高精度安定同位体比質量分析装置
機器紹介
大槻 晃
質量のごく僅かな違いにもとづく同位体元素の物理学的性質の差が、化合物や単体が物理学的、化学的、生物学的変化を受ける際に、その同位体の組成に僅かな変動を引き起こす原因となる。天然試料に観測される多くの元素の安定同位体組成の変動は、これらの元素を含む系が過去に経験してきた種々の環境要因の変化の結果と解釈される。それ故、これらの変動を試料の分析を通して観測することにより、過去の地球上の環境変化を知ることができる。また、安定同位体元素は放射性同位体元素と異なり法律的な制約がなく、トレーサーとして一般の実験室で、野外で、また人体中での薬物の代謝研究等に広く利用できる。
本装置は、炭素、窒素、酸素、硫黄、水素の天然安定同位体比(炭素-13/12、窒素-15/14、酸素-18/16、硫黄-34/32、重水素 -2/1)を高精度に測定できるものである。測定に際しては、炭素および酸素であれば二酸化炭素に、窒素であれば窒素ガスに、硫黄であれば二酸化硫黄に、水素であれば水素ガスに変える。これをイオン源に導入し、各イオンを磁場で分離して複数の検出器で同時に測定する。二酸化炭素の場合は質量数44、45、46を3つの検出器で同時に測定し、各イオンの強度比を計算して、標準試料値よりのずれδ(デルタ値)またはアトム%として表す。
本装置の導入の主な目的は、上記5つの元素の安定同位体元素(炭素-13、窒素-15、酸素-18、硫黄-34、重水素-2)をトレーサーとして利用するためである。特に、応用範囲が広い炭素と窒素については、分析操作を出来るだけ簡単にするため元素分析計と高精度安定同位体比質量分析装置を連結してオンラインで一試料中の両元素の全量と同位体比を同時に測定できるようになっている。両元素の最小必要量は数十μgである。
目次
- 創立15周年を迎えて巻頭言
- 満16年以後に向けて
- さらに開かれた研究所をめざして
- なぜ環境は護らねばならないか?—いま求められる新たな論理—
- 環境科学の研究には複眼的視野をもった専門バカが必要です
- 地球規模大気環境問題を考える
- 情報の流れの良し悪し
- 長期吸入暴露実験について
- 環境保健研究のあり方
- 生物分野から見た今後の環境研究
- 大型施設の課題
- 【環境週間のお知らせ】
- 酸性雨問題と環境庁の取り組み酸性雨シリーズ(1)
- 長距離輸送中に起こる種々の大気汚染の形態酸性雨シリーズ(2)
- UNEP/GRIDバンコクNodeに赴任して海外からのたより
- フロンによる成層圏オゾン破壊—光化学チャンバーによる模擬実験の結果—研究ノート
- 炭酸ガスの湖、ニオス湖その他の報告
- 米国における環境研究は曲がり角?海外からのたより
- 新刊・近刊紹介
- 人事異動
- 編集後記