
水道水源での水質事故の原因となった着色成分を特定
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)
本研究の成果は、2025年7月15~18日に山形市で開催予定の第4回環境化学物質合同大会で発表されます。
1. 研究の背景と目的
化学物質等が水環境に流出し、被害をもたらす水質事故は、水道では、毎年200件程度報告されています。2012年の利根川水系でのホルムアルデヒド前駆物質注釈2による水質事故では、浄水のホルムアルデヒド濃度の検査結果で異常が検知され、その後の調査で、ヘキサメチレンテトラミン注釈3が原因物質として特定されました参考1。原因物質の特定は、水質事故の原因究明等の対応には重要です。近年、高分解能質量分析計を用いた環境水中の化学物質の調査研究が行われ、水質事故でも活用されています。
2025年3月、大阪府池田市の水路で、青色着色水が確認されました(図1)参考2。その後、着色水が水路から猪名川に流入し、下流の浄水場では4時間半にわたり取水を停止しましたが、着色成分の原因物質は特定されませんでした。そこで、本研究では、液体クロマトグラフ高分解能質量分析計を用いて青色着色による水質事故の原因物質の特定を行いました。

2. 研究内容と成果
まず、水質事故時の青色に着色した水路の水を池田市上下水道部から入手し、フォトダイオードアレイ検出器注釈4が組み合わされた液体クロマトグラフ高分解能質量分析計を用いて分析しました(図2)。その結果、波長630 nm付近に最大の吸収を持つ吸収スペクトルから青色着色の原因と考えられる成分のピークを特定しました。さらに、外観から食用色素等に着目し、その製品や標準試薬についても分析を行い、マススペクトル注釈5等の解析結果から、最終的に原因物質として、食品添加物として用いられる合成着色料のブリリアントブルーFCF(通称、青色1号)を特定しました。
ブリリアントブルーFCFの分析方法を構築し、水質事故時の試料中の濃度を定量しました。その結果と水路の水量から、水質事故時のブリリアントブルーFCFの水環境への負荷量を推定しました。今回は、比較的少量であり、排出源の特定には至っておりません。
得られた一連の結果は、試料提供を受けた池田市上下水道部に提供しました。

3. 今後の展望
水道水源での水質事故の種類や発生原因はさまざまですが、異常が確認された水質項目と原因物質が異なる事故も多く、原因物質の特定は、水質事故の原因究明や対応に重要です。しかし、原因物質が特定されていない水質事故の方が多いのが現状です。今後は、本研究の手法をより多くの水質事故に適用し、改善を行っていく予定です。水道事業体等の関係機関の方々との連携を一層強め、水質事故への迅速な対応に貢献できればと考えています。
4. 注釈
注釈1 液体クロマトグラフ質量分析計は、試料中の成分を成分ごとに分離し、成分をイオン化し、質量(イオンの質量の電荷比)によって検出する分析機器で、化学物質の定性、定量に用いられています。高分解能質量分析計は、精密質量(イオンの質量の電荷比)を取得でき、その情報から分子式を推定することができます。 注釈2 環境中や処理によってある物質へと変換する元の物質で、ここでは、塩素処理によってホルムアルデヒドへと変換する物質を指しています。 注釈3 主に農薬の補助剤、熱硬化性樹脂の硬化促進剤、ゴム製品を製造する際の反応促進剤に用いられる物質で、その加水分解生成物としてホルムアルデヒドとアンモニアが報告されています参考1。 注釈4 液体クロマトグラフの検出器の一つで、設定した特定の波長の吸収ではなく、設定した範囲の波長の吸収スペクトルを測定できます。 注釈5 質量分析計による測定で得られる、質量(イオンの質量の電荷比)に対するイオン強度の分布です。
5. 参考資料
参考1 厚生労働省.水道水源における消毒副生成物前駆物質汚染対応方策についてとりまとめ.2013. 参考2 国土交通省近畿地方整備局.記者発表(令和7年3月9日19時00分).2025.
6. 研究助成
本研究の一部は、環境研究総合推進費(JPMEERF20231006)による支援を受けて行われました。
7. 発表論文
【タイトル】
液体クロマトグラフ高分解能質量分析を用いた水源河川の青色着色による水質事故の原因物質の特定
【著者】
小坂浩司,小島邦恵,吉田伸江,宮本雅史,浅見真理
【掲載誌】
第4回環境化学物質合同大会要旨集
8. 発表者
本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
環境リスク・健康領域 水道水質研究和光分室
上級主幹研究員 小坂浩司
上級主席研究員 浅見真理
9. 問合せ先
【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域
水道水質研究和光分室 上級主幹研究員 小坂浩司
【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)