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2012年12月28日

持続可能社会を目指した叙述シナリオの作成:技術・産業・経済の側面

【シリーズ先導研究プログラムの紹介:「持続可能社会転換方策研究プログラム」から】

村山 麻衣

 私たちの2050年の社会は、どのようになるでしょうか。将来を確実に予測することは不可能ですが、将来シナリオとして、起こりうる将来のあり様をさまざまに想定することができます。将来シナリオを想定することは、社会の目指す方向を指し示し、議論を喚起させることによって、実現のための戦略を考案していくことに役立ちます。シナリオには、構成としてのストーリーを物語る質的な側面と、そのストーリーを数字で支える量的な側面とがあります。『持続可能社会転換方策研究プログラム』のプロジェクト「将来シナリオと持続可能社会」では、人々が実現したい持続可能な社会の姿を明確にし、そこにいたる道筋、および課題となる環境問題の特定や解決をストーリーとして示すとともに、社会・経済モデルによる定量化を通じて不確実性や整合性を確認し、実現可能な具体的な将来像を提示することを目指しています。数字は、社会をモデル化した計算式で算出されますが、どのような目的で何を計るかは、社会の骨組みにあたるストーリー次第です。ストーリーを作成し、それを言葉で示した将来像のことを叙述シナリオと呼びます。今回は、2050年の日本の将来像を作成するための枠組みと、技術・産業・経済の側面に関するグループ・インタビューの結果から描く叙述シナリオについてご紹介します。

社会の発展の目標に立ち返る

 将来の様子を描く手法として、シナリオ・プランニングという方法があります。この方法は、企業の戦略立案のために開発されたものですが、それを、より良い社会を目指す公共政策的な性質を持つ国という単位における社会の将来シナリオを描くために応用します。日本は戦後、市場経済により革新的な技術が一般的な生活場面に普及し、消費が大規模に増加した高度成長期を迎え、順調に成長するGDPと「便利な暮らし」や「豊かさ」とが重なる時代を経験してきました。人口も増加していった時代です。しかし、1990年代からは、GDP年変化率+1%の低成長になっています。そして、今後の日本は人口減少の社会になります。これまで多くの場合、発展の目標としてGDP成長が採用されてきましたが、さまざまな状況が変化し、より良い社会のための発展の目標が何か改めて問うことが重要になります。本研究の特徴は、そもそも社会は何を目指すことがより良い暮らしに繋がるかという発展の目標に立ち返り、GDP成長に代わる発展目標を検討している点です。

極端シナリオではなく、実現可能なシナリオ

 まず、シナリオのストーリーラインを作るために、社会の動向に影響を与える力となるドライビング・フォースを抽出します。今回は、2050年の日本が何で食べていけるかについて検討するため、国立環境研究所の2006年ビジョン特研ワークショップにおいて挙げられた項目のうち、技術革新・普及、経済活動、および産業動向について重点的に取り上げました。抽出したドライビング・フォースのトレンドを捉える手法では、産業転換を考えにくい仕組みになってしまいます。また、環境と経済を両立する潮流を取り入れないシナリオは現実的ではありません。そこで、本研究では、環境や持続可能性を鑑みた価値観や技術、国際情勢等の潮流を含む社会経済活動のドライビング・フォースを検討することに改良しました。極端なシナリオではなく、発展の目標の持ち方の違いによって将来像が変わることを示すため、実現可能なシナリオでシナリオのタイプを描き分けることにしました。

