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2021年12月28日

草原生態系の回復力強化および
適応性向上に関する研究

研究をめぐって

世界では、SDGsを達成するために、乾燥地社会・生態系システムの回復力強化および持続可能な開発に向けた道筋を示す研究が推進されています。日本では、モンゴル草原植物資源の有効活用による草地回復に関する研究が実施されています。国立環境研究所では、草原地域における気候変動や人為的攪乱による影響および適応策の評価に関する研究を進めています。

世界では

 世界では、持続可能な地球社会の実現をめざす国際協働研究プラットフォームであるフューチャー・アース(Future Earth)傘下の「全球陸域研究計画(GLP:Global Land Programme)」において、「全球乾燥地社会・生態系システム(Global Dryland Social-Ecological Systems)というワーキンググループが設置されています。このワーキンググループは、「乾燥地域の社会・生態系システムのダイナミクス、構造、機能、サービスを理解することは、SDGsにおける人間社会の脆弱性、回復力、生計、持続可能性に取り組むために重要だ」という認識の下で設置されており、全体目標は、乾燥地の社会・生態系システムが世界中で進行中の地球環境の変化にどのように対応するかについての理解を深めることにあります。また、SDGsを達成するために、乾燥地社会・生態系システムの回復力の強化と持続可能な開発に向けた道筋を示すための研究を推進することです。

 これら2つの目標達成に向けた、このワーキンググループの主な実施内容は、㈰乾燥地生態系の感受性と方向性、および地球システムと社会システムへのフィードバックの定量化、㈪自然および人為的攪乱に対する乾燥地社会・生態系システムの脆弱性と回復力を制御する要因の解明、㈫地球環境の変化が生態系サービス、人間の幸福度、乾燥地社会・生態系システムのダイナミクスに与える影響の評価、そして、㈬乾燥地社会・生態系システムの持続可能な開発を目指して、乾燥地の生態系管理と政策研究に基づいて解決策を推進することです。

日本では

 日本では、これまで草原生態系の崩壊と再生に関する研究が数多く実施されています。2006〜2013年に総合地球環境学研究所で実施されたプロジェクト「人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生」(リーダー:京都大学 酒井章子教授)では、近年顕著になってきた草原の劣化についての調査が実施され、従来言われてきたようなカシミヤ生産のためのヤギの家畜数増加に加えて、畜産物が高値で取引される首都周辺への家畜の集中と、家畜の過密化・土地の私有化などと関連した遊牧における移動量の低下が、草原劣化の重大な一要因になっていることを明らかにし、これらの成果は「モンゴル 草原生態系ネットワークの崩壊と再生」(藤田昇ら編著、2013年 京都大学学術出版会)に収録されました。また、岡山大学の吉川賢教授が主導した「北東アジアの乾燥地生態系における生物多様性と遊牧の持続性についての研究」(2011〜2013年)では、遊牧生産の持続性に欠かせない草原の「key resource」を中心とした、モンゴル草原の生物多様性と遊牧の持続性について、自然科学と社会科学の両面から検討されました。さらに、鳥取大学の山中典和教授が代表を務めた「東アジア砂漠化地域における黄砂発生源対策と人間・環境への影響評価」において、発生源対策研究の一環として、『モンゴルの放牧地植物』(Munkhiin Useg 社、2015年第一版、2020年第二版)という本が出版されています。この著書の共著者である東京大学の大黒俊哉教授は、長年にわたり、「砂漠化・土地荒廃プロセスの解明と植生回復技術の開発に関する研究」を実施されており、関連する著書には『草原生態学−生物多様性と生態系機能』(東京大学出版会、2015年)などがあります。

 最近では、国際科学技術共同研究推進事業として、「遊牧民伝承に基づくモンゴル草原植物資源の有効活用による草地回復」(研究代表者:東京大学大学院農学生命科学研究科 浅見忠男教授)(2019〜2024年)が開始されました。この研究では、主にモンゴル草原植物が㈰再生能、㈪環境ストレス耐性能、㈫薬理機能を高いレベルで保持できる理由についての詳細な解明研究に基づき、上記特性を有する植物ならびに植物成分の実装化を通して、荒廃するモンゴルの草原や家畜の健全な育成を目標に掲げています。

