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2025年1月15日

共同発表機関のロゴ
野鳥の鳴き声オンライン学習ツール「とりトレ」の
アルゴリズムの有効性を検証!
—出題頻度の最適化が学習効果向上のキーポイント—

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学記者会、科学記者会、福島県政記者クラブ、郡山記者クラブ同時配付)

2025年1月15日(水)
国立研究開発法人国立環境研究所
国立大学法人筑波大学
 

 国立環境研究所と筑波大学の研究チームでは、再生される野鳥の鳴き声から種名を当てる、クイズ形式の鳴き声学習ツール「とりトレ (https://www.nies.go.jp/kikitori/tori-tore/index.html)」を開発し、オンラインで一般公開しています。本研究では、覚えやすい種を多く出題する「頻度調整アルゴリズム」と、学習者が出題頻度を変更できる「対話型アルゴリズム」をとりトレに導入し、有効性を評価しました。結果、前者の「頻度調整アルゴリズム」が効果的に種判別技能を向上させ、野鳥への関心を高めることが明らかになりました。本成果は、野鳥への知識や関心の底上げにつながるだけでなく、クイズ形式の学習への幅広い応用も期待されます。
 本研究の成果は、2024年12月4日付でElsevier社から刊行された生態情報学分野の学術誌『Ecological Informatics』に掲載されました。

1. 研究の背景と目的

世界的な課題である生物多様性の損失を止めるための適切な行動には、生物種がどこにどの程度生息しているかといった生物多様性情報を収集するモニタリングが重要です。職業科学者ではない一般の市民によって行われる科学的活動である市民科学(シチズンサイエンス)は、生物モニタリングにおいて重要な役割を果たしています。市民参加型のモニタリングを一層拡充するためには、モニタリングの対象となる種を判別する技能を向上させるとともに、生物への関心を高めるための効率的な学習支援が鍵になります。国立環境研究所では、野鳥の鳴き声から種判別するためのクイズ形式の学習ツールとりトレ1を開発・公開しています。今回、国立環境研究所と筑波大学の研究チーム(以下「本研究チーム」という。)は、とりトレを用いた学習効率のさらなる向上を目指して、2つのアルゴリズムを導入しました。本研究チームの先行研究のデータを用い学習効果が大きいと予想される種を優先的に出題するための頻度調整アルゴリズム(覚えやすい種を多めに、難しい種は控えめに出題する方法)2と、種の出題頻度を学習者自身で調整できる対話型アルゴリズム(覚えたと思ったら学習者が頻度を減らす、覚えてなければ増やすといった選択ができる方法)3です。 そして、学習前後の種判別テストの点数とアンケートの回答に基づいて、ランダム化比較試験4でアルゴリズムの有効性を評価しました。

2. 研究手法

とりトレとは

野鳥の鳴き声をクイズ形式で学習するためのWebブラウザベースのツールです(図1)。国立環境研究所は、災害環境研究の一部として、福島県において鳥類・哺乳類・昆虫類・カエル類を対象とした生態系モニタリングを実施しています。2023年にリリースしたこのツールでは、福島県で身近に聞かれる26種の野鳥の鳴き声を学ぶことができます。

野鳥の鳴き声学習ツールとりトレのユーザーインターフェース(クイズおよび答え合わせ画面)
野鳥の鳴き声学習ツールとりトレのユーザーインターフェース(クイズおよび答え合わせ画面)

図1 野鳥の鳴き声学習ツールとりトレのユーザーインターフェース(クイズおよび答え合わせ画面)。

研究デザイン

参加者を、頻度調整アルゴリズムを用いて学習する頻度調整グループ、対話型アルゴリズムを用いて学習する対話型グループ、頻度調整アルゴリズムと対話型アルゴリズムを組み合わせたアルゴリズム(以下「頻度調整+対話型アルゴリズム」という。)で学習する頻度調整+対話型グループ、クイズの出題頻度を種ごとで一律にするベースライングループの4グループに割り当てました。そして、4つのテスト(学習前の事前テスト、学習中の中間テスト、学習後の事後テスト、学習後から2週間後の遅延テスト)と野鳥への関心に関する3つのアンケート(事前アンケート、事後アンケート、遅延アンケート)を実施してアルゴリズムの有効性を評価しました。3つのアンケートでは野鳥への関心を「とても関心がある」から「まったく関心がない」の5段階で尋ねました。なお、野鳥への関心は、野鳥そのもの、バードウォッチング、鳴き声学習の3設問をそれぞれ設けました。

