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2018年10月31日

インドネシアのユニークな廃棄物管理・リサイクル政策

特集 アジア圏における持続可能な統合的廃棄物処理システムへの高度化
【調査研究日誌】

横尾 英史

 ごみの捨て方や分別のルール・仕組みは国によって違います。例えば、日本では自治体ごとに分別排出のルールが決まっていて、それに従って家の近くの指定された場所にごみを出せば、収集トラックが集めに来てくれます。しかし、一歩日本の外に出ると、自治体がごみの収集に家のそばまで来てくれない、そういう国もあります。私たちにとっては当たり前の仕組みも、ところ変われば全く異なる場合があります。

 筆者はごみの捨て方に関するルールや制度について経済学の考え方や分析方法を応用して研究しています。ここでは、インドネシアで近年進められているちょっと変わった取り組みについて紹介します。

住民による住民のためのごみ収集

 一つ目は、住民によるごみ収集の取り組みです。インドネシアでは自治体によるごみの収集サービスが日本ほど行き届いていない現状があります。筆者の研究対象地であるパレンバン市のあるエリアでは、ごみ捨て場まで家から徒歩10分以上もかかるという場合が珍しくありません。結果として、ごみ捨て場まで行くのが面倒になり近所の道端にごみを不法投棄したり、側溝に捨てたり(写真1)、空き地で燃やしたりしてしまう人がいます(写真2)。排水溝がごみで埋まっていると、大雨の時に洪水を引き起こす原因となりますし、ごみを燃やすと有害な物質が出て周辺住民の健康に悪影響を与える恐れがあります。また、道端にごみが散らかるのは衛生面でも問題となります。これでは廃棄物管理として適正とは言えません。

ごみで埋まった側溝の写真
写真1 ごみで埋まった側溝
不法投棄の写真
写真2 不法投棄・焼却されたごみ
三輪トラックの写真
写真3 収集に使う三輪トラック

 そこでインドネシア政府が考案した仕組みがTempat Pengolahan Sampah-3R(略称TPS-3R)モデルと呼ばれるものです。ここで出てくるTempat Pengolahan Sampahとはインドネシア語で廃棄物処理施設を意味します。そして、3Rとはリデュース・リユース・リサイクルのことを指します。コミュニティ内でボランティア・ベースの住民グループを作ってもらい、ごみ収集サービスの運営や最終処分量の減量化を担ってもらうのです。自治体として、収集に使う三輪トラックなどは用意します(写真3)。運営に携わる住民は収集スタッフを雇い、毎日あるいは二日に一回といったペースでコミュニティ内の家庭のごみを玄関で受け取り、自治体のトラックが来る集積所まで運びます。このサービスを受ける住民は対価としてサービス料金(例えば月額15,000インドネシアルピア)を運営側の住民に支払います。これは、屋台での昼食おおよそ一回分の金額です。

最終処分場の写真
写真4 パレンバン市最終処分場

 また、TPS-3Rモデルで収集したごみの処理方法にも特徴があります。日本では収集されたごみを焼却場で燃やし、残った灰を最終処分場に埋め立てる方式が一般的です。しかし、世界的にみると焼却処理してから最終処分をする国は決して多くありません。インドネシアを始めとした多くの国では収集したごみを野積み(オープンダンプ)することが一般的です。写真4はパレンバン市の廃棄物最終処分場の様子です。インドネシアでは、収集サービスが行き届いていないことに加えてこの処分場の確保も問題となっています。人口の増加や経済成長に伴って、ごみの発生量が増えており収集される廃棄物の量の増加が著しいのです。想像に難くないですが、野積み処分場が近隣に建設されることを嫌がる住民が多く、それゆえに新たな処分場の確保は自治体の悩みの種となっています。

 そこでインドネシア政府はTPS-3Rモデルで収集を担ってくれる住民たちに対して、さらにごみの削減も頼んでいます。政府が特に推奨しているのが、生ごみの堆肥化です。各家庭から収集した生ごみを砕いて適切に処理することで肥料をつくるのです。そして実は、TPS-3Rという言葉自体がこのようなごみの削減を行うための施設を指しています。写真5はパレンバン市にあるTPS-3R施設と運営側の住民です。(なお、写真中央には筆者もいます)。建物の中には生ごみの堆肥化を行うための設備が整備されています。自治体側がこれらの用地と設備を提供しました。ただし、実際の堆肥の製造は住民が行います。写真6は集めたごみを運営側の住民が分別している様子です。資源ごみとして売ることができる空き缶、プラスチック製品、段ボールなどを取り除き、その上で生ごみを選り分けます。その後、機械を使って生ごみを砕き、写真7の設備を使って乾燥・発酵させることで堆肥を製造します。製造された堆肥はコミュニティ内の植物を育てる際などに使われます。時には近隣の農家に販売する場合もあります(写真8)。このようにして、ごみの一部を堆肥として再利用することで、最終的に野積み処分されるごみの量を減らそうとしています。

