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2012年12月28日

地球温暖化における大気汚染物質の役割

小倉 知夫

 世界の地上気温が長期的に上昇傾向を示し、北半球では雪氷の面積が縮小傾向にあることは広く知られています。今年の9月には北極海の海氷面積が観測史上最小記録を更新しました。これは、1980年代の平均的な海氷面積の半分以下に相当します。地球温暖化の兆候が以前にも増して顕著に現れていることの一例と言えるでしょう。

 一方、このような気候変化が生じるにあたり、様々な要因が寄与していることについて耳にする機会は少ないかも知れません。温暖化の要因のうち人間活動に由来するものについて寄与の大きさを比較した場合、最も大きな寄与は二酸化炭素の増加から来ており、温暖化の緩和策を講ずる際にはまずこれが削減の対象となります。しかし、それ以外にもメタン、一酸化二窒素、代替フロンを含む人工ガス類や対流圏オゾンも重要な要因であり、大気中を浮遊する微粒子(エアロゾル)の寄与も決して無視できません。これらの要因の一部は、人間の健康や生態系に悪影響を及ぼす大気汚染物質でもあります。言い換えると、大気汚染と気候変化は共通した原因から生じている部分があるのです。

 本号の国立環境研究所ニュースでは「大気汚染と気候変化」と題して3本の特集記事をお届けします。気候に変化をもたらす大気汚染物質とはどのようなものでしょうか。理解する上で重要なキーワードとなるのが「短寿命気候汚染物質(Short-Lived Climate Pollutants: SLCPs)」です。環境問題基礎知識(p.8-9)では、SLCPs が近年注目を集めている背景を説明し、SLCPsの削減がどのような便益をもたらすか、数値モデルで評価した結果を紹介します。一方、便益の評価の結果が、複数の数値モデル間で大きくばらつくという問題点も指摘されます。

 数値モデルによる評価の信頼性を高めるには、SLCPsの濃度分布を決める様々なプロセスについて科学的な理解を深め、それをモデルの改良につなげることが重要です。重点研究プログラムの紹介(p.3-5)では、定期貨物船を用いたアジア、オセアニア地域のSLCPs長期観測、および衛星を用いた一酸化炭素濃度の観測について紹介します。その結果から伺われるのは、東アジアから東南アジアにかけて見られる大陸から海への季節風の吹き出しや森林火災がSLCPsの分布に影響している様子です。こうした研究により、数値モデルで使われている森林火災の排出インベントリに改良の余地があることが明らかとなってきました。

 数値モデルを改良する上でもう一つ鍵となるのがエアロゾルの取り扱いです。エアロゾルは太陽光を吸収あるいは散乱するだけでなく、雲の生成にも影響することが知られています。しかし、こうした性質が地上の気温をどれだけ温めたり冷やしたりするかという定量的見積もりには大きな不確実性が残っています。研究ノート(p.6-7)では、エアロゾルが気候に影響を及ぼす様々なプロセスについて概観し、長崎県や沖縄県で国立環境研究所が実施しているエアロゾルの化学組成分析の結果を紹介します。そこから見えてくるのは、エアロゾルの化学組成や大きさ、形状によって気候へ及ぼす影響が大きく変化し得るという、複雑な実態です。このような科学的な知見を数値モデルに反映することで、気候変化の見積もりがより精密となり、ひいては高い信頼性につながることが期待されます。

 人間活動に由来する温室効果ガスの中で最も気候への影響が大きいものは二酸化炭素であり、その削減が温暖化の緩和策の中で本質的であることは変わりありません。しかし、気候変動枠組み条約に基づく二酸化炭素削減がなかなか進まない現状において、SLCPsによる温暖化緩和策が魅力的な選択肢として注目されつつあることも事実です。より詳細については記事本文をご覧ください。読者の皆様にとって本号が有益な情報となることを願っております。

(おぐら ともお、地球環境研究センター気候モデリング・解析研究室 主任研究員)

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