国際神経内分泌連盟(International Neuroendocrine Federation) 2020年年次報告への論文要旨掲載について
世界に存在する12の神経内分泌学関連学会の連合体である国際神経内分泌連盟(International Neuroendocrine Federation、INF)の年次報告(Annual report)において、佐野一広 特別研究員(2014~16年在籍、現 筑波大学・特任助教)、前川文彦 主幹研究員を含む国環研の職員らが2020年に国際誌Environment International(Impact factor 9.621)に発表した内分泌かく乱物質に関する論文が、日本神経内分泌学会員から発表された重要な代表的論文(5報のうちの1報)として紹介されました。
国際神経内分泌連盟(INF)Website:https://www.inf-neuroendocrinology.org/
2020年年次報告(Annual report, 紹介されたページp45~6):https://www.inf-neuroendocrinology.org/wp-content/uploads/2021/08/Annual-Reports-from-INF-Member-Societies.pdf
論文タイトル:Estrogenic action by tris(2,6-dimethylphenyl) phosphate impairs the development of female reproductive functions.【タイトル和訳:tris(2,6-dimethylphenyl) phosphateによるエストロゲン様作用が女性生殖機能の発達を阻害する】
著者:Kazuhiro Sano, Hidenori Matsukami, Go Suzuki, Nang Thinn Thinn Htike, Masahiro Morishita, Tin-Tin Win-Shwe, Shunji Hashimoto, Takaharu Kawashima, Tomohiko Isobe, Shoji F Nakayama, Shinji Tsukahara, Fumihiko Maekawa
掲載誌: Environment International 138: 105662, 2020.
https://doi.org/10.1016/j.envint.2020.105662
論文内容紹介
本研究は、化学物質tris(2,6-dimethylphenyl) phosphate(TDMPP)の発達期曝露が女性生殖機能に与える影響についてマウスを用いて調べたものです。TDMPPは、リン系難燃剤(可燃性の製品を燃えにくくするための物質)に含まれる不純物で、女性ホルモンの一種であるエストロゲンに似た働きをすることが疑われています。研究の結果、発達期にTDMPPを投与された雌マウスでは思春期早発、性周期の不順、雌性行動低下が観察されました。加えて、新生仔マウスの脳内にTDMPPが検出されたことや、脳の解剖学的な解析の結果、生殖機能を司る脳の一部が雌型から雄型に変化していたと解釈できること等から、TDMPPが直接脳に侵入し生殖に関わる脳構造形成に悪影響を及ぼすことで、女性の生殖機能の発達を阻害していると考えられます(参考図参照)。私達は今後も内分泌機能をかく乱する未知の化学物質の探索を試みることで、女性の健康への悪影響を低減させる施策に役立つ研究を継続していきます。
論文内容に関わる問い合わせ先: 環境リスク・健康領域 生体影響評価研究室 前川文彦 fmaekawa@nies.go.jp