環境毒ミクロシスチンを生産する
新種のシアノバクテリアを霞ケ浦から発見
-環境DNAでのみ存在が分かっていたシアノバクテリア-
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学記者会同時配布)
2021年3月4日(木) 独立行政法人国立科学博物館 国立研究開発法人国立環境研究所 公立大学法人福井県立大学 |
研究成果のポイント
国立科学博物館、国立環境研究所、福井県立大学の共同研究グループは、霞ヶ浦から環境毒ミクロシスチンを産生するシアノバクテリアの新種 アンナミア・デュビア(Annamia dubia)を発見しました。その研究論文がチェコ藻類学会誌(Fottea:フォッテア)に掲載される事になり、このたびオンライン先行公開されます。 |
研究の背景と成果
本種は、霞ヶ浦の湖水から遺伝子を直接取り出し分析する環境DNA法で存在は推定されていましたが、実際に存在することは確認されていませんでした。この度、国立環境研究所が実施している霞ヶ浦モニタリング(※1)において得られた湖水から、本種を分離・培養することに成功し(※2)、国立科学博物館が分類学的な検討を行ったところ、新種であることが分かりました。
シアノバクテリアは大きく8つのグループに分類されています。今回発見されたアンナミアは、このうちクロオコックス目と呼ばれるグループに入ります。このグループのほとんどの種は単細胞や多数の細胞が集合しているのですが、アンナミアは多数の細胞が連結した細長い糸状(写真1)で、他の種と異なった形をしています。また、光合成を行うチラコイドの配列もこのグループの中では例外的で、放射状に並んでいます(写真2)。本種は環境毒として世界中の淡水環境において問題となっているミクロシスチン(※3)を産生します。
今後の展開
本種が霞ヶ浦以外の湖沼にも存在するのか、また湖沼のミクロシスチン濃度にどの程度影響を与えているかなどはまだ分かっていません。地球温暖化などの気候変動に伴い、近年、日本の湖沼には様々な見たこともない種類が出現し、その中には今回の様な有害有毒藻類も含まれます。国立科学博物館では他にも過去四年間に水道水のカビ臭問題の原因となるシアノバクテリアの3種5分類群を新種記載しています。このような、気候変動による環境問題に対応すべく、私たちはこれからも協力して、日本の水域における有害有毒藻類を監視していく予定です。また、現在本種の遺伝子について全ゲノム解析を行い、クロオコックス目で例外的な形態をしている理由や、ミクロシスチンを産生する遺伝子についての解析を行っています。
謝辞
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「ナショナル バイオリソースプロジェクト藻類」および日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)(Grant Number 20K12201 and 19K15860.)のサポートを得て行いました。
用語解説
https://db.cger.nies.go.jp/gem/inter/GEMS/database/kasumi/index.html
掲載論文
(シアノバクテリアの新種アンナミア・デュビアとゲミノキスティス科の新科記載)
オンライン先行公開(Ahead of Print)は上記に先行して行われる予定
問合わせ先
独立行政法人 国立科学博物館
〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1
稲葉 祐一(いなば ゆういち)
経営管理部 研究推進・管理課 研究活動広報担当
TEL:029-853-8984
FAX:029-853-8998
E-mail: t-shuzai(末尾に@kahaku.go.jpをつけてください)
植物研究部 菌類・藻類研究グループ 研究主幹
辻 彰洋(つじ あきひろ)
【本種の培養株の問い合わせ先】
国立研究開発法人国立環境研究所
生物生態系環境研究センター
主任研究員 山口晴代 (やまぐち はるよ)
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