3. 研究結果と考察

研究の結果、すべてのグループで事前テストと比べ、中間・事後・遅延テストの統計学的に有意な点数上昇が確認されました。そのなかでも頻度調整グループは最も点数が上昇しました(図2)。
また、すべてのグループで事前アンケートと比べ、事後アンケート時の野鳥への関心(野鳥そのもの、バードウォッチング、鳴き声学習)が有意に高いことが明らかになりました(図3)。

頻度調整グループ、対話型グループ、頻度調整+対話型グループ、ベースライングループにおける、事前テストからの経過時間(日)と点数の関係。 エラーバーは平均値の95%信頼区間とt分布(t(n-1))を示す図
図2 頻度調整グループ、対話型グループ、頻度調整+対話型グループ、ベースライングループにおける、事前テストからの経過時間(日)と点数の関係。 エラーバーは平均値の95%信頼区間とt分布(t(n-1))を示す。
頻度調整グループ、対話型グループ、頻度調整+対話型グループ、ベースライングループにおける、トレーニング前後の野鳥への関心の変化図
図3 頻度調整グループ、対話型グループ、頻度調整+対話型グループ、ベースライングループにおける、トレーニング前後の野鳥への関心の変化。

4. 今後の展望

本研究の成果は、市民参加型のモニタリングを一層拡充するため、モニタリングの対象となる種を判別する技能向上のための学習に活用することが期待されます。また、市民科学のさらなる拡大と取得されるデータの質の向上に貢献することも期待されます。さらにこの方法は、生態学以外の分野でのクイズ形式の学習にも応用できる可能性があります。

5. 注釈

1. 野鳥のこえを学ぶ鳴き声学習ツール「とりトレ」(https://www.nies.go.jp/kikitori/tori-tore/index.html)。 2. 各参加者がテストで最高の正解率を達成することを目的として、各種のクイズの頻度を調整するアルゴリズムです。まず、先行研究であるOgawa et. (2023)の参加者のトレーニング履歴とトレーニング前後の独立した種判別テストのデータに基づいて、1つのクイズトレーニング質問項目が各種のテストの正解率を向上させる学習効率を推定します。次に、任意のクイズ回数 (この場合は200問) 後のテストで正解数を最大化する、各種のクイズ回数を計算します。最後に、その頻度を、後続のクイズの表示頻度として使用します。 3. ある種について4回連続で正解するか、3回連続で不正解になった後、学習は次のクイズでその種に関する質問項目の提示頻度を減らすか増やすかを選択できます。このオプションを含めることで、学習者はその種の鳴き声を十分に学習したかどうか、その種のさらなる学習が必要かどうかを自分で判断できるようになり、より効果的に学習できると仮定しました。 4. 参加者を2つ以上のグループに無作為に分け、効果を検証する方法です。

6. 発表論文

【タイトル】
Optimizing the frequency of question items for bird species in quiz-style online training
【著者】
小川結衣1,2*, 深澤圭太2, 吉岡明良2, 熊田那央2, 竹中明夫3, 上條隆志11筑波大学, 2国立環境研究所, 3所属なし)
【掲載誌】
Ecological Informatics
【URL】
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1574954124004503(外部サイトに接続します)
【DOI】
10.1016/j.ecoinf.2024.102908(外部サイトに接続します)

7. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
生物多様性領域生物多様性評価・予測研究室
 主任研究員 深澤圭太
福島地域協働研究拠点環境影響評価研究室
 主任研究員 吉岡明良

筑波大学
理工情報生命学術院生命地球科学研究群農学学位プログラム
 博士後期課程 小川結衣
生命環境系
 教授 上條隆志

8. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域
生物多様性評価・予測研究室 主任研究員 深澤圭太

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

筑波大学 広報局
kohositu(末尾に”@un.tsukuba.ac.jp”をつけてください)