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2022年8月31日

持続可能性と地域共創

特集 地域と共に創る持続可能な社会
【環境問題基礎知識】

岡寺 智大

 持続可能地域共創研究プログラムは、持続可能性と地域共創という2つの概念が組み合わさった研究プログラムとなります。持続可能性という概念は、古くは人口増加による食料需要の増加が土地の食料供給能力を超過するという人口論に起源をさかのぼるといわれていますが、国環研ニュース32巻6号で紹介されています通り環境分野では、将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現世代のニーズを満たすという持続可能な発展という概念が、1987年に国連の環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)により提唱されたのをきっかけに広く認識されるようになりました。さらに、国連環境開発会議(地球サミット)などでの議論を経て、持続可能性を支える3要素として環境・経済・社会(トリプル・ボトムライン)の重要性が示されています。また、最近よく耳にする持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下SDGs)では、国連に加盟する193か国が2030年までに達成を目指す17の目標が掲げられており、2015年9月に国連サミットで採択されました。それぞれの目標をみると、気候変動や水環境、生態系などの環境保全、エネルギー、産業と技術革新などの経済成長、貧困、飢餓、教育、健康・福祉、ジェンダーフリーなどの社会的課題といったように、トリプル・ボトムラインに関わる問題解決のための目標が挙げられていることがわかります。

 このように持続可能性という概念は分野横断的であるため、国内外の様々な分野で議論され、持続可能性を評価するための多様な指標や手法が提案されてきました。特に将来世代のニーズやそれを満たす能力を具体的にどのように見通すかは大変難しい課題ですが、気候変動の分野では、温暖化という将来世代にまで影響を及ぼす地球環境問題への関心が高まったことで、例えば100年後のような不確実な未来を見据えつつ現世代の意思決定を支援するために、シナリオ分析やシナリオプランニングといった手法の開発や活用が先行して進められてきました。地球環境問題に関心のある方は排出シナリオや脱炭素シナリオなどという言葉を耳にされたこともあるかと思います。シナリオとは将来の環境や社会を描写したものですが、未来を完全に予測することは不可能なため、ありうる将来像をいくつか想定し、複数のシナリオの下で将来的にどのくらいの温室効果ガスが排出されるか、またそれを許容するだけの能力が将来残されているのかといったことを評価します。その結果、地球温暖化に関わる将来世代のニーズやそれを満たす能力が大体どのくらいの範囲に収まりそうかの知見が得られるため、どのような対策を講じるべきか、あるいは制度や社会構造そのものを大きく見直すべきかなど、将来のために現段階で取り掛かるべきことを検討する一助となるわけです。

 現在、こうしたシナリオアプローチを気候変動以外の分野へ適用する議論も進められており、持続可能な社会についてのシナリオも検討されています。2011年1月に出版された『サステイナビリティ学』の中で増井らは、まずはビジョンを描いた上でそれを実現するためのシナリオを検討することと、ビジョンを国民や国際社会と共有することが重要との見解を示しています。ビジョンとは目指すべき将来像のことで、上述したSDGsは国際社会で広く共有された持続可能な社会のビジョンと位置付けられると思います。国内では、「21世紀環境立国戦略」において、持続可能な社会として、健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域まで保全されるとともに、それらを通じて世界各国の人々が幸せを実感できる生活を享受でき、将来世代にも継承することができる社会というビジョンが示されています。さらには、第五次環境基本計画において、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す地域循環共生圏という地域スケールのビジョンも提唱されています。

 このように国内外で持続可能な社会に向けたビジョンやシナリオが示されていますが、次に問題となるのが、そのビジョンやシナリオをどのように実社会へ反映させるかということです。同じビジョンを共有しつつも、そこへ至る具体的な道筋は国あるいは地域ごとの文化、習慣、社会システムなどによって異なるのが当然であり、それらを尊重するアプローチが必要となります。地域共創とは、そうした地域固有の価値観を取り込むためのアプローチで、地域の様々なステークホルダーを巻き込み、地域特性や地域課題への理解を深めながら、地域の人が受け入れられる解決策を明らかにし、持続可能な地域社会の実現に向けた道筋の具体化を我々は目指しています。

(おかでら ともひろ、地域環境保全領域 環境管理技術研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の岡寺 智大の写真

毛髪の持続可能性と共創に頭悩ませる中堅研究員。本執筆にあたり『サステイナビリティ学』(小宮山ら編、2011)のほか、各分野の弊所研究員の方々から有益なご助言を戴きました。ありがとうございました。

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