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2018年10月31日

アジア新興国の都市廃棄物問題の解決に向けたとりくみ

特集 アジア圏における持続可能な統合的廃棄物処理システムへの高度化
【研究プログラムの紹介:「資源循環研究プログラム」から】

石垣 智基

はじめに

 アジアの大都市圏ではめざましい経済発展に伴って、廃棄物の発生量の増加と質の多様化がすすんでいます。廃棄物を適切に回収し、環境に対して安全な状態となるよう処理・処分するための都市インフラの整備と公共サービスが拡充され、アジア都市の代名詞でもあった廃棄物の散乱やオープンダンプ(集積投棄)等の状況には改善の兆しがみえています。また、行政による廃棄物リサイクルのための枠組みづくりや、廃棄物のエネルギー転換のための技術導入などもすすみ、廃棄物フローやそれに関わる主体も多岐にわたり複雑化しています。廃棄物処理の改善の度合いは都市の実情によって異なりますが、ほとんどのアジア都市では、廃棄物埋立地の不足という共通の問題を抱えています。これは都市開発に伴って用地確保が困難となったこと、近隣居住者の忌避感が強いことなどに起因しており、廃棄物埋立量の削減は解決すべき喫緊の課題として挙げられています。しかし、アジアの大都市は成長を続けており、解決しなければいけない課題は廃棄物問題だけではありません。都市の成長を維持すると同時に、都市における諸問題を解決していくためには、都市の開発計画に沿った形で統合的に廃棄物の管理方法を検討していく必要があると考えます。このような背景で実施している「アジア圏における持続可能な統合的廃棄物処理システムへの高度化」プロジェクト(図1)について、活動のいくつかをご紹介します。

プロジェクトの概念図
図1 アジアの都市における持続可能な統合的廃棄物管理に向けた学際的なアプローチ

アジア都市における廃棄物管理システム:真の実態を知るには

 アジア新興国では、経済成長に伴う都市と地方の格差の拡大が顕著となっており、都市への人口流入が、さらに都市の廃棄物問題を増幅しています。また、リサイクルの実施者についても、個人や小規模で資源回収を営む事業者が今なお存在する一方で、公的および半公的な施設の建設やサービスが導入され公共関与を強めているほか、公共サービスの実施に外資系の廃棄物処理企業が参画したり、再資源化物やエネルギーの安定的な利用先として大規模製造業の協力をあおぐなど、多様な主体が関わっています。

 都市の廃棄物管理の実態を知る一次的な情報源として統計は欠かせません。人口・世帯構成、生産力と家計収入・支出、そして廃棄物排出量や組成などの情報は、細かい行政区分で収集されているほど、利用価値は高いものとなります。一方で、都市に移住する低所得者層の一部は、正規の住民登録をせずに都市居住を開始することがあります。貧民街(スラム)を有するコミュニティや区においては、統計には含まれない居住者人口が実態として多くを占めることとなり、同一都市内においても統計情報の信頼性に地域差が生じます。このことは、都市の廃棄物排出実態の誤った解釈につながってしまう恐れがあります。たとえば、統計上の人口より算出した2015年のバンコクの一人一日廃棄物排出量は1.68kgで、これは日本人の一人一日廃棄物排出量である0.90kgと比べるまでもなく、世界的に見ても高い水準です。しかし、推計未登録人口を加味した上で再計算するとバンコクの一人一日廃棄物排出量は1.12kgとなります。このような実態を正しく理解することで、効果的な排出削減策や適正管理のための技術導入が可能になると考えています。また、廃棄物回収に関する統計的な数値と実態の乖離についても大きな問題です。行政としては貧民街に対しても最低限の福祉・公共サービスの実施を図る一方で、その規模や実態が把握できていないことから、適切な開発計画が立てられないのが現状です。都市の衛生管理に関わる廃棄物の回収計画については、収集車両・人員や収集頻度が確保できず、局地的な低回収集率エリアを生んでしまっています。未収集の廃棄物は路上や水路に投棄され、景観の悪化、交通障害、ひいては排水機能の損失による都市浸水の発生など、副次的な都市問題を引き起こすことにも留意する必要があります。

廃棄物の性状に応じた処理・処分・資源化技術の検討と開発

 すでに述べたように、都市の成長に伴って生じる諸問題の解決を目的として、廃棄物処理・リサイクルに多様な技術導入が検討されています。その際には、都市の状況に見合った廃棄物処理システムとして、廃棄物の排出量や性状の地域差、優先的に解決されるべき課題、導入される処理技術の社会受容性、技術的・経済的な持続可能性が考慮されなければいけません。これまでアジア都市に導入された技術やシステムの多くが定着しなかった理由として、導入された技術が高度すぎる、または現地の状況にあっていない、そのため効果的に運転制御できない、また継続して運転するための追加費用(薬品・保守・人材育成等)が不足する、などが挙げられています。すなわち現地の政策決定者および廃棄物管理の実施者に対して、技術上の課題と長期的な予算確保・人材育成の必要性について正しく情報提供され、その上で合理的な判断をあおぐことが必要です。

