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紫外線による日焼けとビタミンD生成に関する研究の現状

研究をめぐって

紫外線の健康への影響の研究は、1985年の南極オゾンホールの発見後、活発に行われるようになりました。紫外線増加に伴う皮膚がんや白内障へのおそれから、健康への悪影響を評価する研究から始まり、最近では、ビタミンD生成による健康への正の側面に焦点を当てた研究も徐々に広がってきています。

世界では

 地上20 km付近の成層圏に存在するオゾン層は、太陽からの有害な紫外線のうち特に人体や生物に危険なUV-CやUV-Bを吸収し、私たち陸上生物が地上で生活する環境を作っています。1985年の南極オゾンホールの発見は、このオゾン層の破壊を示しており、地上にやってくる紫外線量の増加が懸念されました。南半球中緯度に位置するオーストラリアやニュージーランドは、ヨーロッパや北米に比べて低緯度に位置し、通常でも紫外線強度が強い場所に肌の色の白い白人系の欧米からの移民が多く住んでいるため、もともと紫外線が原因で皮膚に出来る「皮膚がん」の罹患率が高く、紫外線の動向への関心が高いです。それが、オゾンホールの発見以降、より紫外線に関する関心が高まり、この2カ国がホスト国となって、1997年から約4年に1回「紫外線国際会議(International UV Workshop)」が開催されています。会議では、初期のころはオゾン層破壊に伴う紫外線増加が中心的な話題でしたが、最近では紫外線によるビタミンD生成に関する話題も少しずつ取り上げられています。

 米国、ノルウェー、ドイツ、ロシアなどでも、紫外線によるビタミンD生成に関する研究が多く行われています。ちなみに、黄色人種や黒色人種に関しては、太陽紫外線によって皮膚がんが発生することはほとんどないと考えられています。

日本では

 日本では1970年代から、神戸女子薬科大学のグループが中心となって、日光照射とビタミンD生成に関する研究が精力的に行われてきました。1994年から共学となり、名称が神戸薬科大学となってもなお、長いことビタミンD研究の日本の核の一つになっています。その他にもビタミンDに関連した研究者は、京都女子大学、京都大学、大阪樟蔭女子大学、東京家政大学、新潟大学、徳島大学、順天堂大学、慶應義塾大学、岩手医科大学、大阪府立大学など、全国各地の大学に存在しています。研究者たちの所属学会も、日本ビタミン学会のほかに、骨代謝・整形外科関連や小児科、産婦人科関連の医学系学会、薬学系の学会、照明や紫外線関連の学会など、多岐にわたっています。

 2000年代半ばごろから、日本人のビタミンD不足や欠乏に関する報告が少しずつ増えており、その原因として栄養の偏り(魚を食べない生活)や、紫外線照射不足が指摘されています。血中ビタミンD濃度の測定には専用の測定器を用いる必要があり、通常の人間ドックや血液検査などではビタミンD濃度を知ることはできません。しかし、コラム②で示した通り、日本人の多くはくる病や骨粗鬆症になる一歩手前のビタミンD欠乏、もしくは不足状態にあるといわれています。このような状況は、血液の高脂血症や高血圧と同様に、病気になる寸前の生活習慣病状態にあると考えられます。

 最近、普段の食生活や通常の紫外線照射頻度をもとに、10項目程度の質問に答えることで、ビタミンD充足状態を簡便に推定する手法が大阪府立大学の研究者を中心として開発されました。読者のみなさんもぜひ骨の健康のため、ご自分のビタミンD健康状態に留意し、その日の紫外線強度に合った適度な時間での日光浴を心がけていただきたいと思います。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、2012年から紫外線によるビタミンD生成に関する研究を開始しました。東京家政大学を定年退官した宮内正厚先生を迎え、大学で行っていた紫外線によるビタミンD生成に関する研究を発展させて、4報の論文にまとめました。さらに、以前から地球環境モニタリングの一環として1990年代から行ってきていた「有害紫外線モニタリングネットワーク」の紫外線観測データを活用し、その日、その場所、その時刻に体内で生成するであろうビタミンD量を、準リアルタイムに計算によって求め、研究所のHPから即時提供するシステムを構築しました。また、スマートフォンなどの携帯端末でも確認できるようなページも作成しました。おかげで、最近ではマスコミやメディアでも少しずつ、紫外線によるビタミンD生成の重要性が取り上げられています。1987年締結の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が功を奏し、成層圏オゾン層は回復への道筋がつけられ、それにともなって全国に展開していた紫外線観測ネットワークが最近では縮小傾向にあります。しかし、紫外線によるビタミンD生成という別の観点からの紫外線データの活用のため、今後とも全国での紫外線観測をできる限り継続していきたいです。

 今後は他の大学の研究者と共同で、実際の人を対象に、紫外線照射と体内ビタミンD量の相関関係を調べる研究も進めていきたいと考えています。

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