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2018年10月31日

日本とアジアと世界のごみ処理

特集 アジア圏における持続可能な統合的廃棄物処理システムへの高度化

山田 正人

 日本のごみ処理の代表的な技術として、埋め立てるごみを減らし、生ごみに含まれる有機物を除去する焼却処理があります。また、家庭で行われる排出源分別は、焼却に適さないものを選り分けることで、焼却処理を支えています。昭和の初めにこの2つの技術の導入が始まりました。その後、燃えるごみと燃えないごみの分別から多種類の資源ごみの分別へ、臭い黒い煙が出る露天焼却から、燃焼効率が高く、高度な排ガス処理設備を備えた焼却施設へ、それぞれ技術は進歩し、今では家庭からでるごみの約8割が焼却処理されるようになりました。

 他の世界の国や地域のごみ処理の方法は、長らく、欧米などの先進国においても、集められたごみを直接埋立処分することでした。この方法では、有機物の分解による埋立地からのガスや浸出水の発生が長引き、埋め立て終わって数十年経過しても管理がやめられないという問題が生じました。また、発生するガスの主成分はメタンガスで温室効果ガスの一つです。そのため、1990年代の終わり頃から、欧州で、有機物を埋め立てる前に減らす取り組みが始まりました。その際に導入された主な技術は、ふるいなどを用いた機械によるごみの選別と堆肥化やバイオガス化でした。燃えにくい生ごみを焼却処理するためには、排ガスを処理する設備や燃料が必要なため、建設や維持管理の費用が高くつくからです。

 埋立地を管理する上で一番重要なことは、発生する汚水を汚れたまま環境中に出さないことで、底部に合成樹脂のシートなどを敷いて地下への水の浸透を防ぐ遮水工が備えられています。底部を遮水すると浸透した降水やごみに含まれていた水が汚水となって埋立地の中に貯まります。そのため、集排水設備と浸出水処理施設が備えられますが、その維持管理にはお金がかかります。そこで欧米がとった作戦は、埋立地の上部の表面も底部と同じように遮水して、降水の浸透を抑え、浸出水の量を減らすことでした。この方法は確かに処理しなければならない浸出水量を減らすことはできるのですが、水を減らしたことで有機物分解が緩慢になり、ガスの発生がなかなか止まらず、前述の維持管理の期間の長期化をもたらしました。

 日本の準好気性埋立(本特集の記事「アジア新興国の都市廃棄物問題の解決に向けたとりくみ」を参照下さい)という技術は、浸出水量を減らす代わりに、埋立地の内部でなるべく浄化しようとするものです。埋立地に設置された集排水管やガスを抜くための配管と埋立地内部と外気の温度差を利用し、大気を埋立地内部に導入することで、ごみや浸出水中の有機物の好気性分解を促します。好気性分解は、嫌気性の分解と比べて速度が速く、メタンガスが発生しません。すなわち、準好気性埋立には、浸出水処理のための費用を減らし、メタンガスの発生を抑え、維持管理期間を短縮するという効果があります。

 なぜ、日本はこのような、排出源分別、焼却処理、準好気性埋立という独自の技術を生み出したのでしょうか。それは、日本の食べ物に含まれる水の量が多く、気候が温暖で、生ごみが腐りやすく、他のものと混ぜてしまうと分けにくいからです。または、降水量が多く、埋立地への降水の浸透を完全に防ぐことができないからです。この生活様式と気候は多くのアジアの地域に共通するものです。経済発展で都市化が進み、大量に発生するごみに悩まされるアジア新興国に対しては、生活様式や気候が似ている日本のごみ処理技術を、地域に合わせてカスタマイズすることが導入の近道であると考えられます。しかし、そこには技術以外にも超えなければならない課題があります。それはそれぞれの地域の制度や経済のレベルの問題です。すなわち、開発し導入した技術を現地に実装し、根付かせるためには、技術に合わせた制度の構築や、費用の低廉化、資金調達の方法などを同時に検討する必要があります。

 本特集では、本稿では触れなかった日本独自の生活排水処理技術である浄化槽を合わせて、アジアに向けた適正な廃棄物処理システムの導入に関する私たちの取り組みを紹介します。

(やまだ まさと、資源循環・廃棄物研究センター 国際廃棄物管理技術研究室 室長)

執筆者プロフィール

筆者の山田正人の写真

ここ数年は新宿や渋谷の地下現場を徘徊するのが趣味です。夜な夜な多様な音楽が奏でられるステージの上に、未来へと続く新しい種を見つけたときの興奮は、研究上の閃きに似ているのではないかと力説しておきます。

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