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2014年2月28日

「持続可能な発展」と「持続可能性」

特集 持続可能な社会への転換方策
【環境問題基礎知識】

亀山 康子

 最近、「持続可能」ということばを、世の中でよく耳にするようになりました。それに伴い、実際にそのことばが意味するところも、使われ方によってまちまちなようです。しかし、元来は、単にものごとが継続することを意味するのではなく、環境分野と関連して使われてきた概念ですので、その由来と最近の状況について簡単にご紹介します。

「持続可能な発展」とは?

 1950年代以降、急激な工業化によって、先進諸国で公害が生じるようになりました。また、エネルギー資源をはじめとする自然資源の消費量が格段に増えました。他方で、アフリカやアジアの多くの国は、植民地という状態から独立国家として生まれ変わった後も思うように経済的発展を遂げることができず、途上国として取り残されるようになりました。また、死亡率の低下とともに人口増加率が上昇し、その現象は人口爆発と呼ばれるようになりました。

 南北格差が広がる中、1970年代には、公害対策を一段落させた先進国が、世界の資源枯渇や人口増加を懸念し、1972年に国連人間環境会議(通称ストックホルム会議)を開催しました。しかし、先進国の懸念は、「公害は先進国病、贅沢病だ」とする途上国の反対に合い、認識の相違が浮き彫りとなりました。また、一つの国の中でも、環境保全と経済成長はしばしば対立概念として受け止められ、経済成長を犠牲にしないと環境保全できないという考え方が大勢を占めていました。

 このような状況を克服するために1980年代に生まれた「持続可能な発展(sustainable development)」という概念は、環境保全と経済成長が対立するものではなく、両立し互いに支えあうものであることを示すものでした。環境破壊や資源枯渇は、人々の健康を害し、経済活動に支障をきたします。翻って、順調な経済成長は、省資源型の技術開発や、環境保全に向けた投資拡大に役立ちます。環境保全と経済成長は、人間社会の良好な発展の両輪として位置づけられたのです。最も知られている定義は、1987年に国連「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)が公表した最終報告書にある「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」というものです。

 その後、1992年に開催された国連環境開発会議(通称地球サミット)等を経て、持続可能な発展概念の中では、環境保全と経済成長に加えて、途上国の貧困や教育など人間の社会的側面の充実の重要性が指摘されるようになりました。環境・経済・社会の3要素は、持続可能な発展を支える「トリプル・ボトムライン」とも言われています。また、このトリプル・ボトムラインの実現に向けてどのような「制度」が実施されているかという点を評価に加えて、環境・経済・社会・制度の4要素で構成される「持続可能な発展指標」が多くの国で策定されています。

「持続可能性」とは?

 「持続可能な発展」が環境問題や途上国の開発問題を扱う専門家の間で用いられるようになったのは1980年代からですが、より幅広く社会全般で用いられるようになったのは2000年代に入ってからでした。そのときには、従来よりも広い領域や分野を対象としうるよう「持続可能性(sustainability)」となりました。このことばだけでは、何がどう持続することを表現しているのか分かりにくいですが、「持続可能な発展」概念が基礎になっていることをふまえれば、人間が生きていく中で質的な発展が求められている点や、あるものが持続する背後で環境配慮や社会的なゆたかさも同時に目指されているという点が重要であることはお分かりいただけるかと思います。

 「持続可能な発展」を議論するうえでの一つの課題は、対象とする社会ごとに、重要となる要素が違ってくることでした。世界全体を対象とする場合は、途上国の貧困や地球規模での環境問題が持続可能な発展を実現する上で重要な項目となります。しかし、先進国を対象とした場合は、更なる「発展」よりもむしろ現在までにすでに達成されたゆたかな状態を維持させることのほうが重要であるかも知れません。あるいは、国内の自治体を対象とした場合は、その地域ならではの課題が克服すべき問題となるでしょう。「持続可能性」は、「持続可能な発展」で捉えきれないさまざまな状況を反映しながら普及したといえます。

「持続可能な発展」「持続可能性」を計るための指標

 わたしたちは、定期的な健康診断の受診をもって、健康状態の維持に努めます。同様に、現状がどれほど持続可能な発展を実現しているのか、あるいは持続可能性の観点から理想的な状態に近づいているのか、という水準を継続的に計測することが、持続可能な発展そのものにとって重要と考えられています。

 持続可能な発展を計測するための指標作りは、同概念ができた1980年代から積極的に行われてきました。化石燃料のように一度使ってしまうと元に戻らない枯渇性資源と、魚類や木材のように、適正に管理すれば使い続けることができる再生可能資源に分け、それぞれで消費量を計測する物的な資源勘定体系は初期の段階から用いられ始めました。また、環境の劣化や資源の減少を経済的に評価してGDP等の経済指標を修正する、いわゆる「グリーンGDP」と呼ばれる指標も開発されてきました。これらの初期の指標の多くは、環境保全の価値を経済成長の指標に反映させることを目的としていたといえます。

 しかし、その後、持続可能な発展概念に、環境・経済だけでなく社会・制度の要素が加えられるようになり、単一の指標では表現しきれなくなってきました。また、「持続可能性」ということばの普及とともに対象範囲が拡大すると、計測すべき指標にも多様性が生じるようになりました。そこで、最近では、単一の指標を作るというよりは、一連の指標の組み合わせで全体としての健全性を見ていこうとする動きが一般的となっています。例えば、環境・経済・社会・制度の各分野の中で同じ数の指標を選び、すべての指標が満足する水準となるよう計測し続けていく方法です。このような方法で、多面的な社会の健全性を包括的にチェックしていくことができます。反面、ある分野を代表する指標としてどの指標を選ぶのかという手続きの問題や、ある要素と別の要素との間でなんらかの関連性があるときの対処方法など、課題が残されていることも事実です。また、一般的に社会経済的成長は数年という比較的短期で評価されますが、環境劣化等は数百年という比較的長期で検討されるべきで、このような時間軸の違いへの対処方法も残された課題です。

「持続可能性」と個人の幸福

 ここで見てきたとおり、持続可能な発展や持続可能性の概念は、基本的には社会を対象とした概念です。他方で、対象を個人とした場合、個人の主観的な幸福感が個人の健全な継続にとって重要といえます。社会の持続可能性でさえ、究極的には、現在あるいは将来に生きる人々の幸福のためともいえるでしょう。国内総生産(GDP)等の指標で見れば経済的にゆたかであるにもかかわらず自分が幸せだと感じていない人が少なくないという話も聞かれます。個人の幸福度指標も開発される中、個人の幸せと社会的な持続可能性との両立がわたしたちが目指すべき最終的なゴールともいえるでしょう。

(かめやま やすこ、社会環境システム研究センター持続可能社会システム研究室長)

執筆者プロフィール

亀山 康子

健康維持と環境保全そして燃料代節約の自転車通勤は、最も「持続可能な」通勤方法と自負。通勤途中にある公園を通過しながら自然の四季を楽しみ、幸福感もアップ。

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