本の市町村の84.9%が人口10万人未満の市町村であることを考慮すれば(注2)、この質問で本調査が確認したSDGs推進の課題・障壁は他地域の地方自治体でも確認しうる可能性があります。
4.おわりに
本稿では、郡山市におけるWSと福島県内市町村の行政部局へのアンケート調査の結果から、SDGsの導入が地域社会のまちづくりに関わる様々なSH同士の連携を強化することに対して、SHが一定の期待を抱いていることに言及しました。他方で、地方自治体内部(部署間)にはSDGs達成に向けた取り組みの実施状況や認識の差異があることに言及して、地方自治体におけるSDGsの推進体制整備はこの点を前提に進める必要があることを指摘しました。さらに、地方自治体におけるSDGsの推進体制整備に向けては、マンパワー不足などの課題・障壁があることに言及しました。
私たちの調査結果は、地方自治体が長年にわたって直面している「縦割り行政」や資源の不足(マンパワー・予算の不足、自治体職員の経験・専門性の不足など)といった行政運営上の課題が、SDGsの推進体制整備と無関係ではないことを示唆するものです。私たちは本稿で紹介したような基礎的な調査を進めながら、調査の結果をもとに、地方自治体のSDGs推進体制整備に向けて実現可能な方策を提案するとともに、方策の一般化を目指していきたいと考えています。
(注1)1,275課室等に調査票を郵送し、955件の回答を得ました(回収率74.9%)。調査対象には課室のほか、課長級の職員が配属されている「事務局」(農業委員会事務局など)や「委員会」(選挙管理委員会など)も含まれています。また、「支所」「出張所」などの市町村の全域を業務範囲としている機関も調査対象に含まれています。調査対象者は課長級の職員であることから、91.1%が50代以上でした。また、回答者の45.3%が人口3万人未満の市町村に所属しており、小規模自治体に所属している職員の割合も少なくありませんでした。
(注2)『令和3年版地方財政白書』第1部・第40表を参照。
執筆者プロフィール:
阿武隈高地のなかほど、山と森に囲まれた三春に住んで5年が経ちました。この地で子どもを授かり、2歳の息子と0歳の娘の子育てに励む日々です。妻・子どもたちと一緒に、阿武隈の山々や森に親しむ体験ができる日が今から楽しみです。