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2017年4月28日

持続可能なアジアの未来に向けて 第2回NIES国際フォーラム開催報告

【行事報告】

研究事業連携部門

 2016年4月に開始した国立研究開発法人国立環境研究所(以下、NIES)の第4期中長期計画では、研究ネットワークを更に発展・充実させるとともに、蓄積された科学的知見を適切に発信することを掲げています。その一環として、2017年1月26日~28日にかけて、インドネシアのバリ州・デンパサールを拠点とするウダヤナ大学にて、「第2回NIES国際フォーラム/2nd International Forum on Sustainable Future in Asia」を開催しました。講演者も含めて約150名の参加者を集め、さまざまな分野の専門家や政策担当者等による発表と、来場者も交えた持続可能なアジアの未来に向けての活発な議論が行われました。また、同時開催で42件のポスター発表も行われ、多様な研究事例についての発表と意見交換がなされました。

 今年度のNIES国際フォーラムは、2015年の環境分野における歴史的なできごとを受けて準備が進められてきました。2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議では、仙台防災枠組2015-2030(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030)が採択され、9月に開催された国連持続可能開発サミットでは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」が採択されました。さらに、同年11月開催の気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)ではパリ協定(Paris Agreement)が採択されました。このように、持続可能な開発、そして気候変動という問題に対して、国際社会は解決に向けた姿勢を一挙に強めてきています。

 その一方で私たちが住むアジアの状況を見まわしてみると、世界最大の人口を有しながらも、さらなる人口増加や急速な工業化、都市化の影響から、様々な環境問題が起こっています。これらの環境問題を解決してアジアが持続可能な発展へ移行していくことなしに、世界の持続可能な発展は達成できないのではないでしょうか。

 こうした状況の中で、アジア地域の研究機関や政策担当者等との連携を強化することを目的に、アジア各国でNIES、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)及びアジア工科大学院(AIT)が中心となって最新の研究成果や政策動向を共有するとともに、科学と政策との協働のためのプラットフォームを構築するために2015年度から年に一度国際フォーラムを開催することにしました。

レセプションの写真
歓迎のバリ舞踊
挨拶時の会場の様子の写真
住理事長挨拶の様子

 第2回となる今回のフォーラムでは、アジアでも注目されている5つの環境問題について講演と議論を行いました。「環境モニタリング」、「環境リスクと健康」、「廃棄物管理とリサイクル」、「生物多様性」、そして「気候変動への適応と緩和策の連携」です。本稿では、各セッションでのまとめとともに、最後のセッションで示された研究連携に関する共同声明について報告します。

 「環境モニタリング」のセッションでは、リモートセンシング技術を様々な環境情報の観測に活用している事例についての発表が行われました。人工衛星を主たる観測装置として、沿岸環境の変化、災害、温室効果ガス、森林の状況など、多岐にわたる対象を観測した成果が報告され、観測データはたくさんあるものの、それらが人々の実生活に役立つように応用される必要がある、といった問題提起がありました。また、NIESと環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進めている温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクトの成果報告に対しては、その解像度やモニタリングできる物質についての質問があり、インドネシアやアジアにおいてGOSATを利用した環境モニタリングへの関心の高さが窺われたところです。

 「環境リスクと健康」のセッションでは、日本が過去経験した環境問題とその解決策の経験について振り返るとともに、現在インドネシアで問題となってきている環境問題についての発表がありました。昨今のインドネシアでは安全な水の供給や、廃棄物管理に関する課題などに加えて、観光(ツーリズム)による課題なども起こっています。安全安心な環境は持続可能な社会の基盤となるものであり、環境のリスクやそれによる健康への影響について考えることは、持続可能な社会のあり方について議論を進めるうえで欠かすことはできないということが認識されました。

 「廃棄物管理とリサイクル」のセッションでは、廃棄物管理とリサイクルの課題に対して、技術的なアプローチから、社会の仕組みの移行に関連する研究まで、さまざまな側面に注目した課題解決への取り組みが示されました。紹介された事例は、排水処理、都市ごみ、コミュニティの参画による廃棄物管理、バイオ燃料発電など、多岐にわたりましたが、いずれも私たちの日々の生活に深く関わるテーマであることがあらためてわかりました。

 「生物多様性」のセッションでは、陸域と海洋沿岸域の両方における生物多様性の保全についての取り組みが紹介されました。アジアは生物多様性のホットスポットが数多くあることから、この課題への対応は重要です。特にインドネシアは、遺伝資源バンクの研究で重要な地域の一つであると同時に、二酸化炭素の吸収・貯留において重要な役割を持つマングローブも多く存在します。今後、この地域がどのように生物多様性保全に取り組むのかは注視すべき点であり、そのための研究者と政策決定者等のステークホルダー間での相互協力が重要であることが示されました。

ステージに並んだ6名の写真
「気候変動への適応と緩和策の連携」セッションの登壇者たち
ポスターを使って説明する研究者の写真
ポスター発表の様子

 「気候変動への適応と緩和策の連携」のセッションでは、アジアのさまざまな地域での適応と緩和の事例についての発表がありました。気候変動への適応は今後ますます重要になっていきます。特に、発表中では“vulnerable people”(脆弱な人々)という表現があったように、環境変化に影響を受けやすいような生活をしている人々にとっては生活を脅かす課題ともなり得ます。このセッションの最後には、NIES、IR3S、AITの三機関が主体となって、気候変動に関する今後の研究連携に向けた共同声明を作成しました。その声明の中では、アジア太平洋地域において、主に取り組んでいくミッションとして、1.気候変動に関する最新の研究情報や解決策について共有する仕組みを構築してくこと、2.この地域の社会的要因も考慮した統合評価モデルを開発すること、3.学術機関のネットワーク構築について議論すること、4.専門家や研究者だけでなく、市民、企業、政策決定者など様々な関係者に対して気候変動に関する研修プログラムを実施すること、の4点が挙げられました。

 2日間の会議を通して、多様な分野の研究者たちや政策担当者等が研究成果や政策等の動向についての発表と議論を行いました。アジアで持続可能な未来を実現するには、どのような取り組みをしていくか、政策決定者や市民などのステークホルダーがどのように協働していくかなどの課題について、研究コミュニティも具体的に取り組んでいくことが求められています。NIESは、第4期中長期計画の研究活動の指針として「結ぶ・束ねる・繋ぐ・引っ張る」を掲げています。今後は、継続してそれぞれの研究を進めていくとともに研究ネットワークをより強化して結びつけることと、これらの成果を束ね、政策に繋ぎ、人々の実際の生活に還元していけるように工夫していくことが研究コミュニティの役割としてますます求められることでしょう。課題解決に向けた研究活動を引っ張っていけるよう、NIESも挑戦を続けていきます。

文:杦本友里・芦名秀一(研究事業連携部門)
写真:成田正司(企画部広報室)

バリの棚田の写真
ユネスコ世界文化遺産にも登録されているバリの棚田

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