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2017年4月28日

「統合」がもたらす新たな科学研究にむけて

特集 気候変動の緩和・適応から多様な環境問題の解決に向けて

藤田 壮

 「統合研究プログラム」はその名前の通り様々な環境問題を統合的に取り扱うことによって、社会や経済の価値と一緒に環境の価値を高める将来を実現するための理論と手法を開発しようとして始動した研究です。気候変動への対応、資源循環、自然共生、安全確保という環境問題を個別に解決するのではなく、それぞれの問題を一体的に解決する将来目標とともにそこに到達する道筋を具体的にデザインすることが大切であるとの立場に立ちます。この統合のアプローチによって、短期的な成果や効率化などを指向しがちな社会の潮流に対して、長期的な視点に立った「持続的な環境社会」を社会のあり方として提示することで、バランスのとれた社会の議論を可能にするための科学的根拠を提示したいとの考えが、この研究プログラムが始まった背景にあります。

 この研究プログラムは、平成27年8月の中央環境審議会の答申「環境研究・技術開発の推進戦略」のなかで、国立環境研究所に求められる、「環境科学分野における牽引的な役割」を果たして、「環境政策の決定において有効な科学的知見を提示」する役割も担っています。また、環境研究の中核的研究機関として、環境問題の解決だけでなく経済・社会的な課題の解決をも見据えた統合的な研究を先導する役割に貢献する研究プログラムでありたいと考えています。

 「統合」という言葉にはいろいろな考え方が含まれます。統合研究プログラムでは最初の取り組みとして「統合」研究の概念を定義することから始めました。様々な環境問題を束ねて取り扱う「統合」、環境問題をまとめて解決することで環境の改善を経済開発につなげるという「統合」、長期的に目指すべき目標に向けて現在優先的に通り組むべき事業や政策を明らかにすることなど時系列の「統合」、さらに地球規模や国全体の目標に貢献しうるように地域や都市などの個々の取り組みを計画に反映するというスケールの「統合」、などを定義し、それぞれの「統合」について個々のプロジェクトやサブテーマで取り組んでいます。統合研究には、環境研究の知見を実際の政策や地域開発で実現するという理論と社会実装の一貫的な取り組みも必要であるとも考えており、社会実装を通じて、研究の取り組みの論理性と有用性を検証する研究も行います。そのためには研究の理論と手法を用いてビジョン設計から計画策定に貢献したうえで、事業などの形で社会に実装するプロセスを一般化することも研究の重要な要素となります。これらの「統合」研究の取り組み一つ一つが、新しい「科学研究」として新規で独自で有用な知見を社会に提供できるものと信じています。

 統合研究プログラムでは、これらの「統合」研究にそれぞれの研究者が各自のこれまでの専門分野で取り組み、それぞれの分野間や手法間の統合が必要になる際に所内での各研究領域との連携を強化することを想定しています。取り扱う分野によっては所内の研究にとどまらず、所外の幅広い研究機能と連携することによって、しなやかでかつ機能的な研究ネットワークを構築することを期待しています。具体的には、持続可能な社会の実現ビジョン・理念の提示とともに、その実現に向けた新たな技術シーズと社会転換の仕組みの発掘に対して、人文・社会科学領域など従来の環境分野の枠を超えた研究コミュニティとの連携を進めながら取り組むことを掲げています。さらに、世界、アジア、日本、地域、都市等の様々な領域の研究に取り組み、いずれかの領域に焦点をあてるのではなく、様々な環境問題の解決のための施策の計画と社会・経済活動の中でその効果を定量的に評価するマルチスケールのモデル開発を行うことを計画しています。

 本号では増井室長から統合研究プログラムの全体像について紹介し、高橋主任研究員から研究プログラムの重要な要素でもある、地球規模の気候変動へ対応するシナリオ設計の研究について紹介します。さらに、森主席研究員から国際的な環境の規格であるISOについて、芦名主任研究員から研究プログラムとも関連する社会モニタリング研究について紹介します。皆さんが環境と社会について考えるための方向性をご提示するとともに、皆さんからのフィードバックを受けながら研究を進めていくことができればと願っています。

(ふじた つよし、社会環境システム研究センター長)

執筆者プロフィール:

執筆者写真 藤田 壮

「環境」を「研究」することはなんとありがたい仕事かと改めて感じています。楽しく、明るく、ポジティブに研究の仕組みづくりと情報発信に取り組んでいきたいと願っています。

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