 我々は、環境面だけでなく技術面や財政面でもアジア都市の状況に見合った廃棄物処理・リサイクルのための技術とその都市・社会システムでの位置づけを図ってきました。産業強化と環境対策がリンクした「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の発想は、製品の長寿命化、生産・消費活動の低エネルギー・資源効率化、未利用廃棄物量の抑制などを包含していますが、アジア都市ではこれからも更新で生じる老朽化した廃製品や、資源価値がなく安全性が懸念される不要物の受け入れ先として、長期的に環境安全な廃棄物処分システムの構築が当面の課題として捉えています。その中心となる廃棄物埋立地にも過去に多くの技術が導入されてきました(表1)。我々は追加コストの必要性が少なく、高度な維持管理を必要としない国産技術である、準好気性埋立のアジア地域への導入可能性について検証してきました。準好気性埋立とは、埋立地内に設置した配管を通じて水分の排出を推進し、その上で埋立地内で発生したガス(主に二酸化炭素とメタン)と外気の交換を促し、埋立地に浸透した酸素を活用して廃棄物分解を促進するという原理に基づく技術です。動力がほとんど不要である点、廃棄物分解の加速化によって汚水の水質が軽減される点、可燃性の温室効果ガスであるメタンの発生量を削減できるという点で、アジア都市にも適した技術であると考えています。ただし熱帯地域においては、雨季の集中的な降水の影響によって埋立地内の水分量が増えるため、効果的な排水によって外気の導入経路を確保することが技術上の課題です。同時に、排水された汚水を環境影響がないように制御することも求められます。準好気性埋立地から発生する汚水の水質はある程度軽減されていますが、雨季の汚水発生量の増加にも対応可能で、高度な維持管理や追加コストを必要としない処理技術として、人工湿地処理の適用が有効であり、準好気性埋立との組み合わせは環境上適正かつ持続的で実現可能性が高いことを明らかにしました。また、都市への統合的な廃棄物処理の導入を簡易に評価可能なスマホアプリを開発し、政策決定者の支援ツールとして提供しています(図2)。

埋立地管理方法と特性の表
表1 埋立地管理方法と環境・エネルギー的特性
簡易評価システムのアプリ画面
図2 アジア都市の廃棄物管理システムの簡易評価システム(アプリ画面)

 廃棄物埋立量の削減は、アジア都市において解決すべき急務のひとつです。技術、財政、社会的受容性を加味した上で、技術導入によりインセンティブを与えることの出来る埋立前処理の方法として、機械選別・生物処理技術(MBT)が挙げられます。MBTは破砕選別処理と生物処理の組合せによって、混合廃棄物を資源物、固形燃料、残さに分離するシステムです。アジアの湿潤した都市ごみを効率的に分離するには、適度に乾燥させることが必須ですが、我々は動力消費の少ない乾燥工程である「バイオドライ」技術を適用し、水分蒸発と生物分解により埋立される残さ量を元の廃棄物量の15%程度まで削減できること、および選別によって得られた固形燃料が産業用途で要求される品質を満足できるレベルであることを確認しました。ただし、元の廃棄物の性状や気候の影響により選別効率が低下することがあり、固形燃料品質の変動要因となることも示されました。MBTの自律的な成立には、生産される固形燃料が滞りなく流通することが必須で、都市熱供給・産業需要を確保することが不可欠です。品質を確保するための技術的検討に加えて、品質保証のためのスキームを構築することで、製造者とユーザーの間のコミュニケーションが容易となり、固形燃料の流通を促進することが期待されます。現在、国際標準化機構(ISO)において、廃棄物から生産される固形燃料の共通規格と評価方法の確立に向けた作業が進められており、当研究所からもメンバーが参画しています。

都市計画と調和した廃棄物管理システムの構築と事業化に関する研究

 都市レベルでは成長に伴う様々な歪みが廃棄物の諸問題を産み出し、その解決のために埋立量削減、環境汚染防止、資源・エネルギー効率性向上など様々な努力が重ねられている状況ですが、より小さい行政単位、たとえばコミュニティレベルであれば、環境配慮を前面に押し出した都市生活がアジア諸国で成立する時期に来ていると考えます。我々はこれまでの研究成果を元に、都市の代謝システムというべき生活廃棄物および下排水処理システムを、コミュニティレベルで自立的に運営し、衛生面・環境面における生活の質に関する満足度を高めるというコンセプトでの開発モデルを提示しています。コミュニティの開発に際して、包括的な環境対策を導入するプランを複数用意した上で、環境負荷の低減効果や費用便益分析を行っています。環境面での理想的な生活環境の達成が、居住者の好奇心と満足感を満たすことが明らかにできれば、そのインセンティブを民間開発だけでなく行政的な都市計画の一環に組み込んでいくことも可能になるのではないかと期待しています。

(いしがき とものり、資源循環・廃棄物研究センター 国際廃棄物管理技術研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の石垣智基の写真

先日、シュナイダー・アヴェンティヌスというビールを樽でいただきました。アルコール度数は8%とビールにしては高めですが、これを凍らせて濃縮した「アイスボック」は12%、さらにこれを蒸留した40%のお酒もあると聞き、
テンションと尿酸値が同時に跳ね上がりました。

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