住民たちの写真
写真5 収集・減量を担う住民たち
分別の様子の写真
写真6 収集したごみの分別の様子
堆肥化設備の写真
写真7 TPS-3R施設内の堆肥化設備
堆肥の写真
写真8 販売用の堆肥

ごみでお金が貯まる銀行

 日本にはペットボトルや空き缶の分別ルールがたくさんあります。しかし、インドネシアを始めとするアジアの国々では分別ルールがないことの方が一般的です。つまりごみを何でもまとめて捨てられるわけです。しかし、ペットボトルや空き缶などを買い取る業者は世界中にいて、これらのごみを分別すれば多少のお金を得ることができます。次に紹介する「ごみ銀行」というインドネシアの取り組みは、こうしたペットボトルや空き缶などに対する需要を背景にしており、リサイクルを推進することでごみの最終処分量を減らし、資源の有効利用を促そうという試みです。

 「ごみ銀行」は一般の家庭から資源ごみを買い取り、リサイクル業者に引き渡す組織・グループです。元々は企業やNGOによる社会的活動の一環として始まりました。自治体がごみ銀行の運営に積極的に関与する場合もありますが、多くは思い立った住民が立ち上げて運営しており、コミュニティ規模の自発的なリサイクル活動といえます。近年、インドネシア政府は省令を施行するなどしてごみ銀行の設立・運営を公的にも後押ししています。

通帳の写真
写真9 サクラごみ銀行が発行する通帳

 多くのごみ銀行の特徴として、資源ごみを引き取る際にその場ですぐに現金を渡すのではなく、資源ごみの時価相当額を通帳に記録していくという点があります。顧客はごみ銀行に資源ごみを引き渡し、自分の口座に貯金をしていきます。預金引き出しのルールは銀行によってまちまちですが、多くの場合、一定期間以上経つと現金を引き出すことができるようになります。写真9はパレンバンのサクラごみ銀行が発行している通帳です。

 預金をしても一定期間以上経たないとお金を引き出すことができない。この一見すると不便な仕組みが、逆に多くの人の心をつかんでいるようです。「手元にお金があるとついつい使ってしまう」という経験はありませんか?貯金をしたいけれどなかなか貯まらない。そして今まで捨てていたごみが、リサイクルを行うことでお金になる。こういった人間の心理に着目した仕組みと言えます。これが功を奏し、楽しみながらリサイクルに取り組む人が増えています。ただし、この仕組みが絶対というわけでもなく、即日換金を認めているごみ銀行もあるようです。それでも換金履歴を通帳に記録してして見える化しているようです。それぞれのごみ銀行がかなり柔軟に運営している点もまた、インドネシアならではといえます。

 パレンバン市では、2017年時点で二つのごみ銀行が活動していました。いずれも住民の有志が立ち上げたものです。一つ目はレインボーごみ銀行です。ある主婦の方が思い立って始めた活動です。レインボーごみ銀行では顧客が引き渡した資源ごみの量や貯金をノートに手書きで書き込んで管理しています(写真10)。もう一つは上で通帳を紹介した、サクラごみ銀行です。サクラごみ銀行は2014年から2017年の期間に日本の国際協力機構(JICA)から支援を受け、運営方法や新規顧客の獲得などの技術的なサポートを得ました。このごみ銀行では写真11の建屋に資源ごみを保管しています。また、顧客・預金管理にパソコンを導入するなどの業務効率化にチャレンジしています。

顧客管理ノートの写真
写真10 レインボーごみ銀行の顧客管理ノート
ごみ保管庫の写真
写真11 サクラごみ銀行のごみ保管庫

 国が変われば様々なルールや仕組みが異なります。インドネシアでは、日本以上に住民に対して様々な角度から廃棄物管理への協力を求めていると言えます。以上で述べたような、住民の積極的な関与や自発的なやる気に依存した制度がどの程度うまく機能し、継続するのかどうか。もっと改善できる余地はないか。それぞれの国に適したルールや仕組みを発見・発明したいと考えて、今後も研究を進めていきます。

(よこお ひでふみ、資源循環・廃棄物研究センター 国際資源循環研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の横尾英史の写真

学会発表のため、6月末にスウェーデンに滞在しました。太陽が昇っている時間の長い季節でした。日本との時差、さらにはワールドカップ観戦の必要性もあり、体内時計がおかしなリズムを刻みました。

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