UNEP/GRIDバンコクNodeに赴任して
海外からのたより
乙間 末広
UNEP/GRID(国連環境計画/地球資源情報データベース)はまだ馴染みの薄い組織と思われるので、その解説を少し。世界各地で様々な環境関連データが計測・収集されそれぞれに蓄積されているが、専門家以外の者にとって必ずしも理解または利用し易いものとはなっていない。そこで、環境データを誰もが広く利用でき真に価値あるものとするには、データを適切に蓄積・管理・処理・提示する機関が必要となる。UNEPが4年前に発足させたGRIDはそのような機能をもったNode(地域センター)を世界各地に設立し、それをネットワーク化する組織である。現在までに、ジュネーブ、ナイロビ、バンコクの三ケ所にNodeが開設されており、今後2、3年以内に、ラテンアメリカ、西アジア、北アメリカでの開設が予定されている。
私の赴任したバンコクNodeは昨年末に開設されたばかりで、AIT(アジア工科大学)のキャンパス内に存在していることになっているが、まだ名のみで本格的に稼働していない。そこで、赴任前に訪れたナイロビNodeとジュネーブNodeの活動を参考に、GRIDの特色と思われるものを挙げると、1)出力の利用者として環境政策担当者をターゲットにしている、2)開発途上国の環境データに力を入れている、3)出力はコンピューターによる画像表示である、4)地図情報をはじめ関連情報との重ね合わせによる解析が中心である、5)リモートセンシングデータを積極的に利用している、6)GRID自身がデータベースとして保有するのは、地球規模データのみでその他は各国が自国のデータベースを有するように促している、などである。
私が最も感心し巧みだと感じたのは、GRIDは具体的な活動において徹底したケーススタディ主義をとっていることである。各国(主に開発途上国)が直面する環境問題に関して、その国の専門家と共同で一連の作業を行い、その過程で必要な手法を開発し、コンピューター技術の移転を図っている。さらにケーススタディの成果を基に、その国の政策決定者に環境データ整備の重要性をアピールし、自前のデータベースを持つように促しており、必要なときには先進国からの設備援助の橋渡しもしている。
GRIDは発足して間もないうえ、施設・設備・スタッフを寄付と援助に頼っているため、活動の規模は自ずと制限され、出力もまだ多いとは言えない。しかし、地道ながら着実に進んでいるという印象を私は受けている。
バンコクに着任してまだ日が浅く、こちらの環境問題や生活事情を正確に報告する自信はない。しかし、実感として、朝夕の交通渋滞と排ガスは相当なもので、町全体がこんもりと排ガスに覆われることが月に何度かある。今朝(2月8日)のバンコクポストには、新生児の体内鉛濃度が高くなってきておりその原因が自動車排ガスである、という記事が出ていた。つい先日までの新聞の一面はきまってタイ南部の洪水記事で、森林伐採が真の原因だということである。タイの経済はNIESの仲間入りに向けて既に離陸したというのが大方の一致した意見であるが、公害・環境問題はこれからが正念場をむかえるような気がする。
目次
- 創立15周年を迎えて巻頭言
- 満16年以後に向けて
- さらに開かれた研究所をめざして
- なぜ環境は護らねばならないか?—いま求められる新たな論理—
- 環境科学の研究には複眼的視野をもった専門バカが必要です
- 地球規模大気環境問題を考える
- 情報の流れの良し悪し
- 長期吸入暴露実験について
- 環境保健研究のあり方
- 生物分野から見た今後の環境研究
- 大型施設の課題
- 【環境週間のお知らせ】
- 酸性雨問題と環境庁の取り組み酸性雨シリーズ(1)
- 長距離輸送中に起こる種々の大気汚染の形態酸性雨シリーズ(2)
- フロンによる成層圏オゾン破壊—光化学チャンバーによる模擬実験の結果—研究ノート
- 炭酸ガスの湖、ニオス湖その他の報告
- 米国における環境研究は曲がり角?海外からのたより
- 高精度安定同位体比質量分析装置機器紹介
- 新刊・近刊紹介
- 人事異動
- 編集後記