創立15周年を迎えて
巻頭言
不破 敬一郎
平成元年3月15日は、わが国立公害研究所の創立15周年にあたる日である。昭和天皇のご大葬が2月24日にとり行われたこともあって、研究所においては、15年の区切りの日にかかわらずいかなる行事も取り行わないことと致したことを、本誌誌上をおかりして読者諸氏にお知らせ申し上げることをお許しいただきたい。昭和の時代を生きて来た私共にとって、平成の始まりはやはり大きな歴史の転換期であることを痛感せざるを得ない。
研究所を中心に考えるならば、昨昭和63年秋に茅誠司評議委員が亡くなったために、創立以来の中心的評議委員であった三名の大先輩を、武見太郎博士、内田俊一博士と共に失ったこととなり、歴史の推移を更に強く思う次第である。
15年という歳月は、人により短く感じるかも知れないが、やはり確実に経過したという事実を十分に認識しなければならない。座長の名を冠して『茅レポート』と呼び馴らして、研究所設立の基本理念として体現して来た設立準備委員会報告書は、いかなる時代にも普遍妥当性をもった部分も当然多い。それは環境問題が人類と共に永存する問題であるために、当然なのであるけれども、時代の推移と共に変革すべきと思われる組織等の部分に対しては、勇気をもって変革を加えることが、後に残された吾人の当然の務めである。
個人又は研究グループの専門的な仕事は、常に継続的に進展すべきものである。その中で時間と共に変化、進歩するのはあくまで内在的なものである。変動するのは環境の方である。この場合の環境とは、地球温暖化に影響する大気微量成分のような非人間的な環境から、あらゆる人間的社会的環境も含まれるものと考えてよい。研究組織の変革も最も身近な環境の変化である。個人又は研究グループが、まわりの環境に真剣に注意をはらい、他者の存在を認め、共通する社会的、自然的環境を認識することにより、個々の仕事は大きな目的に向って発展し、環境科学に対する真の貢献を果すことが出来るのである。
平成元年を一つの区切りとして、研究所全員が国内的にも国際的にも広い視野の新たな活動を開始するよう期待している。
目次
- 満16年以後に向けて
- さらに開かれた研究所をめざして
- なぜ環境は護らねばならないか?—いま求められる新たな論理—
- 環境科学の研究には複眼的視野をもった専門バカが必要です
- 地球規模大気環境問題を考える
- 情報の流れの良し悪し
- 長期吸入暴露実験について
- 環境保健研究のあり方
- 生物分野から見た今後の環境研究
- 大型施設の課題
- 【環境週間のお知らせ】
- 酸性雨問題と環境庁の取り組み酸性雨シリーズ(1)
- 長距離輸送中に起こる種々の大気汚染の形態酸性雨シリーズ(2)
- UNEP/GRIDバンコクNodeに赴任して海外からのたより
- フロンによる成層圏オゾン破壊—光化学チャンバーによる模擬実験の結果—研究ノート
- 炭酸ガスの湖、ニオス湖その他の報告
- 米国における環境研究は曲がり角?海外からのたより
- 高精度安定同位体比質量分析装置機器紹介
- 新刊・近刊紹介
- 人事異動
- 編集後記