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酸性雨問題と環境庁の取り組み

酸性雨シリーズ(1)

環境庁水質保全局企画課調査官 鹿野 久男

 工場等から排出された硫黄酸化物や窒素酸化物は、高層大気中を移流、拡散する間に酸化され、酸性雨となって再び地上に降ってくる。雨水とともに降ってきたこれらの物質が生態系を徐々に浸食し、環境破壊を引き起こしているのである。今や、酸性雨の影響は、ヨーロッパをはじめとして北米、東アジアなど先進工業国を中心として世界的な規模で広がっており、地球環境保全上の大きな課題となっている。

 また、酸性雨は国境を越え、数百km、時には千km以上を移流し被害を与えることから、加害国と被害国という構図を生ずるなど高度な国際政治課題ともなっている。
 
 酸性雨問題が、最初に指摘されたのは1960年代である。以後、ヨーロッパ、北米を中心に汚染物質の広域的な移動実態の調査をはじめとして酸性雨の生成機構や生態系影響に関する各種の調査、研究がなされてきたところであり、我々に多くの知見を与えてくれたところである。

 我が国においては、欧米と異なり、今のところ湖沼や森林等の自然生態系に対する明らかな酸性雨の影響は知られていない。しかし、各地でかなり酸性の強い降雨が観測されていること、また、過去に霧雨などにより目や皮膚に刺激を受けたという事件があったり、関東地方のスギ林の衰退現象に酸性雨が関与しているのではないかとの指摘があったこと等から我が国においても、諸機関において酸性雨問題に関する各種の調査が実施されてきている。

 環境庁においては、湿性大気汚染調査(昭和50年度〜54年度)、スギ林の衰退と酸性降下物に関する緊急実態調査(昭和60年度〜61年度)を実施するとともに、昭和58年度〜62年度には第一次酸性雨調査として全国14地点において降雨の分析調査をはじめとして、陸水や土壌への影響調査など各種の調査を進めてきたところである。

 これまでの調査等により、我が国の降雨のpH値は欧米に比べてやや高いもののかなり酸性が強いこと、また、我が国にも酸性雨の影響を受けやすい湖沼や土壌があること等が明らかになってきた。しかしながら、我が国における酸性雨問題全般についてみれば、酸性雨の発生メカニズムや生態系への影響などまだ未解明の部分が多く、今後とも酸性雨に関する調査、研究が推進されなければならない。また、被害を未然に防止するという観点から継続的なモニタリングも必要である。

 このため環境庁では、第一次酸性雨調査に引き続き昭和63年度から5か年計画で次のような調査を内容とする第二次酸性雨調査を国立公害研究所等の協力を得て開始しているところである。


  1. 酸性雨モニタリング(全国23か所の国設大気測定所に加えて6か所の離島に測定所を設置する計画である。平成元年度は対馬と隠岐の2か所に自動測定装置を設置することとしている。)
  2. 中・長距離移流生成モデルの開発
  3. 陸水影響予測調査(平成元年度から)
  4. 土壌モニタリング
  5. 土壌影響予測調査
  6. 総合パイロットモニタリング(全国6か所にモニタリングフィールドを設け、大気、陸水、土壌、植生等について経年的に測定、調査を行い、生態系への影響を監視する手法を検討する。)


 この他、平成2年度以降から地下水実態調査、酸性湖沼調査、海外土壌調査、植生影響モニタリング基礎調査を加える計画でいる。

 なお、酸性雨調査に関しては、以上のような環境庁による行政ベースの調査の他、国立公害研究所、気象研究所などの研究機関においても広域的な酸性雨のメカニズム解明をはじめとする各種の研究が鋭意進められているところである。

 今日、酸性雨問題はアジア地域においても重要な課題になりつつある。酸性雨に関する調査、研究は、我が国が「世界に貢献する日本」として取り組むべき課題の一つであり、今後の進展が期待されている。