四つの発展目標をバランスよく

 次に、描き分けるシナリオのタイプを設定します。四つの目標群を決め、それぞれをどれほど重視するかに応じて、二つの基準シナリオを定めました。一つは、経済(GDP)成長を重視したシナリオ、もう一方は、経済だけではなく、社会、個人、環境もバランスよくみたシナリオです(図1参照)。四つの目標群のラベルは、文献レビューにより、さまざまに考えられる発展の目標に関する指標や項目を分類する枠組みとして抽出しました。これらは、ハーマン・ディリー(1989)による四段階のピラミッドの枠組みと、それを東西南北の四方向になぞらえて応用したドネーラ・メドウズ(1998)のものとからできた“コンパス指針”、すなわち、自然(N : North for Nature)、経済(E : East for Economy)、社会(S : South for Society)、および人々の満足な状態(W : West for the Well-being of people)という四つの指針を基にしたものです。これらを基に、自然に関しては、環境の側面を、人々の満足な状態に関しては、個人の側面を捉えることにしました。

図1
図1 四つの目標群に対する二つの基準シナリオの設定:経済重視シナリオと持続可能社会シナリオ

グループ・インタビューの設定

 産業の側面から日本の将来の営みに関して要点を把握するため、産業界に造詣が深く、現場のしがらみを離れた立場にいる横断型基幹科学技術研究団体連合のメンバーの研究者・産業界OBの方々6名に、2011年10月28日、国立環境研究所から4人がグループ・インタビューをしました。議論が特定の方向に引っ張られるバイアスを認識するため、2グループに分け、GDP成長を目指す場合に、わが国は何を基幹産業として(食べて)いくか、持続可能な発展を目指す場合には、その社会のイメージと技術、産業、経済は何か、両ケースの共通事項および異なる事項は何かについて議論しました。

出力された叙述シナリオの要点

 グループ・インタビューから出てきた要点から、現状の社会情勢は大きく見ると、経済重視から持続可能社会の方向に転換する可能性があるといえます。つまり、ハードなモノづくりをしてきた時代から、知恵を加えたソフトなインフラシステムやシステムとしての技術、付加価値のあるサービス、デザイン、半歩先の需要を捉えることを目指す兆しがあるといえます(図2の青矢印)。ただし、発展の目標をどちらに選ぶかにより、経済重視から持続可能社会の方向への推移の時期を異なるものとすることで二つのタイプのシナリオに分岐されるということができます(図2の赤矢印および緑矢印)。

図2
図2 二つの基準シナリオの要点

 経済重視シナリオ(図2の左側のシナリオ)では、GDP成長を促す大量生産の需要が見込めるボリュームゾーンを獲得して儲けるために海外へ展開することに力が入れられ、海外展開による海外モデルの日本への還流によって日本の技術力を維持します。一方、モノは市場原理によるコスト競争が激しいので、如何にニッチ産業を多数持つかが重視され、世界の需要を日本が独占できるような市場規模の製品を日本が担当しています。ベンチャー的価値観によって、技術革新による素材技術の市場を開拓する等の急成長分野を見出しています。

 持続社会シナリオ(図2の右側のシナリオ)では、知恵や文化の伝承を生かした匠の世界の技術を継承することに重きを置くことで、社会インフラや産業も地域の風土を生かしたものが優先され、地域社会に密着した農業や医療サービス、多様性への対応が重視された生活・地域ニーズが充足しています。足るを知る価値観によって、住環境やワークライフバランスを顧み、適切な質と量に見合った暮らしをしています。

まとめと今後の課題

 本研究は、GDPに代わる発展目標による、生きがいのある健康な暮らしや伝統的な知恵や文化を生かす魅力的な社会経済シナリオを検討しました。従来の両極端シナリオによる環境政策や持続可能社会の優位さを示すものではなく、目指す社会像とそのための活力に関する叙述シナリオの作成から、実現可能な好ましい社会像として持続可能な社会のシナリオを提示できました。今後の研究では、国際情勢やライフスタイルの面から叙述シナリオを改訂するとともに、具体的なモデル化の方法を検討することが課題となります。

(むらやま まい、社会環境システム研究センター環境都市システム研究室)

執筆者プロフィール:

村山麻衣の写真

環境問題は環境問題だけで対処できるのではなく、長期的に俯瞰的にどんな暮らしのできる社会を目指すかを考えてこそ、包括的に取り上げることができるものだと思っています。

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