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2018年4月27日

AIM (Asia-Pacific Integrated Model) の開発を通じた人材育成

特集 アジアと世界の持続性に向けて
【研究施設・業務等の紹介】

増井 利彦

 国立環境研究所では、1990年からAIM(Asia-Pacific Integrated Model;アジア太平洋統合モデル)という統合評価モデル開発を行っています。統合評価モデルとは、気候変動問題の解決に向けた政策や行動を評価するために、社会・経済活動から、温室効果ガスの排出、蓄積とそれによる気温上昇や様々な環境の変化や影響を対象としたコンピューターシミュレーションモデルの総称で、AIMのほか世界には様々なモデルがあり、IPCCがこれまでに報告してきた評価報告書においても数多く引用されてきました。日本においても、AIMの結果は、温室効果ガス排出削減の目標や炭素税等の議論に使用されています。日本におけるAIMの結果については、日本温室効果ガス排出量削減目標達成に関するAIMによる分析結果を参照して下さい。

 こうしたモデルをアジアの途上国に対して適用し、そうした国の将来シナリオや温暖化政策に役立ててもらおうという取り組みを、国立環境研究所では、京都大学やみずほ情報総研と一緒に行ってきました。こうした活動は、欧米のコンサルタント等によっても行われていますが、多くの取り組みでは、データだけを各国に集めてもらい、分析そのものはコンサルタントが行うということが一般的です。しかしながら、そうしたことでは途上国の人材が育成されず、また、分析のノウハウも残らないために、いつまでも先進国による支援等に頼ってしまうという問題があります。AIMチームでは、「各国の取り組みは、その国の研究者や政策決定者が決めることが重要で、その手助けをする役割に徹することが重要」と考えています。つまり、将来の温室効果ガス排出量の推計や将来の対策の評価など様々な計算については、実際に取り組む途上国の人たちが考えて手を動かし、我々は、ツールの提供やこれまでの経験を彼らに伝えて一緒に議論することが、本当の意味での発展や温暖化対策に貢献するという考えのもとで、取り組んできました。こうした取り組みのもとで実施してきたのが、AIMを対象としたトレーニングワークショップです。

 トレーニングワークショップは、1997年に初めて行いました。2002年には、インドで開催された気候変動枠組条約の第8回締約国会議の期間中にデリーにおいて実施しました。それ以降、ほぼ毎年、トレーニングワークショップを開催してきました。トレーニングを通じて、アジアの研究者がAIMを用いて学術論文を書いたり、学位を取得したりすることのほか、一部の国では温暖化政策にも貢献するようになっています。

目的に応じてトレーニングを分ける

 こうしたトレーニングの重要性は、近年ますます高まっています。その一方で、トレーニングを受ける方の動機や目的は様々です。例えば、研究者として政策を支援したいという方は、モデルの詳細まで完璧に理解し、政策決定者の要請に応じてプログラムを書き換えるということが求められます。一方、政策決定者は、プログラムを書き換えるということまでは要求されずに、どのような分析をモデルで行うことができるか、また、モデルの限界は何かということを理解し、モデルで評価したい内容を、モデルを実際に動かす研究者に伝える必要があります。このため、最近は、目的に応じてモデルのトレーニングを実施するということも行っています。特に、研究者向けのトレーニングでは、1ヶ月以上かけてデータ収集やプログラミング、将来シナリオの分析までを指導しています。最大の成果が得られるように、我々も工夫して取り組んでいます。

アジアからの研究者の受け入れも

 上記のトレーニングワークショップのほか、連携して研究に取り組んでいるアジアの若手研究者を特別研究員(いわゆるポスドク研究者)として受け入れ、出身国のモデル開発やシナリオの定量化に携わってもらっています。また、国立環境研究所では、東京工業大学や東京大学などいくつかの大学と連携大学院協定を結び、国立環境研究所の研究者が各大学の学生を指導することもあります。連携大学院で日本人だけでなく外国人も指導し、外国人の学生が博士号を取得した後、国立環境研究所で特別研究員として研究を続け、やがて母国に戻って母国の温暖化対策のために研究を続けるという例もあります。こうした活動も、トレーニングワークショップと同様に、AIMにおける人材育成に向けた活動の1つと考えています。同じ研究所に様々な国の研究者が集まり、議論することで、切磋琢磨して研究に取り組むとともに、それぞれの国で取り組まれている活動や政策についての情報を共有し、分析に活かすというメリットがあります。こうしたメリットを活かしながら、モデル開発や将来シナリオの分析に取り組んでいきたいと思います。

(ますい としひこ、社会環境システム研究センター 統合環境経済研究室 室長)

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