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肌にダメージを与えない範囲で、
最適な紫外線照射時間を広く知らせる

Summary

オゾンホールの発見以降、危険な太陽の紫外線をなるべく避けるような生活が一般的になったせいで、特に最近若年女性の間でビタミンDの欠乏が広がっています。私たちは、健康に害を及ぼさない範囲で10μgのビタミンDを生成するのに必要な紫外線照射時間の情報を、HPやスマホから準リアルタイムで提供しています。

2000年代以降、日本国民の間にビタミンD不足が顕在化

 ビタミンDは、魚類やキノコなどの食品に含まれますが、食品からの取得だけでは不足しやすいので、適度な日光浴による皮膚での補給が不可欠です。カナダや北欧など、太陽があまり高く昇らない高緯度地域の国々では、特に冬は太陽光を浴びるだけでは皮膚からのビタミンDが十分に生成されず、骨関連の疾患を防止するため、ビタミンDを含んだサプリメントの摂取が必須です。一方、日本などの中緯度や低緯度に位置する国々では太陽高度が十分高いため、外に出て通常の太陽光を浴びる生活をしている限り、ビタミンD欠乏はあまり起こらないと従来は考えられていました。  

 ところが、2000年代あたりから、日本人の特に若年女性の間に、ビタミンDが不足もしくは欠乏し、骨関係の疾患(O脚、くる病、圧迫骨折、骨粗鬆症など)が増加しているという報告が増えてきました。この時期は、1985年の南極オゾンホールの発見に端を発した、紫外線は皮膚に有害で最悪の場合には、皮膚がんなどの原因になるといった情報が世の中に広がった時期と重なります。実際、それまで「母子手帳」にあった「赤ちゃんには日光浴をさせましょう」という記述が、1998年以降は「外気浴」に変更されました。その結果、美白ブームなどもあいまって、最近では若年女性の間にビタミンD欠乏が発生したと考えられます。

 実際には、肌や目に悪影響を及ぼさない範囲で、必要なビタミンDを日光浴によって生成させることは可能です。しかしこれまで、関連する機関や学会等は1日の日光浴の目安として、図5のような大ざっぱな推奨時間しか示していませんでした。皮膚で生成するビタミンDの量は浴びる紫外線強度にほぼ比例し、紫外線強度はその場所の緯度・経度、季節(月日)、時刻(これらにより、太陽の天頂角が決まる)、天候、上空のオゾンやエアロゾルの量などに依存して、大きく変化します。日本だけに限ってみても、場所や各季節に有効な単一の日光浴目安時間を示すことは困難です。そこで、私たちはこの「もっともふさわしい」日光浴時間の情報を、何らかの形で提供することができないかと考え、研究を始めました。

各機関のHP等に示されているビタミンD生成に必要な紫外線照射時間の図
図5 各機関のHP等に示されているビタミンD生成に必要な紫外線照射時間

放射伝達計算によるビタミンD生成量の見積もり

 地上に到達するビタミンDを生成するB領域紫外線(UV-B)強度の計算は、SMARTS2と呼ばれる放射伝達計算モデルを用いて、ある日、ある時刻、ある場所での太陽から地表に達する波長別紫外線強度(W/m2 nm)を計算しました。その際、上空のオゾン量とエアロゾル量は、直近の気象庁の観測データから引用しました。皮膚でのビタミンD生成量は、上記の計算で求めたUV-B強度にコラム④の図4のCIEによるビタミンD生成作用曲線をかけ、波長範囲で積分することによって求められます。このようにして求めた晴天日におけるビタミンD生成紫外線量の計算値を、2007年の茨城県つくば市の高層気象台におけるブリューワー分光光度計による各日の観測値から求めたものと比較した結果を、図6に示します。図で見る通り、両者の間には良い一致をみることが出来ました。    

2007年つくば市の12時におけるビタミンD生成紫外線量の観測値と計算値の比較の図
図6 2007年つくば市の12時におけるビタミンD生成紫外線量の観測値と計算値の比較 
計算は快晴日についてのみ行っている。

 さらに、単位紫外線量当たりの皮膚でのビタミンD生成量の値を過去の文献から採用し、太陽光に露出した肌の面積をかけ、スキンタイプの補正を行うことで、ビタミンD生成量の見積もりが可能となります。このようにして、実際のヒトの皮膚でのビタミンD生成量の見積もりが可能となりました。計算では同様に、UV-B照射により肌に紅斑が生じ始める最少紅斑紫外線量(1 MED: Minimal Erythemal Dose)に達するまでの時間も、同様に求めることが出来ました。

「有害紫外線モニタリングネットワーク」の紫外線観測データの活用

 国立環境研究所では地球環境モニタリングの一環として、1990年代から簡易の紫外線測定装置を利用した有害紫外線照射量のモニタリングを行ってきました。この紫外線計は、コラム④にある紅斑紫外線量を測るものですが、ビタミンD生成量の計測にも活用できることが計算からわかっていました。そこで、私たちは放射伝達計算から求めた紅斑紫外線量とビタミンD生成紫外線量の関係をもとに、有害紫外線モニタリングネットワークのデータから、ビタミンDを生成する紫外線照射時間を導出することが可能になりました。この結果をもとに、実際の紫外線観測データから、その観測地点において1日に必要だと見込まれる10μgのビタミンDを体内で生成するのに必要な時間と、1 MEDに達するまでの時間をリアルタイムで求め、研究所のHPから即時提供するシステムを構築しました。図7に、2020年3月3日のつくば市におけるデータを示します。また過去の観測データを集計し、その季節の典型的な紫外線照射時間を表の形でも提供しています。

2020年3月3日のつくば市におけるUV-B/UV-A観測データをもとに計算した、10μgのビタミンDを生成するのに必要な紫外線照射時間(青:長そで、緑:半そで)と、1 MEDに達するまでの日光照射時間の図
図7 2020年3月3日のつくば市におけるUV-B/UV-A観測データをもとに計算した、10μgのビタミンDを生成するのに必要な紫外線照射時間(青:長そで、緑:半そで)と、1 MEDに達するまでの日光照射時間 
日本時間12時の場合、スキンタイプType IIIの人なら半そでで7分、長そでで15分間の日光浴をすることで、約10μgのビタミンDを生成することができます。一方、日焼けが始まる最少紅斑紫外線量(MED)に達するまでの時間は40分で、それ以下の時間の紫外線照射であれば、日焼け止めを塗らなくても日焼けやシミ・しわを心配する必要はありません。

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