大型施設の課題
須藤 隆一
国立公害研究所は、トロンとよばれる大型実験施設、エネルギーセンターや廃棄物処理施設などの共通施設、ほ場などすべてを含めると23におよぶ大型施設を有している。このうち、大型実験施設は17施設あり、いずれも国際的にも誇れる優秀な施設として、これまで大きな成果を上げてきた。しかしながら、研究所発足当時につくられた施設はすでに十数年稼動しているため、大型施設全体として、(1)老朽化が目立ち、更新、改良を迫られている施設が多い、(2)全体予算のうち施設運転経費の占める割合が増大している、(3)新たな研究需要に応じた施設が設置しにくい、(4)優秀な専任の操作要員を継続して確保しにくい、など多くの問題を抱えている。これらの問題を解決するために、まず、これら大型施設の改廃、更新、改良、利用などの中長期的な計画を策定し、それに基づいて順次具体的な整備を実施に移す必要がある。この場合、エネルギーセンターおよび廃棄物処理施設の更新が優先されるべきである。これらの施設は忘れられがちであるが、研究所が存続する限り1日たりとも休むことができない施設である。しかし、最近老朽化による故障がしばしば起こっている。
ついで、これまでの大型実験施設を軸とした研究をこの辺で見直す必要がある。従来、大型実験施設が先に建設されて、研究計画がそれに追随したきらいもあったので、研究計画を先行させ、その研究の推進に大型実験施設が必須なのかどうか十分議論されるべきである。先駆的な研究を実施するために新たな大型実験施設が必要になることは当然であるが、これにはスクラップアンドビルドの原則が遵守されなければならない。
現状の大型実験施設は、関与する研究者の数、研究手法などからみて多種多様であり、これからも共通利用の形態をとって運用することは難しい。この際、共同利用施設と個別利用施設とに分けて、前者は地方公共団体の公害研究所や他の研究機関にも開放し、また必要に応じて民活を導入する、後者は関係する研究室が直接管理できるようにしたい。霞ケ浦臨湖実験施設のように研究者が常駐し遠方にある施設、系統微生物保存施設のように国際機関として定着しつつある施設は、大型施設の範疇から除外して、独立した組織として成長させたいものである。
目次
- 創立15周年を迎えて巻頭言
- 満16年以後に向けて
- さらに開かれた研究所をめざして
- なぜ環境は護らねばならないか?—いま求められる新たな論理—
- 環境科学の研究には複眼的視野をもった専門バカが必要です
- 地球規模大気環境問題を考える
- 情報の流れの良し悪し
- 長期吸入暴露実験について
- 環境保健研究のあり方
- 生物分野から見た今後の環境研究
- 【環境週間のお知らせ】
- 酸性雨問題と環境庁の取り組み酸性雨シリーズ(1)
- 長距離輸送中に起こる種々の大気汚染の形態酸性雨シリーズ(2)
- UNEP/GRIDバンコクNodeに赴任して海外からのたより
- フロンによる成層圏オゾン破壊—光化学チャンバーによる模擬実験の結果—研究ノート
- 炭酸ガスの湖、ニオス湖その他の報告
- 米国における環境研究は曲がり角?海外からのたより
- 高精度安定同位体比質量分析装置機器紹介
- 新刊・近刊紹介
- 人事異動
- 編集後記