土壌生態系への重金属の影響
研究ノート
服部 浩之
土壌中にはさまざまな微生物が生存し、その総数は土壌1gあたり約1億に達する。これら土壌微生物は地球表層における物質循環の重要な担い手であり、地球上で生産される全有機物の約90%を分解している。
土壌が重金属で汚染されると、微生物がその影響を受け、有機物分解機能も低下する。しかし、その影響は土壌の種類によって異なり、一様でない。例えば、カドミウムの場合、砂質土では土壌中の濃度が10ppmで有機物分解機能が低下しはじめるが、火山灰土では100ppmでもほとんど影響を受けない。一般に、有機物や粘土を多く含む土壌ほど、またpHの高い土壌ほど、重金属が不活性な形態になるため、土壌微生物への影響は小さくなる。そこで、重金属の土壌生態系への影響を評価するには、活性な重金属量を測定する必要がある。いくつかの抽出剤を用いて土壌中の活性なカドミウムの抽出を試みたところ、水で抽出されるカドミウム量と有機物分解量の間に明瞭な関係がみられた(図)。すなわち、どの土壌でも水溶性カドミウムが1ppm以下では有機物分解量への影響がほとんどないが、1ppm以上になるとその量に比例して有機物分解量が低下した。このことから、土壌中の水溶性のカドミウム量を測定すれば、多くの土壌でその有機物分解機能への影響を評価できると考えられる。
土壌生態系は複雑であり、また種々の要因によって影響されるため、ある土壌で見出された現象が他の土壌にも適用できるとは限らない。土壌生態系に加わるさまざまな負荷の影響を評価する場合、これら多様な土壌に共通な現象を引き出していくことが必要だと思う。
(はっとり ひろゆき、水質土壌環境部土壌環境研究室)
目次
- 国立環境研究所としての新展開巻頭言
- 野外研究を大切に論評
- 地方公害研究所と国立公害研究所との協力に関する検討会(第9回)の報告所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介
- 広域都市圏における交通公害防止計画策定のための環境総合評価手法に関する研究特別研究活動の紹介
- 環境水中に見いだされる新たな汚染物質経常研究の紹介
- 第5回全国公害研究所交流シンポジウム所内開催又は当所主催のシンポジウム等の紹介
- 環境汚染のリスクアセスメント − 健康リスク評価の問題点を中心として −環境リスクシリーズ(3)
- 故岩田敏研究員を偲んでその他の報告
- 快適な暮らしの代償としてのリスク環境リスクシリーズ(4)
- 都市大気汚染の解明へのアプローチ研究ノート
- INSTAC計画に参加して海外出張報告等
- 土の緩衝能−土の土としての機能−経常研究の紹介
- Duke大学での研究生活海外からの便り
- 新刊・近刊紹介
- 主要人事異動
- 編集後記