アオコの発生しない湖のために私たちは何をすればよいのでしょうか
研究をめぐって
日本でアオコ現象が問題になってから50年が経ちました。その間にアオコの原因となるシアノバクテリアの生態も明らかとなり、私たち自身が湖のアオコを招いていることもわかってきました。霞ヶ浦西浦の大規模なアオコは収束方向にあるように見えますが、霞ヶ浦北浦、八郎湖、そして世界にはアオコで困っている湖がまだまだあります。アオコ原因シアノバクテリアの研究を通じてアオコの発生をコントロールしながら、アオコの発生しない湖を目指したいと思います。
世界では
中国では、21世紀に入ってアオコの発生が頻発するようになり、特に太湖や巣湖において、深刻なアオコが発生し、水利用に重大な支障をきたすようになっています(図8)。そのため、近年ではMicrocystis aeruginosa(M. aeruginosa)によるアオコの発生状況、毒素の濃度に関する研究が増加しています。やはり、窒素・リンの供給過剰が問題であるとして、最近、中国では、環境基準が強化されていますが、水質の改善には至っていないようです。
アフリカにおいても、人口増加に伴い、ビクトリア湖を始め、ジョージ湖、エドワード湖などの湖においてアオコが発生しています。日本人研究者も研究に参加していますが、水道の普及が進んでいないケニアやウガンダでは、飲料水としても利用されており、アオコ問題は大きな課題となっています。一方、東南アジアでは年間平均気温が高く、冬の栄養塩や有機物の蓄積がないので、温帯や亜寒帯地方よりもアオコが発生しにくいのですが、経済発展を優先して対策が取られておらず、今後の水利用への障害が懸念されています。
日本では
日本では生活排水の処理などの対策が進み、多くの湖ではアオコの発生件数は減少しています。しかし、秋田県の八郎湖のように、現在でも毎年アオコが発生し問題になる湖もあります(図9)。窒素・リンは生活排水の他に、農地、畜産、宅地などの面源などからも供給されており、対策が困難な場合もあります。八郎湖の場合、湛水期の農地からの窒素の排出をどうやって抑えるかが課題になっています。
また、八郎湖の高濃度のリンによる富栄養化は湧水の影響も大きいことが試算されており、問題解決を難しくしています。さらに、普通は秋にはアオコは収束しますが、緯度が高く寒冷にもかかわらず、八郎湖では初冬までアオコが残存しており、耐寒性があるのではとの報告もあります(図10)。今後、M. aeruginosaの耐寒性への遺伝子解析によるアプローチも必要です。
また、窒素・リン濃度は霞ヶ浦よりも低い琵琶湖南湖でも毎年のようにアオコが発生しています。霞ヶ浦でも、北浦で毎年のようにアオコが発生し、西浦においても、M. aeruginosa濃度はアオコ発生ぎりぎりの状態で推移しています。さらに、浅いため池などでは引き続き、アオコの発生が水利用の大きな障害になっており、M. aeruginosaの増殖とアオコに至る過程、春から夏の窒素・リン濃度の制御など今後さらなる研究が必要になります。
国立環境研究所では
これまでに、アオコ原因シアノバクテリアの濃度の季節変動と、環境因子の関連から、複数の因子が霞ヶ浦のアオコの発生の有無にかかわっていること、M. aeruginosaの系統によって、毒素の産生の有無が異なることが明らかになってきました。今後も、引き続き霞ヶ浦のアオコ原因シアノバクテリアの種の遷移、また、M. aeruginosaの中での系統の変遷の調査を継続するとともに、富栄養化した湖沼の流域管理による、アオコ発生の抑止に関する調査研究を実施していく予定です。
また、微生物系統保存施設(NIESコレクション)では、Microcystis属、Planktothrix属、Dolichospermum属、Raphidiopsis属(旧属名:Cylindrospermopsis属)の培養株を数多く保存しており、とくにMicrocystis属の培養株は国内をはじめ、海外の研究者からも多くの需要があり、リクエストに応じて分譲を行っています。これらの培養株を使って、多くの研究成果が生み出されていることから、NIESコレクションでは今後も安定的に培養株の供給ができるように努めていきます。
さらに、地球温暖化などの気候変動によって、今後、アオコの頻発やアオコ原因シアノバクテリア組成の変化が想定されます。国立環境研究所では、気候変動に伴うアオコ問題についても2018年度から研究を開始したところです。今後もアオコ研究を続けることで、新たな問題にも対処していきたいと考えています。