国立環境研究所では

 国立環境研究所では、2006年からの5年間、「温暖化影響早期観測ネットワークの構築」を実施し、東アジア地域をカバーできる衛星観測データや代表的な生態系における地上観測データを取得し、温暖化が永久凍土の融解や環境資源の劣化に及ぼす影響を評価しました。また、2012年からの3年間、「モンゴルの永久凍土地帯における脆弱性評価及び適応策の提言に関する研究」を実施し、温暖化に伴う永久凍土の融解が草原生態系に及ぼす影響を評価しました。さらに、2015年からの5年間、中央大学、(株)日立製作所、(社)海外環境協力センター等と共同で実施した「二国間クレジット(JCM)推進のためのMRV等関連するモンゴルにおける技術高度化事業(研究代表者:中央大学研究開発機構 渡邉正孝教授)」において、モンゴル全土の草原域における二酸化炭素吸収量の監視と評価を行いました。

 2018年から3年間、「水資源量に基づく乾燥・半乾燥牧草地の利用可能量とその脆弱性の評価」を実施し、モンゴルの代表的地域を対象に、気候変動に加え、鉱山開発、都市拡大など人為的攪乱が水資源および牧草地の利用可能量とその脆弱性に及ぼす影響を明らかにしました。これら一連の研究を十数年にわたってモンゴルの研究者と共に継続したことが認められ、2019年にモンゴルで開催された「第二回環境科学と技術国際会議(EST-2019)」で、モンゴル環境大臣署名の「名誉賞」を頂くことができました。

 現在は、気候変動適応研究プログラムにおいて、「草原域における気候変動による影響監視および適応評価」(図4)に関する研究を実施しています。この研究では、これまで開発してきた草原域の牧養力および脆弱性の評価モデルを活用し、飼料・水供給拡大や家畜頭数適正管理など牧畜産業の適応策を検討することで、牧養力に与える効果の定量的評価を試みています。研究成果は、AP-PLAT、Future Earth、政府間環境政策対話等を通じてステークホルダーへ科学的知見として提供し、草原域の適応計画の作成に寄与することを目指しています。最終的に、スマートな放牧に適した技術システム(図5)を構築し、草原生態系の保全と持続的な利用に貢献していきたいと考えています。

草原域における気候変動の影響および適応策の評価に関する研究の図
図4 草原域における気候変動の影響および適応策の評価に関する研究
これまで開発してきた草原域の牧養力および脆弱性の評価モデルを活用し、飼料・水供給拡大や家畜頭数適正管理など牧畜産業の適応策を検討し、牧養力に与える効果を定量的に評価します。

 現在は、気候変動適応研究プログラムにおいて、「草原域における気候変動による影響監視および適応評価」(図4)に関する研究を実施しています。この研究では、これまで開発してきた草原域の牧養力および脆弱性の評価モデルを活用し、飼料・水供給拡大や家畜頭数適正管理など牧畜産業の適応策を検討することで、牧養力に与える効果の定量的評価を試みています。研究成果は、AP-PLAT、Future Earth、政府間環境政策対話等を通じてステークホルダーへ科学的知見として提供し、草原域の適応計画の作成に寄与することを目指しています。最終的に、スマートな放牧に適した技術システム(図5)を構築し、草原生態系の保全と持続的な利用に貢献していきたいと考えています。

スマートな放牧に適した技術システムの構築に向けての図
図5 スマートな放牧に適した技術システムの構築に向けて
モンゴルの豊富な太陽光を利用した再生可能エネルギーや、衛星・ドローンなど最新の技術による家畜の適正管理によって、スマートな放牧システムを構築し、将来の草原生態系の保全と持続可能な利用につなげたいと考えています。

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